第三十四話 VS神
「…あら、お客さん?」
綺麗に磨かれているドアを開けると、中にいたであろう人物が声を上げて近づいてくる。
「…なんだ、貴方でしたか。」
結乃の傍付き、レナが俺の姿を見るなりそんな反応を示す。
「…今は妖精の『セカイ』にいるのではないのです?」
「…その『セカイ』を襲ってきた真犯人がこっちにいるんだ。」
俺はレナに、現状を細かく説明していく。
「…なるほど。ユノ様の力になれと言うのでしたら私も戦います。」
こっちの『セカイ』にやってきたのは、俺と結乃、マキナの3人だけだ。もちろん3人だけで今回の黒幕を倒せるとは思っていない。
この結乃のアジトに戻ってきたのも力を借りるためだ。
一通りの説明を終えた時には、この場に俺と結乃とマキナ、それからレナとミルとラプラスさんがいた。
「…ミルたちも手伝ってくれるのか?」
「もちろんだ。…悪さを企んでるやつは容赦しないぞ。」
ミルがそう言い、ラプラスさんも肯定する。
「…それにしてもオーディンさんが黒幕だったなんて、意外ですね。」
「本当だな。ただのスケベだけじゃなかったんだな。」
「…3人には悪いが、準備が出来次第オーディンの元へ向かいたい。」
俺が3人にそう言うと、各々準備を始めてくれた。
「黒幕がオーディンなのは分かったけど、その他にどれくらい神がいるかよね。」
結乃が俺のそばに近づいてきながらそう言う。
「…そうだな。今のところ俺たち6人で行く予定だからな。あまりにも多すぎたら…てか、オーディン1人だけでもきついかもしれないな。」
黒幕と知ったからこそ、オーディンに敬称を付ける必要はなくなった。…最も、今のままだったらだが。
「…準備できたぞ。」
ミルが戦闘準備を整えてやって来る。
「…マキナだけじゃなく、ミルとラプラスさんも神なわけだし、一方的にはならないよな。」
俺は不安に思いつつも、残り2人も準備を終えたところで結乃のアジトを出ていき、『シボラセカイ』へと転移した。
「…それにしてもこれ、正解だったの?」
結乃が俺の背中を見てそう言ってくる。
「仕方ないだろ。問題はないとは言っても、誰もアジトに居なくなるわけだし1人にはしておけないんだよ。」
…今、背中には俺の双子の妹、来菜がおんぶをされている状態だ。
アジトには常にレナが留守番の役目をしていたみたいで、来菜の心配は必要なかった。
しかし、今はレナも外へ出てきているため用心深くなっている。
「それに、今回の件はどう考えてもアランに通ずる物がある。上手く行けば来菜の治し方も見つかるかもしれないしな。」
可能性があるのなら試してみる価値はある。
…と、そんなことを話している内に『シボラセカイ』の中のオーディンの家の前にたどり着いた。
オーディンは基本的に『ドラードセカイ』の方にいるが、拠点となる家は『シボラセカイ』の中に存在しているらしい。
「…開けるぞ。」
緊張の一瞬、唾を飲み一息にドアを開け放つ。
ーーーバタッ!!
ドアは勢いよく開き、壁にぶつかった。
「……誰もいないね。」
結乃が中を見て確認する。
もちろん、ここにオーディンが居ないことは想定済みだ。
「…選神戦の会場か?」
オーディンが運営をしているのを思い出した。おそらくそこにいるかもしれない。
「ガウエルの話だとこっちの『セカイ』に居るみたいなこと言ってなかった?選神戦の会場って『ドラードセカイ』じゃない?」
「そのことをガウエルは知らなかったってことも有り得るだろ?一応行ってみよう。」
俺はそう言い、踵を返してドアを開けて家を出ていくーーー
「…どうしたんだ?俺の家なんかに入って。」
「ーーーッ!!」
ドアの外には、目的のオーディンが一人、仁王立ちをしていたのだ。
「…オーディン。」
「おいおい、ラクトはタメ口許してねえぞ?」
茶化すように、笑いながらそう言ってくる。
「…いい加減真実を隠そうとするのはやめろ。もう気づいている。オーディンとアランの繋がりを。」
俺がそう言い放つと、さっきまでの穏和な感じが消え、謎の緊張感が周囲を包む。
「…そうか。やっぱりお前を騙すことはできねえんだな。…カゲフミにそっくりでイラつくぜ。」
「…っ!カゲフミを知っているのか!?」
予想だにしない所から、カゲフミの名が出てきて驚きを隠せない。
「…悪いが素直に俺に親しんでいれば教えてやったかもしれねえがな、今のお前には教えられねえ。」
そう言い、みるみるオーディンの体から魔力が溢れだしてくる。
「俺の…いや、俺たちの暗躍に気がついたのなら生かしておくことはできねえな。…この場にいるやつ含めて全員だ。」
「…悪いが、お前に負けるほど私は落ちてないぞ。」
ミルが一歩前へ出る。
「…おめぇとは本気の殺し合いはした事無かったな。…良い機会じゃねえか。」
オーディンは更に魔力を増幅させ、戦闘態勢に入る。
「…ミルっ!」
「安心しろラクト。こいつは私が相手をする。…周りの相手を頼むぞ。」
ミルがそう言い、俺と結乃は慌てて周りを見渡す。
「っ!?いつの間に…」
周りには、オーディンの下に付いているであろう神使や、オーディンの協力者てまあろう神が5人ほどで俺たちを取り囲んでいた。
周りにいる神の魔力量は、俺が分かる程度でマキナやラプラスさん、ミルよりかは下に思える。神が2人、神使が3人いる。
「私は…ミルを手伝う。」
そう言いマキナがオーディンに向かって歩いていく。
「…マキナ。」
「…あの神も…憎き相手。…ラクトの命令外で…死ぬつもりは無い。」
マキナは振り返り、俺を見てそう言った。その顔は、マキナが見せることのなかった…笑顔のように感じた。
「…分かった。」
これでオーディンとはミルとマキナが戦うことに。
「…あの2人の神は私が1人で相手するわ。」
そうラプラスさんが言い出した。
「えっ!?それは流石に無茶では…」
「…大丈夫。私も知らないような神だから、位は低いわ。…そんな相手には負けないもん。」
そう言い、ラプラスさんが歩いていった。…少なからず、今の発言で2人の神が少しイラついているのが分かる。
「…ということは、こっちの神使は私たちで相手をするということね。」
結乃がそう言う。
「…レナ、手加減はいらないわ。殺してもいいよ。」
「かしこまりました、ユノ様。」
…確かに、俺もこいつらを殺すという行動を止めるつもりはない。
「…俺より断然強そうだな。」
俺は相手となる神使の一人の女を見てそう感想を零す。
「…絡斗君が本気を出せばそうでも無いんじゃないかい?」
隣で結乃がそう余計なことを言ってくる。
「…そう言う結乃はどうなんだ?」
俺がそう聞くと、いつもに増して真面目な顔をしていた。
「…私も力を隠し続けるのは難しいだろうね。『継承』の力を使わせてもらうとするよ。」
珍しく、結乃が力を使うみたいだ。それでも頑なに『異能』を使おうとしないのはただ単に見せたくないのか、戦闘用ではないのか、俺みたく何かしらの条件が揃わなければ「完全」にならないのか。……それとも。
「…何にせよ、倒す…いや、中途半端じゃやられるだけだな。」
「了解。」
「分かった。」
…甘い考えではいけない。今、この場では最後の手段を取らなくてはいけない。
そのためには手加減は一切せず、躊躇してはいけないのだ。
「…っ!」
神使の1人が俺に接近してきたことで、戦いが始まった。
正直、神使の力は未知数で何をしてくるのかも分からない状況だ。
ただ1つ言えることは、「魔法」や「武技」の世界では戦えないと言うこと。…そう、『異能』が戦いを制しているのだ。
「…ニンゲンのくせに、まだ死なないなんて!」
俺が戦っている女の神使。謎の光の矢を飛ばしてきて攻撃している。ただ、その謎の光の矢が…
「…見えねぇ!」
形がブレて見える…いや、それすらも見えないくらいの速さで向かってきている。避けるのも難しく、何度か攻撃を受けてしまっている。何とか致命傷になる一撃はかわしているが、何ともジリ貧だ。
「おまけにこっちの攻撃は当たらねえ。」
魔法を放つがどれも当たらず避けられてしまう。
「…くっ!」
「…これで終わりよ、ニンゲン!」
逃げ場がなく、追い詰められたところに上空に位置した神使が、光の矢を俺めがけて打ち下ろした。その数も見えないほど降り注いでくる。
直撃すれば間違いなく死が待ってるだろう。
「…また耐えてくれよ。」
だから、また出し惜しみはせず、「未完全」の『異能』を発動したのだ。




