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元お飾り王妃は元旦那に二度失望する


「……それで、イーノク様。一体、私にどういうご用件でしょうか?」


 それから十分後。私とイーノク様は中庭にやってきておりました。ここならば木々がありますから、あまり人目にはつきません。さらに言えば、今はほとんどの生徒が食堂に行っておりますので、特にここは閑散としていました。


「……フライア嬢、最近、変わったな」

「そう言う無駄話は控えてくださいませ。私は、さっさと用件を知りたいのでございます」


 私はさっさとイーノク様の元を去りたかった。だって、このまま一緒にいたところで何も解決しないのは目に見えて分かっているから。それに、私はもうこのお方に期待しないと決めている。もしも、期待をして……その結果、また前の時間軸のように裏切られたら。そうなったら、それこそ立ち直れないような気がするのです。


「……そうか。では、単刀直入に言おう。……六人目の聖女が、現れた」


 イーノク様はそんなことを意を決したようにおっしゃいました。さらに言えば、私から視線を露骨に逸らされたり視線が定まっていませんね。……どうやら、私に何か言いにくいことをおっしゃろうとしているご様子。


「それで、だな。……その、六人目の聖女であるシンディ・ランプレヒト嬢を……側妃に、迎え入れようと思う」

「……」


 イーノク様のお言葉に、私はただ茫然としてしまう。何? それを、私に直接おっしゃるのですか? 側妃を迎えること自体は、何も悪いことではありません。世継ぎを残すことは、大切なことですから。


「……では、イーノク様はそれだけを私に伝えたかったということですか?」


 私は、苛立ってしまった。


 歯切れの悪いおっしゃり方。彷徨っている視線。それは、つまり私のことを愛するつもりは一切ないとおっしゃりたいのでしょう? それくらい、分かります。だって、前の時間軸でそうでしたから。


「あ、あぁ、そうだ。それから……実は、シンディからは相談を受けていた。シンディが、お前に虐められていると」


 それに合わせ、そのお言葉。それに、私は開いた口がふさがらなくなりそうでした。このお方、何をおっしゃっているの? 私がシンディ様を虐めた? 何ですか、それ。


「……お言葉ですが、私はつい先日シンディ様と対面したばかりですわ。それ以前にお会いしたことはありません」

「いいや、嘘だな。シンディはお前に前々から嫌がらせを受けていたと相談に来ていた。……今までは黙って見過ごしていたが、シンディが聖女だと分かった以上、フライア嬢の行いは見逃せない」


 イーノク様は、そんなことを私に対しておっしゃる。そのお言葉を聞いた時、私は手のひらをぎゅっと握りしめてしまいました。爪が、手のひらに食い込んでいたい。いや、それ以前の問題。……このお方について来てしまった私自身を、嘲笑いたかった。そうとさえ、思ってしまう。心のどこかでは、このお方に期待していたのではないの? そう言って、自分自身を嘲笑ってやりたかった。


「……フライア嬢。お前が、このまま変わらないのならば……こちらにも、考えがある。だから、シンディにきっちりと謝罪をしてくれ」


 そのお言葉を聞いた時、私は思わず笑ってしまった。なんですか、それ。私の意見も全く利かずに、こっちに罪を認めろですって? バカバカしい。やっぱり、このお方には一切期待が出来ない。見捨てて、いい人間。


「やってもいない罪を認めろ、ですって? それほど愚かなことはありませんわ。……私は神に誓ってシンディ様に嫌がらせをしたことはないと主張します。はっきりと訊きます。証拠は、あるのですか?」

「シンディがそう言っている。証拠などなくても、信憑性は十分だ。フライア嬢がそんな令嬢だとは思わなかった。……見損なったぞ」

「見損なったのはこちらです、一方的な証言を信じ、糾弾する。そんなの、王太子がしていいことではありません。きちんと双方の意見を聞き、第三者の証言を聞いてから――」


 ――バチン。


 私が、自らの意見を言っていた時に頬を襲った痛み。それは……頬を何かで叩かれたような衝撃でした。私は、それに驚いて目をぱちぱちと瞬かせてしまう。すると、目の前には怒りに満ちたようなイーノク様がいらっしゃって。……あぁ、この人が私のことを叩いたのだと、すぐに分かった。


「……これが、シンディの痛みだ。分かったな。分かったならば、もうフライア嬢と話すことはない。……さっさとここから消えろ」


 イーノク様の今まで見たことがないような冷たい視線。いいや、見たことは前の時間軸でならば何度だってある。前の時間軸で、私は散々この冷たい視線で見つめられた来たじゃないか。……あぁ、バカみたい。きっと、イーノク様が望んでいたのは今までの私のような「主張をしない都合のいいお人形」だった。主張をし始めたら、暴力で黙らせようとする。……本当に、どうしようもないお方。


「何だ、その目は」


 私がイーノク様を睨みつけていると、イーノク様は私に対して高圧的な言葉を投げつけてこられました。……その時、私はすべてを理解したような気がしました。イーノク様が私と婚約を続けているのは……王位を継ぐため。ディールス公爵家という後ろ盾を使い、王太子という身分を確たるものにするため。そうしないと……妹である王女様に、王太子という座を奪われてしまうから。


「……イーノク様。そんなにも……妹様に、王太子という座を奪われたくないのですか?」

「っつ!」


 その言葉を私がイーノク様に投げつけたとき……イーノク様の目が、露骨に揺らいだ。そして――……。


「黙れ! 身分だけの女のくせに!」


 そうおっしゃって、私のことを殴ろうとされた。


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