第三十五話 無刀の剣士
体が燃えるように熱く…否、体全身から炎が溢れ出ており、かなりの熱を感じる。…否、それも正しい表現ではないだろう。
今のこの状況は、体の傷から流れ出る血のほんの少しの熱を、集中力が高まっている今はかなりの熱に感じるのだろう。
「…なっ…!?」
神使が俺の姿を見て驚愕する。そのまま、地面に着地しこちらをずっと睨みつけ、目を逸らそうとしない。
「…それが、お前の『異能』…?」
神使は驚きながらもそう問いかけてくる。
「…そうだ。最も、教えるつもりは無い。」
「…ふんっ!生意気な…。私の『異能』…この光の矢を攻略する術はお前にはないだろうっ!」
そう言い、神使は周りに待機している光の矢を一斉に俺めがけて飛ばしてきた。
「…『異能』「日天」!」
俺は体から溢れんばかりの炎を抑えて身に纏う。
「…「日輪」!」
身にまとった炎は黄色く光輝き、手のひらに圧縮されて光の矢、もとい神使にめがけて打ち放った。まるでリングのような形をして光の矢を迎え撃つ。
「ーーーっっ!!?」
それは声にならない音が響いた。見れば、神使の体には無数の傷が浮かんでおりかなりの出血をしていた。
俺の攻撃をまともに喰らった証拠だ。
「…かはっ……。」
そのまま、何が起きたのか分からずに神使は意識を失っていったのだ。
〜〜〜〜〜
「…くっ!」
神使が体…正確には腕に纏った黒いオーラを振り回して攻撃してくる。が、それを避けながら着々と傷を負わせていった。
「はぁはぁ…貴様、ニンゲンのくせに……。」
どうやら私の力を侮っていたらしく、出鼻をくじかれたことにより動きが単純になっていた。
「…そんなに焦っていいのかい?」
「…っ!貴様ぁぁ!!!」
あえて、敵を挑発するような発言をする。
ーーー結果、神使はその挑発に軽々と乗ってしまい私の懐にまで接近してきた。今まで以上に近くまで。
…何のリスクも考えずに。
「…ぐがぁぁぁ!!?」
途端、神使の首元が大きく切り裂けて、首から上…つまり頭が後方へ吹き飛んでいった。そのまま体は機能を失いその場に崩れ落ち、微動だにしなかった。
「……。」
「どうだい絡斗君。ちょっと力を出せばこんなもんさ。君も手を抜かなければそこまで傷を負う必要も無かったのに。」
私は近くにやってきて無惨な姿と成り果てた神使を見下ろす…日向絡斗にそう声をかけた。
「…その『継承』がどういう力なのか物凄く気になるな。」
「絡斗君には前に言っただろう?まぁ、後で話してあげるさ。」
私はそれっきり神使に興味を失くし、これから戦いが始まるであろうレナの方を見る。
正直、結乃の力は不明だが「仲間」である以上いつか結乃から説明してくれるのを待つのが良いのかもしれない。
「私よりも、レナの方が不思議に思うかもよ。何せ、魔族階級は「極級」なんだから。」
結乃がレナの方を見てそう言ってくる。
「…難しい単語が一気に出てきた気がするが…。魔族階級?極級?…ってなんだよ。」
いきなり意味の分からない単語を並べられても頭が整理に追いつかない。
「魔族にはその強さに応じて階級というのが存在しているんだよ。全部で5階級存在する。「極級」というのはその1番上さ。」
「…それってかなり強いってことだよな…。」
「そうだね。大抵、「極級」に分類されるのは魔族の中でも「支配者」の更に上のレベルが呼ばれるものだからね。」
「……は?支配者より強いってのか…!?」
「まあ、正確には支配者と同等以上といったところかな。」
そうだとしても正直驚いた。何せ支配者と言うのだ。1番強い存在だと思っていても不思議じゃないだろう。
「まあ、上に立つものが必ずしも1番強いとは限らないって訳だ。なんなら、その「支配者」という存在を作っているのは2つの『セカイ』というより、その『セカイ』の中のある特定の地域さ。広く見ればそれより上はいくらでもいるのさ。」
それを聞き、正直誤算だった。支配者さえ抑えれば魔族の『セカイ』…特に過激派の『セカイ』と友好な関係を築けるのではと思っていたのだが、そうもいかないみたいだ。
「…まあレナの強さはこの戦いを見れば分かるんじゃないかな?」
そう言い、結乃はレナの戦いを見るように促した。
「…嘘だろ。ニンゲン如きに、2人ともやれちまうだなんて…!挙句の果てに片方は殺された?…笑わせるなよっ!!」
残った神使はかなりの憤怒に満ち溢れていた。
かえって、レナの方はいつも通り冷静だった。
「…ちっ、とりあえず貴様だけは倒させてもらう!」
そう言い、レナが相手する神使からは凄まじい力が溢れだしてきた。
…おそらく、俺と結乃が戦った神使よりも強いだろう。
「…それでもレナには届かない。何せレナの称号はそれだけじゃない。」
と、隣で結乃が意味深な言葉を発した。
「…どういうことだ?」
俺の問いには答えず、ただただ結乃はレナを見てる。
俺も今は答えが返ってこないだろうと悟り、レナの方を見る。
「…っ!?」
そのレナの姿を見て俺は…いや、神使も同様に驚いていた。何故ならーー、
「…舐めてんのかぁ!?」
武器も何も無いのにも関わらず、まるで刀を抜刀するための構えのようなものを取ったのだ。
その姿は、まるで攻撃してくださいといわんばかりの隙晒し。
「…レナの異名を忘れたかい?」
「……。無刀の、剣士?」
レナの異名は「無刀の剣士」。そう、前に聞いた覚えがあった。
「…それが、これさ。」
「…すぐに楽にしてやるよォ!!」
接近した神使がその拳をレナめがけて振り下ろす。かなりの速度で、威力も高いだろう。
だが、レナは動こうとしない。
「…っ!?」
このままじゃ避けきれない、そう思った時だった。
「……がぁ!?」
振り下ろしたはずの拳が…腕ごと、勢いを無くし地面に落ち去った。それも、レナに触れる瞬間にだ。
「…ぐがぁぁ!!」
神使は腕の取れた…いや、斬れた衝撃で後ろに下がりながら苦痛の叫びをしている。
「…私に勝てるとでも?実力を見誤るのも悲しいわね。」
レナはそんな神使を見下してそう発言をする。
「…今のはなんだ?」
俺は純粋な疑問を結乃にする。
「…直接レナから聞きなよ。レナが絡斗君を認めていれば教えてくれるよ。」
そんな話の中、レナは片手を横に振る。…ただそれだけの行動で、
「…ぐがぁぁっっ!!」
神使の胴体が横に、真っ二つに斬り裂かれたのだ。
そして、そのまま神使は死んでしまった。
「…凄いな。」
正直その感想しか思い浮かばなかった。
「…ラクトには教えてあげましょうか?」
と、レナがこちらに歩いてきてそう声をかけてきた。
「教えてくれるのか?」
「…簡単になら。まだ戦い自体は終わってないことですし。」
まだ戦っている、神たちを見てそう言ってきた。
「そうだな。」
「…私の『異能』は、「無礼」。条件付きで、触れた物を自在に切断できる能力よ。」
「…自在に、切断…!?」
何とも物騒な…いや、何とも強い力なんだ。
「…切断できる箇所ってのは…」
「…流石に選べないわ。触れた箇所からほんの少しの範囲内でなら選べるけれども。」
それでも充分に強い能力だ。それに、触れた瞬間が見えなかった。
「レナは、「No.11」だからね。」
「…なんだ、それは?」
結乃の言葉に、またもや知らない単語が出てきた。
「魔族の実力で上から11番目と言うことだよ。」
「えっ!?」
そんなに上位なのか。今日一日で、レナの実力がかなりやばいものなのだと感じた。
「…さてと、私たちが混ざって足でまといにならなければ良いけどね…」
結乃がラプラスさんの方を見て言う。
ラプラスさんは神2人と戦っている最中だ。
流石に神使とはレベルも違く、2対1という状況のため戦いはまだ続いている。
「…この女がぁ!!舐めた態度を取りやがって!」
ラプラスさんと戦っている片方の神がそう怒声を上げる。
先程の2対1の発言のことを言っているのだろう。
「…ふふっ。神ともあろう物がそんな態度だなんて〜。しかも、あなた方がやろうとしていることは反発に近いもの。到底許されるものでは無いですよ。」
「…そんなものは百も承知だっ!アランさえ復活すれば全て思い通りなんだよ!!邪魔すんじゃねぇ!!」
1人の神がラプラスの背後を取る。
恐らくあの感じは『異能』の力だろう。
「…!!まずいっ!」
今、ラプラスさんは『異能』が使えないんだった。神の『異能』をまともに喰らえば致命傷は避けられない。
だが、今からじゃ到底間に合わない。
「…ラプラスさんっ!」
だが、
「ぐぁぁ!!」
「…っ!?」
反対に、背後から攻撃を仕掛けようとした神が後方へ吹き飛ばされた。
「…な、何っ!?」
もう1人の神…女神がそれを見て驚いている。
「…『異能』でしか戦えないようじゃ、神とは言えないわ〜。」
それをやったのは他でもない、ラプラスさんだった。
「…『神業』で充分だわ〜。」
そうラプラスさんはいつも通りの調子で、しかしかなりの魔力を発揮させてそう言ったのだ。




