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火星にニンジャが舞い降りたとき  作者: 大和モモタロー
序章 エイプリルフールの真実
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えっ、火星行き!? おれが……!?

 序章 エイプリルフールの真実


四月一日――。

よりによって、エイプリルフールのその日が、地球で最後の日になろうとは……。


服部(はっとり)悠蔵(ゆうぞう)巡査部長、警視総監よりきみに以下の辞令が下っている。四月一日付にて、火星七福(しちふく)地区にある火星連邦保安局取締第三課への異動を命ずる。表向きの任務は取締官として同地区の保安維持に努めることだが、もう一つ、より重要な任務がきみには与えられている。以下、極秘事項のため一切の口外を禁ずるが、火星の地において反政府組織によるクーデター計画が進行中との情報を得た。きみに与えられた真の任務とは、そのクーデター計画を阻止することだ。詳細は取締第三課での上長より直接説明があるだろう。日本の警察官として、いや、日本男児として存分にその力を発揮してくれたまえ。以上だ」

 警視庁刑事部捜査第一課、小此木拳課長の声が響いた。

「課長? エイプリルフールは明日ですよ。いま取り込み中なんで、そういうのあとにしてくれませんか?」

 おれはため息をついた。相手が四つも階級が上の警視正では悪ふざけにも怒るに怒れないが、あいにく自然の訴えに従って個室トイレで奮闘中だった。ここのところお腹の調子が悪く、午前中はトイレに駆け込む日が続いていた。たぶん仕事のストレスだろう。最近忙しいわりに、仕事に生き甲斐を感じられなくなっていた。

「あいにく冗談ではない」

一枚の扉越しに声が響いた。

「この場所を選んだのは、盗聴を恐れてのことだ。誰もトイレの個室に盗聴器を仕掛けたいとは思わないだろうからな」

「冗談じゃない……って!? それ、どこまでホントなんですか?」

「どこまでも本当だ。昨日の幹部会議で決定した。急な話になって申し訳ない、と警視総監もきみに謝っていたよ。火星は初めてだろう? 必要なものは向こうでも手に入るとはいえ、すぐに出発の準備に取りかかったほうがいい。きみが乗るマーズシャトルは、明日の午前十一時二十七分発だ」

 耳を疑って、腕時計を見た。今日は三月三十一日、現在午前十一時四十二分だ。出発まですでに二十四時間を切っていた。

当然の疑問が湧いた。

「なぜおれなんですか?」

「うん? きみのこれまでの経歴や実績を勘案した結果だ」

どうも納得がいかない。おれはそこら辺にいる何の変哲もない普通の警察官にすぎない。本庁の捜査第一課所属で、日々の仕事は殺人や強盗といった凶悪事件の捜査といえば、すごいと思われがちだが、警察の捜査なんて大人数で組織的に行われるものであって、おれは大きな機械の歯車の一つに過ぎない。

 どう考えても何かの冗談としか思えない。明日、火星へ発って、当地で進行中のクーデター計画を阻止しろなどとは……。

「詳しい任務の内容は? 誰がクーデターなんて大それたことを――」

「それは向こうに着いてから直接きみの上司に聞いてみてくれ。火星もいまが大変な時期なんだろう。楽園を夢見て地球から飛び立った連中が、やりたい放題やってきたツケが出始めているとも聞いている。人類の発展と廃退は隣り合わせだからな」

 いかに上意下達がモットーの警察組織とはいえ、無茶な辞令には抗議することだってできるはずだ。

 試しに言ってみた。

「その辞令を受けないと言ったらどうなるんですか?」

「うん? まあ……、きみの代わりに他の者が行くことになるんじゃないか」

 軽い感じの返事だった。おれに拒否されても気になんてしない、というような。

思いがけず自分が少しショックを受けていることに気づいた。何だかこれがチャンスに思えてきて、他の誰かに奪われたくない衝動に突き動かされた。

「じゃあ、行きます」

ほとんど勝手に口がそう言っていた。

 おいおい、マジか? マジで言ってんのか? 

 火星に行く? このおれが? そして、クーデター計画を阻止するだって? 

「おれ、火星に行きますよ」

おれの頭と口はつながっていないらしい。口が勝手に動いている。

「きみは適任だ、実際。期待している」

「で、期日は?」

「期日?」

 意外なことを聞かれたような声だった。この当然の問いを意外に思われることのほうがおれとしては意外なのだが。

「いつまで火星にいるんですか?」

「いや、期日は特に設けられていない。以上だ」

 逃げるかのように足音が遠ざかっていく。

いやいやいや――。こっちにはまだまだ聞きたいことが山ほどある。おれは急いだ。

 戸口の手前あたりで足音が止まった。

「そうそう、服部巡査部長、知っていたか? 火星の夕焼けは青いんだそうだ。それはそれは神々しい美しさなんだそうだよ。わたしも死ぬまでに一度見てみたいものだ。それじゃ、グッド・ラック!」

「ちょ、待ってください!」

 ズボンを引き上げ、個室を出たときには、小此木課長の姿はすでになかった。

 おれは他に誰もいないタイル張りの床の上で、まるで狐につままれたような気分でしばし呆然と立ち尽くした。


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