クラスの女子が僕の作ったぬいぐるみについて話している。
渚ヶ丘学園の特徴の一つとして、部活動の数が多いことが挙げられる。
毎年、文化祭、その他各種実績によりそれぞれの部活に対する予算の配分が決められたりするが、その時に、思わぬ部活の勢力が増したり、逆に廃部になる部活があったりする。
そして、ここ数年少しずつ成長してきて、今や校内の誰もが知るようになった部活、それが、ぬいぐるみ部だ。
ぬいぐるみ部の活動は主に二つ。
ぬいぐるみを作って販売することと、ぬいぐるみを使った劇を小学生に向けて行うことだ。
後者は後者でJSと戯れることができるのでそれはそれで楽しいのだが、今回は、前者についての話をしたいと思う。
文化祭で、ぬいぐるみ部はたくさんのぬいぐるみを売り上げた。おかげで来年は安泰。
まあそうは言っても、そのぬいぐるみをどれだけ今、みんなが大切にしてくれてるかはわからない。
もしかしたらノリで買って、もうすでに埃が積もり始めているかもしれない。
ぬいぐるみ部の数個上の先輩の言葉が語り継がれている。
「ぬいぐるみには綿だけではなくて、作った人の想い、そして、持ち主の思い出が詰まっている」
その通りだと思う。
今年からぬいぐるみ部に入った高一の僕だって、自分なりに、想いをこめてぬいぐるみを作ったつもりだ。
だから買ってくれた人がたくさんいたことは嬉しかったし、大切にしてほしいな、と思う気持ちも当然ある。
だけど、おかしい。
流石におかしい。
僕は、教室の隅から、少し離れたところで交わされている会話を見た。
クラスの中心がそこにある。
その中でもさらに中心の二人。
一人は、駒原愛佳という。背が高めで、バレーボール部に所属。彼女がスパイクを打った瞬間を目撃した男子の三分の一が鼻血を出したという、あまりに馬鹿馬鹿しいうわさがある。
しかし、バレーボールで鍛えられた太ももと、軽やかに動けるか心配になる程大きめの胸は、まあ……視線がそっちに行くよね。
ぬいぐるみを作っていたら、気を取られて手に針を刺してしまうレベルだ。
もう一人は、春岬琴葉。茶道部に所属。彼女とともに茶道をたしなんだ男子の三分の一は、足が痺れるという。それ単に正座が苦手なだけだな。
しかし、小柄で、なんだかなでなでしたくなる雰囲気がある。はっきり言って、めちゃくちゃ可愛い。
寝ぼけていたら、ぬいぐるみと間違えて、思わず抱きしめてしまうかもしれないレベルだ。
そして二人が何を話しているか。
それは僕の力作のカピバラのぬいぐるみを二人が見せびらかしていることからも明らかで。
いかにカピバラのぬいぐるみが可愛いかについて、話しているのである。
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