地獄の始まり
どうしてロット人がモルスなんて何もない国に攻め込んできたのかは、前に立っている軍人が説明し始めた。
「お前たちはいま、『何故自分たちが侵略されているのか?』と疑問に思っているはずだ。だから親切は私が無能なお前らのために説明してやろう。
とりあえずこれを見ろ!」
そう言って前に出ている軍人は、軍服の上着の胸ポケットから、キラキラと光っている石のようなものを取り出した。
「これは”インフィニティ”と呼ばれる、モルスの地中でのみ生成される特殊な鉱石だ。このインフィニティという鉱石は、無限にも近しいエネルギーを生み出すことができる。
さらに、そのエネルギーの用途は無限大に広がっている。この鉱石さえあれば、我々ロット人が世界を取ることも容易いだろう。
まあ詰まる所、お前たちは私たちのためにこの鉱石を一生掘り続けるんだ」
その説明を受けて、私は戦慄と怒りを同時に覚える。なんて身勝手でワガママな奴らなんだ。どうして私たちがあなたたちのためにそんな事を……。どうして何もしていないお父さんが、目の前で殺されなくちゃいけないのか。
ふつふつと頭から足にかけて黒い感情が湧き出てくるが、ここで反抗しようものなら私もお父さんの後を追うことになる。だから今は大人しくしよう。手から止まらないほどの汗を流しながらも、それをギュッと握りこむ。
今はとりあえず、逆らわずに大人しく言うことを聞こう。じゃないと命がなくなってしまう。
これ以上ないほどの憤りをなんとか心に押し込めると、私は他の人たちの様子を見てみる。
幼馴染のクリフはガクガクと震えている。お母さんは顔面を真っ青にして、今にも泣き出しそうな表情をしている。他にも怒りを露わにしている者もいれば、泣き叫んでいる人たちもいる。
偉そうな軍人は、そんな人たちを黙らせるかの如く大声を出すと、船から色々な道具が詰まった箱を部下に持って来させた。
「よし、それでは早速ピッケルとシャベル。それからインフィニティがどこにあるのかを教えてくれる機械を配布する。インフィニティは地中のかなり深い場所に生成されているから、まずはそこまで地面を掘り起こす作業に入れ!」
怒鳴られた私たちは、不満げに道具を受け取ると地面を掘り始める。だが、この程度の作業だけで済むなら安いものだと少しだけ安堵した。
そう、この時だけは……。
私はまだ知らなかったのだ。本当の地獄というものを。平和と最もかけ離れた、凄惨というものを。