一生童貞宣言をどエッチなエルフに聞かれたら確実に殺されると言われてももう遅い
日本国東京都奥多摩のとある森に建つ古民家。
家路に着いたふんどし幼女のエルフを、一人の男が出迎える。男は用意していた着物をエルフに着せて言った。
「お帰りなさいませ、師匠。食事も風呂もご用意してあります」
男の名は館林ノリヒロ。中年日本人男性エルフである。
元は国家公務員の閑職であったが、エルフに弟子入りし、厳しい修行を経て自身もエルフになった。師が握力で尖らせた耳以外、見た目は一般的な日本人中年男性のままであり、戸籍上も日本人である。
「本日の夕げは鯖味噌と煮しめ、タコのカルパッチョ、汁物は旬のキノコ。デパ地下で買った松前漬けとメロンもございます」
「うむうむ、苦しゅうない。ノリヒロよ、お前さんは良いエルフの婿になるじゃろ。ポンティはどこじゃ?」
その名が呼ばれると、空から巨乳のエルフが降ってきた。跳躍によって樹々を飛び越えて来たのだ。
ポンティはノリヒロの姉弟子に当たる、生まれながらのエルフだ。胸や尻を過度に強調した痴女のような格好で、実際痴女である。
着地のついでに、ノリヒロの顔面に乳房を当てがっていた。
「失礼、おひいさま。野糞をしておりました」
「…そこはお花摘みと言わんか。ほれ、お前たちに土産じゃ。月の裏で詰んできた花ぞ」
「月の裏?お花畑でもあるんですか?それとも何か卑猥な隠語ですか、クレバスとかそういう」
「失礼な。師匠が月に行ったと言えば、間違いなく月に行ったのだ」
「ええわいええわい、飯にしよう。ポンティ、ちゃんと手は洗うんじゃぞ」
食事が済むと、ノリヒロはコップに生けた土産の花をちゃぶ台に置いた。
師はノリヒロに尋ねる。
「この花を見てどう思う」
「可愛らしいと思います」
「花の心がわかるか」
「セックス。アンド・デストロイ」
「その通りじゃ。植物の心とは、繁殖と、外敵の駆逐じゃ。そもそも花とは生殖器じゃしの」
全ての植物は…植物同士で、土と水と日照権を巡って熾烈な争いを続けている。他種を淘汰しなければ生き残れない。
可憐な花とは他種より優れたセックスとバイオレンスの産物なのだ。
「お前もかなりエルフ味が出てきたようじゃのう。
…風呂の前に、ちと腰を揉んでくれ。久々に動いたからな」
「かしこまりました。布団をお敷きいたします」
ノリヒロはアロマオイルを両手に垂らし、寝そべった師の体をほぐし始めた。ラベンダーの香りが床の間に広がる。
師は見た目は幼女の体でも、その実年齢は計り知れないほど長い古エルフだ。ノリヒロはマッサージを通じて、師の肌と筋肉とその奥に秘めた森に、星々にも勝る年月を垣間見る。
もみもみもみもみ。
もみもみもみもみ。
「それで……お前…ポンティとは、まだやっとらんのか」
「やった、とは何をです?組手という名の殺し合いでしたら、週一でやっております」
ぐりぐりぐりぐり。
「あーそこそこ……セックスじゃ。交尾じゃよ」
ノリヒロの手が止まる。
「…やってはおりません」
ノリヒロは三十六才、未だ童貞であった。
もみもみもみ。
「とっととやってしまえば良いのに…お前さんも…頑固じゃの。
ポンティのやつはなあ…一日に平均二十回オナニーしとるぞ。最高記録で百三とか……可愛い顔して、台風のような性欲じゃ。
お前さんとも…常にエッチしたいと…思っておる…もはや据え膳というものじゃろが……んん…」
ノリヒロは思いあたる。ことあるごとに胸を押し付けてくるし、常に下着をチラつかせていいる。組手の最中に顔面騎乗された回数は知れない。
若いエルフの頭の中というものは、セックスか殺戮しか無い。セックス・アンド・デストロイ。植物の性質を色濃く受け継いだ、エルフのサガである。
「婚前性交渉など…」
「ならば……さっさと娶ってしまえばよかろう…ポンティも……まんざらではあるまい。うむうむ、ああー足もええのう。極楽じゃ」
もみもみもみもみ。
「……年齢が離れすぎております。私は三十六。ポンティは、百七十八歳です」
「俗世と関わらぬエルフに…んん…年齢なんぞ…関係あるまい…」
ノリヒロは手を止めて言った。
「そうですか。……白状します、師匠。私にはすでに心に決めた者がおります。故にポンティとは性交渉するわけには参りません。
……いえ、いずれにせよ私は童貞のまま死ぬ覚悟です」
「なんじゃ、そうなのか?しかしそれをポンティに聞かれたら、お前、確実に殺されるのう」
しまった、とノリヒロは思った。
「もう遅い」
床の間のふすまが音もなく開く。
ポンティだ。
会話は全て聞かれていた。
その瞳孔はすぼみ、髪は攻撃色に輝いている。
「童貞のまま死ぬだと?ならば今死ね。
散々気を待たせやがって…この、ど腐れ中年竿エルフ。表へ出な…お前のキンタマぶち抜いてやる!」
「かっかっか、ノールールじゃ。やれやれ!」