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元お飾り王妃は『フランツ』の女情報屋と女好き暗殺者と対面する

 **


「あの、フライア・ディールスさまですよね?」

「……あなたは?」


 翌日。私はブラッドさまと顔を合わせるのを気まずく思ってしまい、一人教室にいた。教科書を広げつつ授業の復習をしていると、一人の女子生徒が私のほうに近づいてきた。


(このクラスの人ではないわね)


 クラスメイトなら、私も顔を覚えているはず。それに社交界でも目立っている人ではないわ。


「あぁ、申し訳ございません。私はキャロライン・アンダーソンと申します」

「……キャロラインさま」

「いいえ、さまづけは不要。私は庶民階級ですので」


 キャロラインさんはそう言って私に笑いかけてくれる。


 肩の上までの眩しいエメラルド色の髪がとってもきれい。彼女を見つめながら、私はどうして彼女が私に声をかけてきたのかが気になっていた。


 彼女は今、自らのことを庶民階級と言った。だったら尚更……私と会話をする理由が思い浮かばない。私とのコネが欲しいのは貴族ばかりだもの。


「なにか?」

「えぇ、まぁ。……少しお話しにくいことですので、場所を移動しませんか? そうですね。この時間なら、カフェテリアなんてどうでしょうか?」

「……そうですね、わかりました」


 この時間帯ならばカフェテリアは閑散としている。教室よりも人が少ない。それに、彼女は私が警戒していることを知っているのでしょう。カフェテリアならば開放的で、強行はできません。


「よかったぁ」


 キャロラインさんが笑う。髪の毛と同じエメラルド色の目を細めている。かけている眼鏡を弄る指先は軽やか。


 けど、口元はわずかに歪んでいる。彼女にはなにかがある。私の直感が告げる。


 ……それから、もう一人は放っておきましょうか。今は。


 **


 予想通りこの時間帯のカフェテリアは特別人が多くなかった。かといって、少ないわけでもない。


 ぽつりぽつりと空いている二人掛けのテーブル席。椅子に腰かけると、キャロラインさんはにっこり笑った。けど、やっぱり歪な笑み。うん、まるでお兄さまみたい。


「キャロラインさんは、一体私になんの御用ですの?」


 私は注文した紅茶を口に運びつつ、キャロラインさんを見つめ問いかけた。


 カフェテリアに来たのだから、なにか飲み物を注文しようということで、私たちの目の前には二人分の紅茶がある。まだ湯気の出ている温かいものだ。


「えぇ、まぁ。単刀直入に言えば、シリル・グレーニングさんに近づかないでほしいということでしょうか」

「――シリルさまに?」


 キャロラインさんは私が予想もしなかった言葉を口にした。


 ……どうして、キャロラインさんがシリルさまの交友関係に口を出すの?


 もしかして、個人的にお付き合いがあるとか? そうじゃないと、平民が貴族を「さん」づけで呼ぶなんてありえない。


「はい。私とシリルさんは個人的に親しくさせていただいております。はっきり言えば、あなたの存在が迷惑極まりないのです。このままでは、シリルさんは変わってしまう。グレーニング夫人が心配しておりますの」

「……キャロラインさんって、グレーニング夫人の遣いなの?」

「そう受け取っていただいて大丈夫ですよ」


 ……驚いた。


 グレーニング夫人はとても派手好きな人だと聞いている。


 自分を着飾ることにしか興味がなく、二人の子供に対する興味は薄いなんてささやかれている人だもの。


 シリルさま自身もどうにも夫人のことが好きではなさそうだったし。


 ……この場合、私はどうしようかしら?


 考えてしまう。シリルさまは私の大切なお友達。告白された関係だけど、お友達ということには間違いない。


 ここでキャロラインさんの言葉を鵜呑みにして引くというのは――少し不満かも。それに彼女が嘘をついている可能性もゼロじゃない。だったら、素直に引くなんて私には出来ない。


「あの、キャロラインさんは――」

「――なんて、ごめんなさいね。全部嘘です」

「――っつ」


 私が拒否の意を示そうとしたとき、キャロラインさんの雰囲気がいきなり変わった。


 嘘だったらしい。大方予想はしていたこと。でも、キャロラインさんがまとう雰囲気が変わったのは予想外。


 それとほぼ同時に、私は頭を後ろに倒した。すると、私の目の前をなにかが飛んで行った。そして、それは壁に突き刺さる。


 これもちょっとだけ予想していた。ただ、これを投げた人に私を殺すつもりは一切ない。


「本当の狙いはなんですか? キャロラインさん。そして、もう一人のお方」

「……いつから、もう一人に気づいていました?」

「いつからもなにも、誰かが私たちを追っていたことはわかっていましたから」


 キャロラインさんは私の言葉にうんうんとうなずくと、今度は心の底からの笑みを浮かべた。


「サディアスさん。どうやら、私たちの心配は無用だったようですよ」


 ――サディアスさん。


 その名前はどこかで聞いたことがある。そうだ。『フランツ』で出逢った双子の情報やから聞いた名前だ。


「残念だな。この子がシリルさんに似合わなかったら、俺がもらっちゃおうと思っていたのに」


 キャロラインさんの後ろに一人の男性が現れた。


 金髪ときれいなエメラルド色の瞳を持つ美青年。多分、この人が『サディアスさん』。


「はじめまして、美しい人。俺はサディアス・イルム。キミの予想通り『フランツ』に所属している暗殺者だよ。で、こっちのキャロラインの本職は女情報屋」

「改めまして。無害を装っているキャロラインです」


 彼女は眼鏡をはずした。

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