元お飾り王妃は留学生に提案される
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「はい、これで一応治療は終わりな」
その後、ブラッド様によって医務室に運ばれた私は、椅子に座らされておりました。その後、ブラッド様が手慣れた手つきで私の足首の治療をしてくださったのです。治癒魔法などもあるのですが、生憎といっていいのかそちらは光の魔法の使い手、つまりは聖女様にしか使えない魔法だといわれています。なので、怪我に関しては塗り薬や冷却魔法などを使い治療をするのが、一般的なのです。
「……随分と、手慣れていらっしゃるのですね」
私は、ブラッド様にそう声をかけておりました。ブラッド様の治療の手つきは、とても手慣れておりました。だから、以前からこうやって治療をされているということは、すぐに分かりました。
私の言葉を聞いて、ブラッド様は「フロイデンでは普通だ」とだけおっしゃりながら、塗り薬の入った薬箱を元の場所に戻されます。
「フロイデンでは力が全てだ。だから、訓練中に怪我をすることもよくある。その時一々医者を呼ぶわけにもいかねぇからな。ある程度は自分で治療が出来るようにと幼い頃に教育される。……平和ボケした国とは違うんだぞ」
「……そう、なのですね」
「おー、ヴェッセルに来て驚いたわ。だーれも自分で治療をしない。医者にばっかり頼ってるんだからな」
そんなブラッド様の愚痴にも似た言葉を聞きながら、私は足首を軽く動かしてみます。素早く治療をしてくださったこともあり、どうやらそこまで大事には至っていないようで。……しかし、これでは食堂に向かうことが出来ません。まだ、歩くのは辛いですから。
「……とりあえず、昼食は特別にここで摂らせてもらうか。教師に頼めば、許可出るだろうし。怪我人を動かすなんて馬鹿な真似、するわけがないだろ」
ブラッド様は、私の考えを読まれてかそんなことをおっしゃいます。……まぁ、体調の悪い生徒などが特別にここで食事をすることは多々ありますし、許可が出ないということはないでしょう。と言いますか、私が無理強いをすれば簡単に許可は出るでしょうね。……そんなことをするつもりは、一切ありませんが。
「さ~て、あ、そうだ。フライア嬢」
ブラッド様が何かを思い出されたように、私に声をかけてくださいます。なので、私は静かに「どうか、されましたか?」と尋ねておりました。大体、ブラッド様が思い出したようにおっしゃるお言葉は、とても大切なことが多いです。なので、私は身構えておりました。……いつも、そういうわけではないのですがね。
「シリルの奴がさ、やっぱりフライア嬢と直々に対面したいってさ。……俺に、フライア嬢のことを教えるついでにとばかりに言ってきやがった。俺も、今回のことがあっていろいろと考えたんだよ。……俺一人じゃ、どう足掻いてもフライア嬢を守り切ることは出来ねぇなって。……シリルは、俺にとってまだ信頼のできる奴だ。……一度、会ってみねぇか?」
「……」
私は、その提案に俯いてしまいました。シリル様と、会う。確かに、本日のお礼は言いたいです。しかし、なんだか気が乗りませんね。期待は、確かにしているのです。ブラッド様が信頼されているご友人ということもあり、まともな方だろうと思えるのです。ですが、怖かった。また一度目の時間軸のように手酷く裏切られるのは……まっぴらごめんなのです。
「まぁ、無理にとは言わねぇけれどな。シリルは案外きっちりとした奴だし、頭の回転も速い。だから、フライア嬢の力になってくれるとは思うけれど」
ブラッド様はそんな風におっしゃる。……そう、ですか。やっぱり、このヴェッセル王国の人を信頼するのは、怖いです。ブラッド様は他国のお方なので大丈夫なのですが……。ですが、この恐怖も乗り越えないとダメなのです。いずれは、お会いしたいと思っておりました。今が、いい機会なのかもしれません。
「……そう、ですか。シリル様さえよければ、ぜひともお会いしたいと思っております。……ただ、本日は無理、です。足もこの調子ですし、また後日ということでよければ……」
私は、途切れ途切れにそう言うことしか出来なかった。すると、ブラッド様は「じゃあ、シリルにそう伝えておくわ」とだけおっしゃり、医務室にある魔力電話というものを使い始めました。魔力電話、とはその名の通り魔力を使い遠距離にメッセージを送るものです。高価なものですが、医務室には緊急を要する人もやってくるため、設置されておりました。
(……シリル様、か)
魔力電話を使われるブラッド様の後ろ姿を眺めながら、私はまだ見ぬシリル様というお方に思いを馳せておりました。……頭の回転が速く、きっちりとしたお方。そう、ブラッド様はおっしゃっておりました。……信じても、大丈夫でしょうか?
(……イーノク様との婚約解消の件についても、まだあまり上手くいっていないし、助言をいただけるといいのだけれど……)
そして、私はそう思っておりました。
ですが、私が想像する以上に、シリル様は曲者だったのです。それが分かるまで、あと――少し。
これにて第一章は終わりです(o*。_。)oペコッ
第二章の終わりまでは書けているのですが、ちょっと修正が必要な個所が多いので、のんびり更新になります。すみません。




