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元お飾り王妃の元旦那は筋金入りのクズである


**


「……あれ、あの後ろ姿は……」

「どうした、フライア嬢?」


 さて、そろそろ帰りましょうか。そう思って、私とブラッド様が教室を後にしたとき、ふと見知った後ろ姿を見つけました。それは、仲睦まじく腕を組んで歩く二人の男女の生徒。……あの後ろ姿は、間違えるわけがない。間違いなく……イーノク様とシンディ様。


(……まだ、私という婚約者が居ながら、あんな風に腕を組んで歩くのですね)


 そんなことをしていると、いつか痛い目を見ますよ。いいえ、私が痛い目に遭わせます。そう思いながら私はブラッド様に「なんでもありません」と言っていました。しかし、ブラッド様は私の視線の先を素早く追われたようで、「あぁ、王太子ね」とだけおっしゃいます。……どうやら、バレてしまったようです。まぁ、視線をすぐに逸らさなかった私も悪いと言えば悪いのですが……。


「イーノク様。やっぱり、私……フライア様に虐められているのです。どうすれば、いいですか?」


 ……そんな嘘デタラメの言葉が、私の耳に届いてきた。シンディ様の声は高いため、離れていてもよく聞こえてくるのです。……私は、全く聞こうとしていないのに。


「……なんか、変なことを言っているな。そもそも公爵家の令嬢が男爵家の令嬢を虐めても、この国では問題にならないんじゃなかったっけ?」

「……まぁ、そうですね。この国の身分制度は絶対ですから」


 そう、本来ならば筆頭公爵家であるディールス公爵家の令嬢である私が、たかが末端男爵家の令嬢であるシンディ様を虐めても大した問題にはなりません。しかし、愛に狂い、恋に溺れたイーノク様からすれば私は「愛しい女性を虐める悪女」にしか映っていないのでしょうね。……まぁ、それは嘘偽りで塗り固められた愛なのですが。だって、私、シンディ様を虐めたことなんて一度たりともないのですから。それどころか……関わりたくないくらい。


「……そうか。やはり、あの女にはそれ相応の罰を与えなくてはならないな。……婚約を、破棄するべきか……」

「いいえ、それはさすがに可哀想ですわ。だって、あの人にはイーノク様の婚約者というところしか、誇れるところがないのですもの。ですので……それがなくなってしまえば、あの人には価値がなくなってしまいます」


 ……堂々と、かなりのことをおっしゃいますね。きっと、周りに人がいないから誰にも聞かれていないと思っているのでしょう。実際は私とブラッド様がしっかりと聞いているのですが。それに、シンディ様は王妃がすることになる大変なお仕事をしたくないため、側妃に収まろうとしているのです。それは、見え見えでした。側妃ならば比較的好き勝手していても、問題ありませんから。


「……シンディは、優しいな。あの女にも見習ってほしいくらいだ」


 そうおっしゃって、イーノク様が首を縦に振られる。……イーノク様はきっと、シンディ様の目の奥に映った打算の感情に気が付かれていないのでしょう。シンディ様は贅沢をしたいためイーノク様に近づかれた。それを見破ることが出来ないなんて……王太子失格ですわ。


「ふ~ん、なんか想像していた以上にクズなんだな。というか、愚かとしか言いようがない」

「……まぁ、そうですね。一言で言えば愚かとしか言いようがないのです」

「おっ、フライア嬢も言うようになったなぁ」


 ブラッド様と小声でそんな会話を交わす。腕を組まれ仲睦まじく歩かれるお二人の後ろ姿を眺めていると……ふと、一度目の時間軸のことが蘇ってくる。だから、私は頭を振りその記憶をかき消した。もう、あの忌々しい記憶は封印するの。もう、思い出したくもないから。


「……ありゃあ、クズはクズでも筋金入りのクズだな。……それから、ランプレヒト嬢の方も、かなり男を誑かすのに慣れている感じだな。……純粋なフリをしているが常習犯、か」

「……分かるのですか?」

「おぉ、俺だってこれでも筆頭公爵家の跡取り息子だからな。……あれくらい、見破ることが出来るように教育はされてきた」


 そんなことをおっしゃるブラッド様の目は……絶対零度とも称されそうなオーラを放っていて。あぁ、このお方は本当にそんな教育を受けてこられたのだって、分かった。まぁ、普通ならばそういう教育は受けるはずなのです。お兄様だって、受けていらっしゃったから。


(甘やかされただけのイーノク様には、見破ることが出来ないのでしょうね)


 そう、私は思っていました。イーノク様は何をやっても大したレベルではなかった。だから、イーノク様は王太子という座にこだわっていらっしゃる。何をしても妹であるローナ様に勝てないから。だから……自らがローナ様よりも優れていると示したいらしい。それは、一度目の時間軸で知ったことでした。


「さて、フライア嬢。あんな奴らを追っても、良いことなんてなさそうだしさっさと帰ろうぜ。迎え、来ているんだろ?」

「あ、そうでした」

「とりあえず、玄関まで送って行ってやる。どうせ暇だし」

「……ありがとう、ございます」


 私はブラッド様のご提案をありがたく受け入れることにし、近くの階段を下りていく。もう、あのお二人の会話を聞いていたくない。そう思ったからこそ、違う道を通ることにしたのでした。

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