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火星にニンジャが舞い降りたとき  作者: 大和モモタロー
第4章 火星のニンジャ
11/25

2 ドクター・ムーミソの話は聞こえない。

 2


 おれたちは遺留品を求めて現場一帯を探し回った。結果、あのかんざし以外は、何も見つからなかった。犯人が使用したと思われる手裏剣や日本刀もない。乗ってきたはずのヴィークルもない。止むことのない風が足跡などの痕跡をとうに搔き消していた。

 午後遅く、取締第三課のオフィスへ帰還すると、チャンから無登録少年少女の殺人事件の捜査をうちの課が正式に担当することになったと告げられた。

 チャンが一同にA4の用紙を配布した。遺体を解剖した監察医による検死報告書である。解剖時に撮影されたものだろう、少年少女たちの顔や全身の写真が添付されていた。あらためてその幼い顔を見れば、十代半ばと思われる。

「えー、午前中に発見された身元不明の少年少女、死亡推定時刻は未明の三時前後。死因は鋭利な長刀で斬られたことによる失血死だ。彼らには識別番号のICチップが見当たらない。遺留品はかんざし一点のみ。目下、ドクター・ムーミソが現場に残された血痕のDNA解析を行っている。少年少女たちに病院での受診歴があれば、身元が特定される可能性もある。病院には患者のDNA記録が残っているからな」

 おれは気になっていたことをチャンに尋ねた。

「チャン、この星に忍者はいるか?」

 チャンは怪訝な顔をおれに向けた。

「ニンジャ? おまえ以外にニンジャなんているわけないだろ。この超レアメタルめが」

「少年少女たちの遺体に残っていた痕は日本刀と手裏剣によるものだ」

「そりゃ、あれじゃないか。ニンジャ・ショップに売られてるものを武器に使ったんじゃないか」

 ビビアンがヘプタゴンで検索をかけながら口を開く。

「検索してみたんだけど、火星にニンジャ・ショップなんてないのよ」

 チャンは細い顎に手をやった。

「ふむ。この星におまえ以外にもニンジャがいるというのか。それで、そのニンジャが殺しにかかわっていると?」

「そう思う」

 サクラから得た情報で、その忍者はサクラたちが育てられた研究施設の教官だろうと思われたが、もちろんおれは黙っていた。

 チャンはテーブルの手元にあるインターフォンに向かって声をかけた。

「おーい、ドクター・ムーミソ。DNA解析の結果は出たか?」

〈むっむ〉

「え? ちょっと聞き取れないんだが……」

〈むっむっむ、むっむむむ〉

機器の具合でも悪いのだろうか、相手の声がくぐもっていて聞き取れない。

「うむ、聞き取れないから、ちょっと来てくれるか」

 チャンは少し疲れた顔をして、両手で顔をごしごしと拭った。

 五分後、すらりと背の高いモデルのようなブロンドの美女が入ってきた。息を呑むほどの完璧さであり、身を包む白衣がオーラのように輝いて見えたほどだ。悲しいかな、一点だけ不完全さをもたらす要素があった。女の口には見まごうことのないおしゃぶりがくわえられていたのだ。火星で流行中のファッションなのか。七福に来て三日とはいえ、街中でおしゃぶりをくわえている大人を見たことはない。

 チャンがおれに顔を向けた。

「悠蔵、紹介しよう。科学捜査担当のドクター・ムーミソ。保安局が誇る才女だ」

 紹介されたドクター・ムーミソは紺碧の瞳をおれに向け、熱心に何かを訴えた。

「むむむ、むむむむむ、むむむむむむ」

 理解できなかった。

「聞こえてないぞ」

 チャンがドクターのほうを見もせずに指摘すると、ムーミソはやっとおしゃぶりを外した。

「ごめんなさい。ついうっかりしちゃって……。でも、これでイライラがおさまるのよ。更年期障害もこれでへっちゃら。チャン、あなたも試してみる価値あるわ」

「いや、わたしは遠慮しておく。まだ更年期障害っていう年でもないしな」

 この二人は何歳なのだろう。おれは戸惑いを隠せずに、ムーミソに会釈をした。

「ええっと、DNA解析の結果よね」

 いったんおしゃぶりを口から外したムーミソは、まるで洋画の吹き替え声優のような完璧な話し方をした。

「ちょっとこれを見てくれるかしら」

 手にしていた端末をテーブルの中央に置くと、タッチパネルを操作した。見たことのある螺旋構造のホログラムが立ち現れた。DNAの二重螺旋構造だ。

いや、少し形状が異なっている。

「結論から言うと、遺体の子供たちのDNAは三重螺旋構造を取っていることがわかったの。信じがたいことにね。わたしたち人類は二重螺旋構造なのよ。一部の科学者はDNAは二重螺旋よりも三重螺旋のほうが構造的に安定して、免疫力が高くなるとか、長寿命になるとか言っているけど、ホントのところはよくわからないわ。いずれにせよ、子供たちは遺伝子操作によって生み出され人工人間みたいね」

 チャンは眉根にしわを寄せて腕組みをした。

「何てことだ……。思いっきり人体改変禁止法違反じゃないか!」

 おれはごくりと生唾を呑み込んだ。DNAの三重螺旋構造、人体改変禁止法違反、人工人間……。不穏きわまるワードが飛び出した。それはそのままサクラにも当てはまるはずだ。

 サクラもまた遺伝子操作によって生み出された人工人間だというのか……。

「何のためにこんな研究がなされたんだ?」

 おれの質問にムーミソが答えた。

「しいて言えば、完全無欠の人類を生み出すことが目的かもしれないわね。いまある人類の代わりとしてこの星を支配する存在になるような……」

 チャンが曰くありげな視線をおれに送ってきた。これは匂うぞ、クーデター計画の事案と関係があるかもしれないぞと。

 今朝、サクラは何と言っていたか。一カ月前に目を覚まし、格闘技や銃火器の訓練を受けたと……。

これはもう思いっきりクーデターの匂いしかしなかった。

 チャンが一堂に向って口を開いた。

「壮大な話になってきたな。大量殺人事件かと思ったら、その背後には人体改変禁止法を無視した大がかりな違法研究組織が活動しているのかもしれない。被害者は研究施設から逃げ出してきたのか……」

さすがはチャン警部、いい線を突いている。

「さて、捜査の方針だが……」

チャンはこほんと空咳をした。

「がんばれ! とにかく、がんばれ! 以上だ。あ、そうそう、悠蔵とマルコは、ニンジャの線から探ってみてくれ。それじゃ、諸君、仕事にかかってくれ。とにかくがんばること。以上だ」

 やっぱりチャンはさすがでもなんでもない。


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