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元お飾り王妃は魔法の実技を留学生から学ぶ

 **


「へぇ、ここがディールス公爵家の敷地なんだな」

「はい、そうです。専用のスペースまで、もう少し歩きますね」


 お兄さまから許可をいただいてから、数日が経ち。


 その日、私はブラッドさまをディールス公爵邸に招いておりました。普通、婚約者がいる女性がほかの男性を実家に招くなど、よくはないことです。


 しかし、お兄さまが「僕のお客さんとして来ていただいたことにしよう」とおっしゃってくださったので、ブラッドさまは表向きはお兄さまのお客さまということになっていました。


 ディールス公爵邸を興味深そうに眺められるブラッドさま。ヴェッセル王国は魔法の先進国。そのためか、魔力のこもった石である魔法石などもたくさん採掘できたりします。なので、高位貴族は邸の外観に魔法石を使います。色とりどりの魔法石が飾られた外観は、一言で言えば煌びやかに尽きるのです。


「……さすがは、ヴェッセル一の公爵家だな」


 ブラッドさまはそんなことを呟かれて、私についてきてくださいました。


 そのまま少し歩き、お庭の外れへと向かう。そこが、お兄さまが普段使用されている訓練スペースなのですが……。


「どうして、ここにお兄さまがいらっしゃるのですか……?」


 そこにある休憩スペースのベンチに、ほかでもないお兄さまが優雅に腰掛けていました。


 お兄さまの態度を見ていると、ここはお茶会の会場なのではないか。とまで、思ってしまいます。


 それくらい、お兄さまは優雅に腰掛けていらっしゃった。


「うん、可愛い妹の訓練でも見学しようかなぁと思ってね。……キミが、フロイデン王国からの留学生だという、ブラッド・ルーベンスさまだね?」

「……えぇ、まぁ」

「初めまして。僕はフライアの兄の、ライナルト・ディールス。妹にむやみやたらに触れないように、監視させてもらうから」


 お兄さまはそうおっしゃり、立ち上がってブラッドさまに近づかれました。


 いや、むやみやたらに触れるって、なんですか? そう言いたかったけれど、お兄さまの目が笑っていないことに気が付いて、その言葉をごくりと呑み込む。


 私の感覚だと、今、この場にはブリザードが吹き荒れているような感覚です。きっと、そう思うのはお二人が邪険な雰囲気でにらみ合っているからだと思います。


「……ブラッド・ルーベンスです」


 対して、ブラッドさまはお兄さまに向かって淡々と名乗られる。


 なんというか、この場が歪な空間になっているような。私には、そう思えてならない。


 あの日以来、お兄さまは私にべたべたしてくるようになりました。それはもう……鬱陶しいくらいに。


 なにかがあれば私と共に行動をしようとされたり、私と鉢合わせる回数が今までの数十倍くらいになりましたよ、えぇ。


「キミは強そうだねぇ。じゃあ、フライアのことは頼むよ。僕はそこに座って、見学しているから」


 お兄さまはそれだけを伝えると、そのままベンチに戻られました。


 ……本当に、見学する気なのですね。


 そう思いましたけれど、口には出しません。お兄さまは笑顔で私のほうを見つめてこられます。もう、そこに今までの関係性の面影はありませんでした。


 少し嬉しいと思う半面……やはり、鬱陶しい。


「……じゃあ、フライア嬢。とりあえず魔法の実技の訓練だけど……フライア嬢って、属性は?」

「私は、一応風……です」


 魔法には六つの属性がある。


 土、火、水、風。さらには光と闇。光属性を持つのは、かなり少数の女性のみ。そして、その光属性を持つ女性こそが『聖女さま』という存在。それから、闇属性を持つのは殆どが魔族の血を引く人間のみと言われています。


 このヴェッセル王国では、五歳のときに魔法の属性鑑定が行われます。実技をほとんど使わない貴族でさえ鑑定するので、みながみな自らの属性は知っています。使いこなせるかは、別ですが。


「そっか。複数属性じゃないんだな?」

「はい。風のみです」

「じゃあ、ある程度は教えられるか」


 複数の属性を持っている人は、魔法の扱いが特殊になるということは、私も知っております。


 まぁ、複数の属性を持つ人間は民の一割にも満たないと言われていますが……。あ、こういうのが座学で習う主な知識になっています。


「とりあえず、フライア嬢は座学の成績は良いらしいからな。魔力のコントロール方法を学べば、ある程度は使えるようになるだろうな」


 ブラッドさまはそうおっしゃって、なにかの呪文を唱えられます。


 すると、あっという間にあたりに暴風が吹き荒れました。ブラッドさまも、この様子ですと風属性なのですね。


「じゃ、とりあえず。いろいろ教えてやるから、ゆっくりでいいから覚えてくれ」


 そのお言葉に、私は静かに頷きました。


 ブラッドさまの教えはとても分かりやすく、覚えやすかった。


 何処か教えるという行為に慣れていると言いますか……。まぁ、ブラッドさまは留学生のクラスなので、魔法の実技の授業も豊富。きっと、クラスメイトに教えたりされているのでしょうね。


 そう思いながら、私はブラッドさまに魔法の実技を習っていく。


 そして、二時間半後。今日のところは終わりということになったのですが……。


「……ねぇ、ブラッド・ルーベンスさま。僕と、よかったらちょっとだけ剣術で勝負をしてみないかな?」


 終わりというときになってから、お兄さまはそんなことをおっしゃったのです。

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