恐怖の奥多摩エルブン組手
奥多摩の森の広場で向き会う、二人のエルフ。
日本人中年男性エルフ、館林ノリヒロ。発情期の成人女性巨乳エルフ、ポンティ。立会人は彼らの師である、ふんどし幼女の古エルフ。
これから始まるのは目突き有り金的あり反則なし、参ったと言っても終わらないエルブン組手だ。とは言え、いつもであれば死ぬまで続くことはない。ノリヒロが白目をむいて、全身の骨を折り、血の泡を吹き、失神する程度で終わる。性欲にまみれたポンティにも、頑固な弟弟子を殺さぬ程度の理性は残っていた。
しかし今回、その"たが"が外れている。
「なにをボサッとしとる。もう開始まっとるぞ」
師は戦いの口火を切った。
しかしポンティは無造作に立ち尽くしたままだ。その美しい顔立ちは今、能面のように硬い。ノリヒロへの殺意で固まっているのだ。
対するノリヒロは動けなかった。蛇に睨まれた…というより、すでにその胃に収められたカエルである。
ポンティのほとばしる殺意だけがゆえでは無い。広大な自然公園を一点に凝縮したかのような、ポンティの強大なマイナスイオンに圧倒されているのだ。
「あんなに可愛がってあげたのに。私とパコるつもりが無いだと?許さん」
ポンティがゆるりと右腕を持ち上げる。そしてその大きな乳房が不自然に大きく跳ねる。
ぶるん。
─来る!
ノリヒロは備える。
「呼ッ!!」
エルブン三戦の構えだ!体幹の制御により、あらゆる打撃を受けきる大木と化す"受け"の技。
「ゲボオーッ!!!」
衝撃波がエルブン三戦を根こそぎ貫通!等速直線運動で吹っ飛んだノリヒロは樹齢四十年のヒノキに激突!
しかしポンティは、未だ一歩も動いていない。彼女の攻撃は、ただ右手を振るっただけである。音速を超える速度で空気を打ち、ソニックブームを発生させたのだ!
森林拳に熟達したエルフは、動かずして破壊の風を巻き起こし、火や雷を呼ぶ。これが、エルフが魔法を使うと言われる所以である。
対するノリヒロはエルフになってまだ一年。言わば一歳の、日本人中年赤ちゃんエルフである。発情期を迎えた生粋の巨乳エルフに勝てる道理はない。年季が違いすぎる!
じゃり。
ポンティが歩み寄る。ノリヒロの背後のヒノキが傾き、めきめきと音を立てながらゆっくりと倒れた。
じゃり。
ポンティが口を開いた。断固たる殺意の込もった、しかし歌うような声だ。
「…じゃあこうしましょう。ここで私に殺されたら死ぬ。もし生き延びられたのなら、私とねんごろになる」
「グホッ…、ハア、ハア…もし、私が勝ったらどうする」
「万が一にもあり得ないけど…あなたのカキタレになってあげるわ。セフレと言い換えても良い」
「死の他は全部同じだろう。私が勝ったら……私の思い人に、交際を申し出る許可をよこせ!」
「……交際?…申し出?…この、腐れ童貞脳がッ!!!」
音速拳!
「グワー!!」
等速直線運動で樹齢八十年のヒノキに叩き付けられるノリヒロ!
「よおし決めた、ノリヒロ!お前のおちんちんだけは残して、床の間に飾って時々ナデナデしてやる。それ以外の部分はチリも残さん!!!」
恐るべき若エルフの性衝動と殺意の倒錯。エルフになる前のノリヒロであれば、重度のEMCに陥り失神している。いやその前に、音速拳を食らってすでに原型を留めぬ肉片となっていただろう。
しかし今のノリヒロは違う。そう、ノリヒロはエルフなのだ。たとえ赤ちゃんであっても、日本人中年男性の、エルフだ!
「ゲホッ……ググ…ハアア」
スウウウウ……ハアアアアアア。
森呼吸。
「心の中に森を持て。その時、お前はすでにエルフじゃ」
師の言葉を思い出す。
「なぜエルフになんぞなりたがる?人は人として生き、死ぬものじゃ」
「エルフと添い遂げるためでございます」
「…ふむ、ポンティに限らず、最近の女エルフは乳もでかいし皆エッチじゃ。お前が憧れるのも分かる。…レース付きのパンティを履く軟弱さがタマに傷じゃがな…」
師よ、違うのです。
スウウウウ……ハアアアアアア。
森呼吸。
括約筋に力を込める。
そしてノリヒロはその身を低く、ほとんど地に伏すように低く構えた。そして右腕を可憐な花のように立ち上げる。
森林拳・ユキノシタの型!
ユキノシタ!山地に湿った場所に生息する草木!緑の小さな葉は山菜として食用にされる。
その花言葉は……"切実な愛情"!!
「何が愛だッ!!しゃらくせええええ!!!!」
ポンティが空高く飛び上がった!宙返りからの…森林拳・ムーンサルト大樹震脚!
音速を超える速度で打ち込まれる震脚、その威力はさながら小型隕石。当たれば骨すら蒸発するキロジュール!
しかしノリヒロは、小型隕石と化したポンティの脚を……避けない!?ユキノシタの型で受けきるつもりか。サイクロプスが我が目を疑う光景だ!
ノリヒロは、脳内麻薬の分泌による相対的高速思考で、ポンティの震脚を捉えた。
ポンティの赤熱した脚と、ノリヒロの手刀が触れる。
衝突の刹那、電子と熱エネルギーの放射が起こり…ノリヒロのシャツが弾け飛び、ズボンとパンツが消し飛んだ。右手に樹状亀裂が走り、中の骨肉が露わになる……しかし最後に弾け飛んだのは、ノリヒロの肉体では無い。ポンティだ!!
「んほおおおぉぉぉぉ!!!!!」
……一体何が起こったのか?北欧神話やトールキンなどの、古典エルフ文献に明るい読者であればお分かりだろう。
ノリヒロは小隕石級の衝突エネルギーを、体内の森林コントロールにより吸収・分散させ…そして反射するエネルギーをバラボラアンテナのごとく一点に集中し、押し返したのだ。繊細な森林コントロールとエルブン位相幾何学が可能にした森林合気、EYCだ!!
ポンティの衣類は消し飛び、全裸の女エルフは空中高速回転し…樹齢百六十年のヒノキに激突!!
ヒノキにめり込んだポンティは動かない。日本人中年男性赤ちゃんエルフ、ノリヒロの勝利である!
「見事じゃ!あっぱれじゃ!!ノリヒロ!!」
「ハア……ハア……は、はじめて…姉弟子に……勝ちました」
「うむうむ、良くやった。
お前の"森"はポンティのそれに比べ、都会の植林と、富士の樹海ほどの差があったのじゃがのう。体内の森林コントロールで、それを覆したのじゃ!アツいぞ!
ポンティは…よしよし、生きとる。奴のオナニー中毒にはいいお灸になったじゃろ。基礎を疎かにした報いじゃ。あっはっはっは」
「…ゲホッ、師匠。お話が…ございます」
全裸で血まみれのノリヒロは、血を吐きながら言った。正座している。
「おう、何でも言うてみい!ワシは今上機嫌じゃ、褒美も取らしてやろうか」
「では……私と…結婚を前提としたお付き合いをしていただきたく存じます」
「は?」
冗談ではない。全裸正座で血まみれのノリヒロは、まさに真剣の面持ちだ。
「私と結婚を前提としたお付き合いをしていただきたく…ゲホッ!…ゲホッ」
「……ちょっと待て。…ワシは見た目は幼女じゃし、中身は古エルフのババアじゃ。お前さんとワシは…大人と子供どころか、無機物と精子ほどの開きがある」
「…先ほど師匠は、エルフの婚姻に年齢は関係ないとおっしゃいました」
「…お前、ロリコンじゃったのか?それともババコンか?」
「どう思っていただいても一向に構いません。私がわざわざエルフになって添い遂げようと思ったのは、師匠。あなたなのです」
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