表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/44

元お飾り王妃は侯爵令息とお友達になる

「し、し、しもべって……!」


 この人、何をおっしゃっているの……? 私はそう思ってしまいます。そして、自らの手を引っ込めようとする。でも、シリル様は私の手をしっかりと握られており、私は手を引っ込めることが出来ませんでした。抗議の意を示すために、シリル様の目を見つめましたが、シリル様はただにっこりと微笑まれるだけ。


「フライア様。これでも、俺は尽くすタイプの男なのですよ。……ですので、フライア様」

「っつ!」


 シリル様は、そんなことをおっしゃるといきなり私の手の甲に口づけをされた。それは、まるで絵本の中の王子様がお姫様にするようなもので。


 ……え? な、なにを、されているの……? その瞬間、私の頭がフリーズしてしまいます。ブラッド様に、お姫様抱っこをされた時の比ではない。だって、その時私とブラッド様は既にお友達でしたし、あの時は不可抗力でしたし……! ですが、シリル様は絶対にわざとです。私は、そう思っておりました。


「……フライア様。こんな風に、尽くすタイプの男は、お嫌いですか?」

「そ、そういうわけでは……」


 尽くすタイプの男性が、嫌いなわけではない。と言いますか、もうイーノク様みたいなタイプでは無ければ、好感が持ててしまうくらいには単純です。そう言いたかったけれど、私の心の中にいろいろな感情がこみあげてきているからか、口をパクパクと動かすことしか出来ません。ただ、シリル様のにっこりとした底知れぬ笑みを見つめることしか、出来なかった。


「嫌いじゃないのならば、よかった。……それで、俺とはどういう関係になってくださるのですか? ブラッドとは……お友達、なのですよね?」


 シリル様はそうおっしゃって、ようやく私の手を放してくださる。なので、私は慌てて自らの手を引っ込めました。と、とりあえず、この人と共にいたら心臓の音がバクバクとうるさい……。ということだけは、よくよーく分かりました。


「ど、どういう関係、とは……?」

「恋人でも、婚約者でも構いませんよ。しもべでもいいですし。……あ、お友達から始めるのもいいですね」


 そんなことをおっしゃりながら、シリル様は頬杖をつかれる。お、お美しい。その仕草を見て、私はそんなことを思ってしまいます。私よりもずっと、ずっとお美しい人。そんな人が、どうして私なんかにアピールされるのかが、全く分かりません。


「……わ、私は、シリル様と『ただの』お友達になりたいと、思っております、わ……」


 『ただの』というところをやたらと強調して、私はそう告げる。決して、その後婚約者や恋人に発展することはありませんからね。そういう意味を、込めていた。その気持ちはシリル様にしっかりと伝わっていたのでしょう。シリル様は「えー」などという不満そうな声を上げられていました。いえ、シリル様がダメなのではなく……私は、誰かと恋仲になるつもりがちっともないということです。これっぽっちも。


「……ただのお友達では、満足出来そうにありませんね。しかし、初めはそういう関係になっておきましょうか」


 ……なんだか、不穏だった。この人は全く読めないし、だからこそ怖い。私は、そう思ってしまう。そして、シリル様はいきなり私の方に手を伸ばしてこられて――私の頬を、撫でてこられます。その瞬間、私の身体が一瞬だけフリーズしてしまったような気が、しました。


「お美しい、フライア様。貴女は、とてもお美しいです。王太子にはもったいないくらいだ。……俺は、貴女に執着してしまいそうですよ」

「……わ、私は、執着されるほど美しくない……です、よ」

「いいえ、貴女はお美しい。心が、綺麗だからなのでしょうね。俺には、しっかりと伝わってきますよ」


 ……心が、内面が、綺麗なわけがない。私の内面は一度目の時間軸のことがあるからか、ドロドロとしている。誰も信じたくないと思うくらいには、傷ついて壊れている。だから、心が綺麗だなんて言わないでほしかった。


「私の内面は、醜いです。心も、汚れています。……そんな、シリル様に称賛されるような素敵な人物では、ないのです」


 私の心は、汚れている。ボロボロで、ずっと壊れ続けている。もう修復不可能なくらい壊れて、無理やり引っ付けて動かしているようなものなのだから。だから……シリル様に称賛される人物じゃ、ないの。


「……貴女は、謙虚なのですね。俺はそういう貴女を好ましく思います。……フライア様。やはり、俺とお友達『から』始めましょう。いずれ、貴女に選んでもらえるように俺は努力をします。王太子よりも、俺のことを選んでもらえるように」


 シリル様は、そんなことをおっしゃると私に向かって、とてもお美しい笑みを向けてくださった。


 そして、私がこの人の本当の姿を知るまで――あと、少し。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ