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火星にニンジャが舞い降りたとき  作者: 大和モモタロー
第8章 ゴッドランド
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2 生きる意味

 2


 目覚めるように、ふと意識の灯火が点いた。

 そこは病院の一室だった。

産声が上がる。

うわあああん、うわあああん――。

それはおれの産声だった。

まだ若いお袋がおれを胸に抱いていた。傍らには親父がいて、うれしそうに目を細め、おれを見ていた。二人ともまだ若くて、お袋はきれいで、親父はかっこよかった。

 日本の武蔵小金井というところにある家にいた。親父とお袋が、そして、おれが小さなテーブルを囲んでいる。テーブルの上に並ぶのは純和風なメニューだ。どこにでもあるような食卓の風景だ。

 おれはむつまじい光景を見ていた。おれはただの目になってしまったようだ。

 その日の朝、親父が玄関のドアを開けて、出ていこうとしている。お袋もおれも親父が二度と帰ってこないとは思っていない。それはいつもと変わらない朝だったはずだ。

「悠蔵」

 朝食を食べているとき、親父が味噌汁を啜りながら言った。

「強くなれ。強い男に。そして、おまえが大切な人を守ってやれ。お母さんのことも」

 やっぱり、親父はもう帰ってこないと決めていたんだと思う。いつもはあんなカッコつけたことを言ったりはしない。

 親父が玄関で靴を履き、ドアを開いた。親父の頭の後ろで陽光が後光のように輝いている。

 ――親父! 行くな! お袋が悲しむだろ! 

 ――おれだって悲しいだろ! 

 ――行くなぁあああああ!!! 

 親父にはいまのおれの叫びは聞こえない。ドアは閉められてしまった。永遠に。

 なぜ親父が家を出たのかはわからない。さよならも言わずに……。

 おれに失望したのか、と思い悩んだこともある。七歳のときには、おれも親父のような警察官になりたいと思うようになっていた。おれには運動神経が人より多少いいくらいしか取り柄はなかったが、何か人のためになりたいと思ったのだ。

 親父はおれに警察官になってほしかっただろうか。わからない。生きていれば、喜んでくれるかもしれないし、逆に悲しむかもしれない。

 おれはただ親父にいまのおれを見てほしかった。成長したおれを見てほしかった。

 そして、聞きたかった。

 ――どうしておれを、お袋を見捨てたのか、を。

その悲しみが、怒りが、この胸に刻印され、消えない。

 いつまでも残り、うずき、消せない。

 そして、聞きたかった。

 親父、おれはどう生きていったらいいんだ? 

この世界に何を見出して、いや、この自分に何を見出して生きていったらいいんだ? 

おれは何者になればいいんだ――? 

きっと親父は答えないだろう。それはおれが決めることなのだと。

 ふと目を覚ますと、赤茶けた砂丘にいた。周囲をうかがうと、焚火の前にマルコが胡坐を掻いて座っていた。

「マルコ……」

 マルコが振り向いた。

「悠蔵さん、目ぇ覚めたんすか?」

 体を起こそうとすると、あちこちが痛んだ。マルコがペットボトルの水を飲ませてくれる。

「サクラとジュニア――」

 記憶がわっとよみがえった。おれは全身にクウガの手裏剣を浴び、サクラとジュニアは黒忍者に捕まってしまった。クウガの放った手裏剣がおれを切り裂かんとする危機一髪のところをウーホに助けられたのだ。近くでウーホの金色の機体が陽光を受けて輝いていた。

「どのくらい寝てた?」

「丸一日っす。目ぇ覚まさないんで心配してたところっす」

「サクラとジュニアを助け出さなくては……」

「どうするっていうんすか? おれたち二人じゃ無理っす。取締課の連中を全員搔き集めたってわからないっすよ。それに、助けは来ないっす。チャンに連絡したんですが、ダスト・デビルにビビっちまって、助けには行けないと……」

 マルコは投げやりな口調になっていた。

「おれ、守れもしないのに、おれがおまえを守ってやるなんて、カッコつけてジュニアに約束したんすよ。無事に解決したら、一緒に暮らそうなんて……。ホント、おれ、自分が情けないっす……」

 マルコは啜り泣いた。

 おれも泣きたい気分だった。

「おれも同じだ、マルコ。でも、まだ終わったわけじゃない。そうだろう?」

「終わったわけじゃない!? いったいどうするっていうんですか? クウガを探し出してまた戦いを挑むんすか? 無駄死にするだけっすよ」

 おれは言葉を返すことができなかった。クウガの強さは神がかっている。再び戦いに挑んだところで負けるのは目に見えている。

「おれ、ジュニアと会って思い出したんすよ。何のために警察官になったのか。前に悠蔵さん、おれに聞きましたよね。どうして警察官になったのかって。おれ、人のためになりたいって思ったから、警察官になったんすよ。誰かのためになれてはじめて、おれっていう人間が存在する価値があると思えるからっす。そして、おれはジュニアと出会って、やっとわかったんすよ。人のために生きるっていうことの本当の意味が……」

マルコはぽろぽろと涙を流しながら無理に笑った。

「それなのに、おれはそのジュニアを救えなかった……。悠蔵さん、おれ、いったい何のために取締官なんてやってるんすかね? 何のために生きてるんすかね?」

 胸がえぐられるようだった。マルコの慟哭はおれの慟哭でもあったからだ。

「マルコ、おれもおまえと同じ思いだ。……おまえと会えてよかった」

 おれはなんとか立ち上がった。体力は回復していたが、体が万全でないことはわかっていた。

「行ってくるよ」

「え? ど、どこ行くんすか?」

「サクラとジュニアを助けに行く」

 マルコは亡霊を見るような目でおれを見た。

「は? だから、殺されに行くようなもんすよ!」

「知ってるさ、そんなことは……。だが、忍者っていうものは主あっての影。主がなかったら忍者は存在できない。いや、存在してはいけない。おれにとっての主とはサクラだ。ジュニアもそうかもな。サクラが、ジュニアが、危機に瀕しているときに、助けに行かないという選択肢はおれにはない」

「悠蔵さん……」

「おまえが来なくてもおれはおまえを責めたりしない。だが、おれは行く。ここで行かなかったら、おれは一生後悔する。それこそ生きる意味を見失う」

 おれはウーホのほうへ歩いていった。ウーホは天蓋にあるパネルに太陽光を受けてエネルギーを充電中だった。

 おれがドアハッチを開こうと手を伸ばすと、横からマルコの手が先にハンドルをつかんだ。

 マルコは引きつったような笑みを向けた。

「悠蔵さん、おれも今日だけニンジャになっていいっすか?」

「マルコ……」

「ジュニアはおれの主っす。おれも死ぬ前に後悔したくないっすから。ニンジャ服はないっすけどね」

 おれたちはうなずき合うと、ウーホの機体の中へ乗り込んだ。シートベルトを締めて、おれはウーホに尋ねた。

「ウーホ、待たせたな」

〈お二人とも復活したみたいですね! 何だかかっこいいですよ。凛々しくて!〉

「そうか? ウーホ、連中がどこへ逃げたか、探知できないか?」

〈ええっと、赤外線探索システムでスキャンしてみましたが、周囲五〇〇メートル四方に人間の存在はないですね〉

「さっきの廃墟まで飛んでくれ」

〈了解です〉

 砂丘を抜けて廃墟へやってきたが、ウーホはまたも人間の存在を確認できなかった。

見渡す限り廃墟だ。あれだけの大人やニンジャたちがどこから湧いて出てきたというのか。

「ウーホ、地下はどうだ? サクラは地下にある研究施設から逃げてきたと言っていた」

〈ええっと、わたしが何でもかんでもできると思わないでください。地下のことまではわかりません〉

 マルコも首をひねっている。

「どこかに地下に通じる入口があるはずなんすけどね……」

 おれは腕を組んで考えてみた。

「ずっと不思議に思っていたんだが、クウガとセーラはどうやって七福まで来たんだ? ダスト・デビルの発生地帯を迂回して七福に行くことはできるんだろうか?」

〈できるかと聞かれればできますが、北部の山々のルートを使うんですが、i一週間はかかりますが可能ですよ〉

「片道一週間……。いや、もっと早く行き来できるルートがあるはずだ。そういえば、マルコ、クウガが使った忍法雲隠れを覚えているか?」

「もちろんっす。すごかったっすね」

「あいつらは自由に行きたいところへ行ける地下のトンネルを使っているんだ」

「あちこちに、地下に通じるトンネルの入り口があるってことっすか?」

「あるんだ、たぶん……」

 まるで雷に打たれたように頭にひらめきが走った。

「そうか……。シンクホールだ!」

「ええっ!?」

「あちこちに存在するシンクホールは地中でつながっているんじゃないのか?」

「……そ、それありえる……かもしれないっす」

「ウーホ、ここから一番近いシンクホールはどこだ?」

〈北西に500メートル行ったところです〉

「そこを目指して飛んでくれ!」

〈了解です〉


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