第二話 嵐の前の静けさ
学校の校庭に戻ってきた俺たちAクラスのほとんどは、すでに解散の指示が出た後に帰って行った。
そして俺は、そんな休日の学校の校舎の中、廊下を歩いていた。俺以外には、来菜、七香、竜那、竜佳、それから雄二とマキナがいる。
ガウエルたちは居場所が確保できるまで、一時的に俺の家に泊めておくことにした。そのためにエルたちと一緒に先に帰ってもらった。
…そろそろ俺の家がおかしくなりそうだ。
「…お兄が治癒魔法使えなくなったなんて…。」
歩きながら七香がこれまでの事を詳しく来菜に話している。
「そうなの。だからそれを解除する目的も兼ねているのよ。…ただ、絡斗の父親の件、少し残念だったね。」
俺と来菜が飛ばされたところで俺の父親の体を借りた、先祖に当たる影史と会ったことを話している。
「そこは問題ないから、あまり気を張りつめないでくれ。」
「…分かったわ。ところで、ここって校長室?」
俺が足を止め、1つの扉の前で立ち止まる。それに連なって他のみんなも足を止める。
「入るぞ。」
「ええっ!?校長室に!?」
この学校でのトップである校長先生。その校長室には限られた人しか入れず、俺も今まで入ったことは無かった。生徒の中でも入ったことがあるのは3年生に1人だけらしい。
「…失礼します。」
俺は堂々と部屋の中に入る。他のみんなもゆっくりと部屋の中に入ってくる。
部屋の中には、椅子に腰掛けて窓の外を眺めている人物が1人。それから、隣には幸崎先生と南先生が立っていた。
「…日向絡斗君。君が妖精族との『人妖同盟』を交わすための仲介の役目を果たしたそうだな?」
「そうです。」
俺は即答する。
「内容は、ここ『ヒュームセカイ』と『アルフセカイ』での完全平和協定。またこの『セカイ』のトップ…WFPWAのマスターも肯定し、同盟内容についてはこの「上岡高校」の教師または生徒が一番に発言権があると。」
校長先生…王庵蓮弘先生がそう言いながら振り返る。
「…とても素晴らしい。君は今の『ニホン』を変える唯一の人材ではないか。」
と、笑みを浮かべ俺を称賛してくる。
「…そして君の担任教師、幸崎先生から聞いたのだが、この同盟を取り組んだ日向君ではなく、私が優先に物事を進めても良いと言うことらしいが本当かね?」
「はい。面倒事はあまりしたくないと言うのもありますが、今のこの『ニホン』の思想は偏っている。それに校長先生は気づいているはずです。俺たちと同じように、他種族全てが敵ではないということに。」
俺の言葉に校長先生は頷きながら真剣に聞いている。
「ならば裏切られるということはないことですから。校長先生に委ねたいんです。」
「そこまで言われたら仕方ないな。…分かった。こっちで色々としよう。何かあれば君を呼ぶがそれでも構わないかな?」
「もちろんです。手伝えることならば手伝います。」
俺たちはそれだけの会話をして、校長室…学校を後にした。
「マキナがいる必要あった?」
七香が聞いてくる。
「他種族が実際にいて危害がなければより効果的だからな。それに人族と最もかけ離れている神族だ。居るだけでも俺たちの信用性は充分だろ。」
俺はそう言い校門を出ていった。
「このあと絡斗の家寄る?」
不意に竜那が変なことを言い出してくる。
「まじで言ってるのか?」
「まじよ。まじ。」
皆を見ると、どうやら皆も来そうな雰囲気をしている。
「…せめて明日にしてくれ。このあとは別に用事があるんだ。」
「そう。なら明日行くわ。2日間休みだし。」
そう言って、竜那と竜佳は先に帰った。それに続いて、七香と雄二も帰って行った。
「マキナも家に戻っておいてくれ。」
「了解した。」
そう言い、マキナも転移で家へと帰る。
この場には俺と来菜の2人だけが残った。
「来菜には悪いがこの後も付き合ってくれないか?」
「全然良いよ。お兄と一緒にいられるから♪」
なんとも良い妹を持ったものだ。
「それじゃまずは…」
そう言って俺はある人物に連絡をした。
「……。」
ーーー来菜の不自然な視線に気づかずに。
しばらくして1人の人物が目の前にやってくる。
「いきなり呼び出すなんて人使いが荒いわね。」
「悪かったって。」
そう言って現れたのは麗だ。そしてその背後にはもう1人人物がいる。
「君が日向君?初めましてね。」
「初めまして。」
その人物は、なんと言うか色々と凄かった。そしてその人物は前々からも麗が言っていた人物。
「私は「五豪」の1人の、メイちゃんよ。よろしく〜。」
と、ウインクしながら自己紹介をしてきたのだ。
「ふむふむ。本当に影史は代々転生を繰り返しているのですね。」
俺は説明するように言ったはずだが全く説明していなかった麗を叱りつつ俺がメイさんに説明をしたのだ。
「で、早速その影史の居場所に転移すればいいの?」
メイさんが俺にそう質問してくる。
「そうですね。…これが影史の今いる場所らしいんですけど、行けますか?」
メイさんクラスになると、一度も訪れたことがない場所でもその場所の名前や座標、風景を知れば感覚で転移魔法ができるという。
「行けますか?」
「…うん、大丈夫ね。それじゃ転移するわよ。」
そうして、俺と来菜、麗とメイさんは影史の元へと転移した。
「…お兄って転移魔法使えないの?」
ふと来菜が転移のことで俺に疑問を抱いた。
「そうだよ。あれ?忘れたのか?」
「い、いや今まで使わなかっただけで、できるのかなぁって思ってた。」
「そうだったんか。お前も使えないだろ?」
「…う、うん。」
少し返事に迷いがあるように感じたが気のせいだろう。
前を見ればそこには1つの家が建っているだけで周りは木に囲まれていた。
「ここね。」
メイさんが躊躇なく家のドアを開ける。
「…あ?誰だあんたら。」
中には昨日会ったばかりの影史がソファに座って剣を磨いていた。
「…話があるんだが。」
「…なんだ、絡斗じゃねえか。じゃ後ろのやつは知り合いってか。」
「そうだ。」
俺たちは影史の許可を貰い、家の中に入っていった。
「…本当に剣神そのもの何ですね。初めて見れて嬉しいわ〜。」
メイさんがジロジロ影史を見つめてそう言う。
「なんだこの女は。…まぁいい。『リュームセカイ』のことだな?」
「もう調べたのか?」
俺は影史に、『リュームセカイ』のことについて詳しく調べて欲しいと頼んでいた。更にいえば、WFPWAの中でも『リュームセカイ』『ヒュームセカイ』を統べる総本部がある『リュームセカイ』の現状についてだ。
「…どういうことよ?」
ここで話の流れが掴めていない麗が疑問を口に出す。
「恐らくだが、今回の俺たちの『アルフセカイ』での問題はWFPWAの耳に入っていると思う。」
「え、なんでよ?口外してないんじゃないの?」
「一緒についてった生徒と先生の中に「ブラックリスト」のメンバーがいたんだ。そしてこれは俺の憶測なんだが…」
「…WFPWA総本部のトップが「ブラックリスト」の可能性があるということだな?」
俺の言葉の続きを影史が付け加える。そして、その言葉に麗たちは驚きの目をしていた。
「…ほんとに言ってるの?総本部のトップって…つまり、この『ニホン』のトップの人物ってことだよ!?」
麗だけでなくメイもかなり驚いているがそれも無理はない。『ニホン』のトップ、つまり『リュームセカイ』と『ヒュームセカイ』2つの『セカイ』でトップに立つものなのだ。それが、裏組織で悪を働く『ブラックリスト』の一員など信じられるはずないだろう。
「まぁ、知り合いにWFPWAのメンバーに入っている人がいるんだがその人からそういう噂を聞いてな。…それに俺の学校の校長先生も似たことを聞いたことがあったみたいだし。」
「お前の考えはあってるぜ。間違いなく『ブラックリスト』の一員だ。」
影史が俺の考えを肯定してきた。
「そして、近々この『アルフセカイ』の件を理由に持ち出して『ヒュームセカイ』を潰しに来るぜ。」
「…やっぱりか。」
ここまでは予想していた通りだ。
「って、なんでそんなに落ち着いてんのよ!?戦争だよ、戦争!これじゃあどっちかの『セカイ』が滅ぶまで終わらないんじゃ…」
「無関係の人たちには何とか生存する『セカイ』に逃げて欲しいとは思っている。だけど、ここであのトップを降ろさないと俺たち『ニホン』全体の未来が危ういんだ。…仕方の無い戦争だよ。」
俺も本当なら戦争などしたくない。だが、誰も気づかずにここまで『ブラックリスト』のシナリオ通りに進んでしまっては犠牲を出さなくては解決させられそうにない。
「…ふぅ。戦争か。校長先生にも伝えておかないと。」
「俺は『ヒュームセカイ』のWFPWAに声をかけてくるぜ。まぁ、この姿だと色々あるから昔の俺の姿に戻っておくがな。」
「一応『ヒュームセカイ』のWFPWAの中にもいるかもしれない。気をつけてくれ。」
「分かった。」
俺たちはこの話を終えたあと再び学校の前まで戻ってきた。
「…戦争ですか。」
メイさんがふと声を漏らす。
「あっ、すみません。『リュームセカイ』のトップだけを降ろして『ブラックリスト』を壊滅さえすることができれば『セカイ』が滅ぶことは無いですけど…」
「大丈夫よ。私は確かに『リュームセカイ』にも少なからず関わりを持った人はいるもの。その人たちが正しい判断をしてくれればいいけど、できなければ倒す覚悟はあるわ。」
なんとも大人らしく落ち着いている。
「それじゃあ一旦帰ることにするわ。また何かあれば連絡しなさいよ。」
「おう、ありがとな。」
麗も最初の頃は連絡どころか男全般を嫌っていたが今ではだいぶ落ち着いているな。
「…あの影史って男とはもう話したくないわ。」
「…え、なんでだ?」
「前にも男が嫌いって言ったでしょ。」
…結局変わってなかったのか。
「まぁいいや、じゃあね。」
「ああ、じゃあな。」
メイさんと麗がこの場を去るのを見届けて俺は来菜に向き合う。
「…悪いんだが先に戻っていてくれないか?」
「うん、分かった。…本当に良いの?」
「いや、本当は離れたくないけどこっからただ付き合わせるのも悪いしな。家に帰って休んで欲しい。…覚えているか?」
「うん、大丈夫だよ。…それじゃあお兄、先に帰ってるね。」
そう言い、来菜は家の方向へと歩き出した。
「…まずやることはガウエルたちの住む場所探しだな。」
俺は1人、家の方向でも麗たちが帰った方向でもない場所へと歩き出した。




