理由を先輩に相談してみた
僕は考えた。
世界にはたくさんのぬいぐるみがある。
僕が作ったカピバラのぬいぐるみをあそこまで気に入ってくれる人がいるだろうか。
まあ自分としてはかなり可愛く作ったつもりなので、いるっちゃいるかもしれないと思いたいけど。
でもクラスに二人もいるか普通……? しかも美少女。
少し不思議に思いながら僕はぬいぐるみの部室に向かった。
昔は部室がなくて、図書館や、音楽室の荷物置き場で活動していたらしい。
今の部室は、先輩方の努力の賜物だ。
部室に入ると、二人の女子がしゃべりながらぬいぐるみを作っていた。
高二の、柴崎えりか先輩と根間万実音先輩である。
「お、きたきた丸野成樹くん。略してまるせいくん」
あだ名の由来を毎回自慢げに話してくるこの人が万実音先輩で、穏やかに僕に手を振ってくれた人が、えりか先輩である。
「お、なんか考えごとをしてるね」
「あはいしてますね」
僕は答えた。
もしかしたら、先輩なら何か思いつくことがあるかも。
だから僕は言った。
「僕のカピバラのぬいぐるみって、可愛いですか?」
「え? 普通に可愛いと思うよ。どうして? あー、誰か好きな人にプレゼントでもすんの?」
「しません」
「じゃあなんで急にそんなこといい出したの?」
「それはですね……まあやたら僕のぬいぐるみの可愛さを語っているクラスメイトがいまして……」
僕は先程あったことを万実音先輩に話した。
聞き終わると万実音先輩は大きくうなずいて、
「なるほど。よくわかんないわ」
「あ、全然頼りにならなかった」
「それは心の中でいうセリフにしなさい」
「ごめんなさい」
僕は謝るがそれと同時に、万実音先輩に頭をぐりぐりされた。
「ま、なんでかわかんなくても、可愛い子が二人も気に入ってくれてるなら何よりじゃん」
「あい、そうだとおもいます。思いますんでストップ」
やっとぐりぐりから解放された僕に、これまでずっと黙ってたえりか先輩が言った。
「特別可愛くなくてもね、そのぬいぐるみが大切になることはある思うよ。何か、そのぬいぐるみに特別な思い入れがあれば」
「なるほど……そうですよね」
僕はうなずいた。
以前えりか先輩が大切にしているぬいぐるみの話を聞いたことがある。
もうとっくに卒業してしまったここのぬいぐるみ部の部員が作ったものらしいんだけど、かなり下手だったらしい。
それでも、えりか先輩がそのぬいぐるみを今でも大切にしているのは、そのぬいぐるみが、かつて病気になっていて学校に行けなかった自分を励ましてくれた、特別な存在だったからだ。
確かに、そういうケースもあるだろう。
しかし、だとすれば、プライベートな話になる。
駒原とも春岬とも接点がない僕に理由を想像するのは不可能。
なので、なんでかわかんないけど、とにかく僕の作ったぬいぐるみを気に入ってくれて嬉しいな。まあ理由は知らないままでいいや。
そう思うことにした。
しかし、次の日。
朝登校すると、僕の席のところに置き書きがあった。
『昼休み、低めの屋上に来てください。駒原』