低めの屋上(2回目)
理由はわからなくても、自分の作ったぬいぐるみがクラスの美少女のお気に入りって状態に対して、悪い感情を抱くわけがない。
普通に嬉しい。
なのでなんだかんだでご機嫌に、僕は昼休み後、教室に戻った。
え、ちょっと待って。
また置き書きあるんですが。
読んでみると、
『春岬です。放課後、低めの屋上に来て欲しいな〜』
なんだよこれ。また同じ展開か?
「愛佳ちゃんから聞いたよ! これ作ったの、丸野くんなんだって?」
「あー、そうなんだけどね、そうだよ」
「すごい可愛いー! ねえ、わたしにももう一個作ってほしいの」
「あ、うんわかったけど」
「やった!」
いや、春岬、喜んで僕の手を握ってぶんぶんしてるけど。
そしてその手を自分の胸元に近づけて……。
「丁寧に作ってねよろしくっ」
あ、わかりました丁寧に作ります……。
なんでこんなに親密さを急に出してきたのか戸惑っていた僕だった。
その日、家に帰って僕は早速、カピバラのぬいぐるみ作りに取り掛かった。
今日は課題も特にないので、夜遅くまで時間を費やせば、今日中に二つ完成するだろう。
けど。
なぜ、もう一つ欲しいのか。
もともと、二人とも一つ持っている。それを大切にするのでは、ダメだったのか。
わからないけど、二人とももう一つ、同じカピバラのぬいぐるみが欲しかったということになる。
そう考えると、昨日の駒原と春岬の行動の理由に関しても、少し予想できる。
自分がいかにカピバラのぬいぐるみが大好きであるかをクラスの中心で話せば、誰か……そう、ノリでぬいぐるみを買って、早速埃が積もり始めてしまっている誰かが、二人にぬいぐるみをあげるかもしれない。
しかし、そこまでうまく行かなかった。
だから、たいして親しくもないけど、クラスで唯一のぬいぐるみ部員である僕にお願いしにきた。
そして、実はカピバラのぬいぐるみを作ったのは僕だとわかり……という流れな気がする。
よし、とにかく今日中に作ってしまおう。
僕は集中して、針を進めた。
お読みいただきありがとうございます。
なんかそろそろメインヒロインポジションの人が出るのが近づいている気がしますね。