表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/36

恐怖の奥多摩エルブン組手

 奥多摩の森の広場で向き会う、二人のエルフ。

 日本人中年男性エルフ、館林ノリヒロ。発情期の成人女性巨乳エルフ、ポンティ。立会人は彼らの師である、ふんどし幼女の古エルフ。


 これから始まるのは目突き有り金的あり反則なし、参ったと言っても終わらないエルブン組手だ。とは言え、いつもであれば死ぬまで続くことはない。ノリヒロが白目をむいて、全身の骨を折り、血の泡を吹き、失神する程度で終わる。性欲にまみれたポンティにも、頑固な弟弟子を殺さぬ程度の理性は残っていた。

 しかし今回、その"たが"が外れている。


「なにをボサッとしとる。もう開始(はじ)まっとるぞ」


 師は戦いの口火を切った。

 しかしポンティは無造作に立ち尽くしたままだ。その美しい顔立ちは今、能面のように硬い。ノリヒロへの殺意で固まっているのだ。


 対するノリヒロは動けなかった。蛇に睨まれた…というより、すでにその胃に収められたカエルである。

 ポンティのほとばしる殺意だけがゆえでは無い。広大な自然公園を一点に凝縮したかのような、ポンティの強大なマイナスイオンに圧倒されているのだ。


「あんなに可愛がってあげたのに。私とパコるつもりが無いだと?許さん」


 ポンティがゆるりと右腕を持ち上げる。そしてその大きな乳房が不自然に大きく跳ねる。


 ぶるん。


 ─来る!


 ノリヒロは備える。


()ッ!!」


 エルブン三戦(サンチン)の構えだ!体幹の制御により、あらゆる打撃を受けきる大木と化す"受け"の技。


「ゲボオーッ!!!」


 衝撃波がエルブン三戦(サンチン)を根こそぎ貫通!等速直線運動で吹っ飛んだノリヒロは樹齢四十年のヒノキに激突!


 しかしポンティは、未だ一歩も動いていない。彼女の攻撃は、ただ右手を振るっただけである。音速を超える速度で空気を打ち、ソニックブームを発生させたのだ!

 森林拳に熟達したエルフは、動かずして破壊の風を巻き起こし、火や雷を呼ぶ。これが、エルフが魔法を使うと言われる所以である。

 対するノリヒロはエルフになってまだ一年。言わば一歳の、日本人中年赤ちゃんエルフである。発情期を迎えた生粋の巨乳エルフに勝てる道理はない。年季が違いすぎる!


 じゃり。


 ポンティが歩み寄る。ノリヒロの背後のヒノキが傾き、めきめきと音を立てながらゆっくりと倒れた。


 じゃり。


 ポンティが口を開いた。断固たる殺意の込もった、しかし歌うような声だ。


「…じゃあこうしましょう。ここで私に殺されたら死ぬ。もし生き延びられたのなら、私とねんごろになる」


「グホッ…、ハア、ハア…もし、私が勝ったらどうする」


「万が一にもあり得ないけど…あなたのカキタレになってあげるわ。セフレと言い換えても良い」


「死の他は全部同じだろう。私が勝ったら……私の思い人に、交際を申し出る許可をよこせ!」


「……交際?…申し出?…この、腐れ童貞脳がッ!!!」


 音速拳!

「グワー!!」

 等速直線運動で樹齢八十年のヒノキに叩き付けられるノリヒロ!


「よおし決めた、ノリヒロ!お前のおちんちんだけは残して、床の間に飾って時々ナデナデしてやる。それ以外の部分はチリも残さん!!!」


 恐るべき若エルフの性衝動と殺意の倒錯。エルフになる前のノリヒロであれば、重度のEMC(エルブン・メンタル・クライシス)に陥り失神している。いやその前に、音速拳を食らってすでに原型を留めぬ肉片となっていただろう。


 しかし今のノリヒロは違う。そう、ノリヒロはエルフなのだ。たとえ赤ちゃんであっても、日本人中年男性の、エルフだ!



「ゲホッ……ググ…ハアア」


 スウウウウ……ハアアアアアア。

 森呼吸。


「心の中に森を持て。その時、お前はすでにエルフじゃ」


 師の言葉を思い出す。


「なぜエルフになんぞなりたがる?人は人として生き、死ぬものじゃ」


「エルフと添い遂げるためでございます」


「…ふむ、ポンティに限らず、最近の女エルフは乳もでかいし皆エッチじゃ。お前が憧れるのも分かる。…レース付きのパンティを履く軟弱さがタマに傷じゃがな…」


 師よ、違うのです。



 スウウウウ……ハアアアアアア。

 森呼吸。

 括約筋に力を込める。

 そしてノリヒロはその身を低く、ほとんど地に伏すように低く構えた。そして右腕を可憐な花のように立ち上げる。


 森林拳・ユキノシタの型!

 ユキノシタ!山地に湿った場所に生息する草木!緑の小さな葉は山菜として食用にされる。

 その花言葉は……"切実な愛情"!!


「何が愛だッ!!しゃらくせええええ!!!!」


 ポンティが空高く飛び上がった!宙返りからの…森林拳・ムーンサルト大樹震脚!

 音速を超える速度で打ち込まれる震脚、その威力はさながら小型隕石。当たれば骨すら蒸発するキロジュール!


 しかしノリヒロは、小型隕石と化したポンティの脚を……避けない!?ユキノシタの型で受けきるつもりか。サイクロプスが我が目を疑う光景だ!


 ノリヒロは、脳内麻薬の分泌による相対的高速思考で、ポンティの震脚を捉えた。


 ポンティの赤熱した脚と、ノリヒロの手刀が触れる。


 衝突の刹那、電子と熱エネルギーの放射が起こり…ノリヒロのシャツが弾け飛び、ズボンとパンツが消し飛んだ。右手に樹状亀裂が走り、中の骨肉が露わになる……しかし最後に弾け飛んだのは、ノリヒロの肉体では無い。ポンティだ!!


「んほおおおぉぉぉぉ!!!!!」


 ……一体何が起こったのか?北欧神話やトールキンなどの、古典エルフ文献に明るい読者であればお分かりだろう。

 ノリヒロは小隕石級の衝突エネルギーを、体内の森林コントロールにより吸収・分散させ…そして反射するエネルギーをバラボラアンテナのごとく一点に集中し、押し返したのだ。繊細な森林コントロールとエルブン位相幾何学が可能にした森林合気、EYC(エルブン・ヤマビコ・チェンバー)だ!!


 ポンティの衣類は消し飛び、全裸の女エルフは空中高速回転し…樹齢百六十年のヒノキに激突!!

 ヒノキにめり込んだポンティは動かない。日本人中年男性赤ちゃんエルフ、ノリヒロの勝利である!




「見事じゃ!あっぱれじゃ!!ノリヒロ!!」


「ハア……ハア……は、はじめて…姉弟子に……勝ちました」


「うむうむ、良くやった。

お前の"森"はポンティのそれに比べ、都会の植林と、富士の樹海ほどの差があったのじゃがのう。体内の森林コントロールで、それを覆したのじゃ!アツいぞ!

ポンティは…よしよし、生きとる。奴のオナニー中毒にはいいお灸になったじゃろ。基礎を疎かにした報いじゃ。あっはっはっは」


「…ゲホッ、師匠。お話が…ございます」

 全裸で血まみれのノリヒロは、血を吐きながら言った。正座している。


「おう、何でも言うてみい!ワシは今上機嫌じゃ、褒美も取らしてやろうか」


「では……私と…結婚を前提としたお付き合いをしていただきたく存じます」


「は?」


 冗談ではない。全裸正座で血まみれのノリヒロは、まさに真剣の面持ちだ。


「私と結婚を前提としたお付き合いをしていただきたく…ゲホッ!…ゲホッ」


「……ちょっと待て。…ワシは見た目は幼女じゃし、中身は古エルフのババアじゃ。お前さんとワシは…大人と子供どころか、無機物と精子ほどの開きがある」


「…先ほど師匠は、エルフの婚姻に年齢は関係ないとおっしゃいました」


「…お前、ロリコンじゃったのか?それともババコンか?」


「どう思っていただいても一向に構いません。私がわざわざエルフになって添い遂げようと思ったのは、師匠。あなたなのです」

お読みいただきありがとうございます。

よろしければご評価orブックマークをよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ