第三十一話 妖精姫
ーーーお互い、攻防を幾度となく繰り返しているが、決定的なダメージを与えることは出来ていなかった。
「…《プロキシフォン》!!」
「うっ…!?」
「カナデ!」
私は、カナデに渡していた創造した槍を、大きな盾に変化させ、アギの魔法を防いだ。
…実際に創造した武器に触れていなくても、変形させることができる。
「…ありがとう、ナナカ。」
カナデが私の隣に着地する。私たちとアギとは、手が届かずとも一歩踏み出せば届きそうな距離にいる。
「…はぁ…はぁ。」
カナデの息が少し荒くなってきた。…こっちの体力もそろそろ限界に近いというのにアギは息一つ乱れていない。
「…くっ。…どうすれば…」
「…ふはは。貴様らでは相手にならないのよ。さっさと失せてもらうぞ。」
アギは片方の手をこちらに向けて、その手に魔力を注ぎ込んでいた。
ーーー避けなくては重傷では済まなそうな圧を感じる。
「…カナデ、動ける?」
「…なんとか。…でも、そろそろきついかも。」
次の一撃がカナデの限界になるかもしれない。
「…だったら次で倒す。…行くよっ!」
「…うんっ!」
アギの魔法弾が飛んでくる。
「…っ!!」
私たちは、ギリギリで避けきった。
そして、魔法を撃った直後の隙を狙いアギに接近する。
「…いっけぇぇーー!!」
カナデが手に持つ、私の盾を前に突きだす。
「…「変形」!!」
それを、私は再び槍の形へと変化させた。今回の槍は、持てる力を使った自分で創造できる力のギリギリの槍だ。
カナデは、『異能』を両脚に込めて、地を蹴りものすごい速度でアギの懐にもぐった。
「…っ!!?」
アギも『異能』の発動が間に合っていない。
「いっけぇー!カナデー!!」
「うぉぉぉ!!」
カナデは一瞬で、自分の持つ槍に『異能』の力を発動させる。そして、一気にアギの体へと槍を突き刺した。
「…ぐっ…!?これまでだとはッ…!!」
アギも貫通させまいと、なんとか堪えているけど時間の問題だ。何より、
「…《ガルト》!」
私はカナデと槍全体に、力増強の補助魔法を放つ。
「…ぐがぁぁ…!!…我も…先を急いでしまったのかぁ……」
カナデ自身、槍ごとアギの横腹を貫通して行った。
「…カナデっ!!」
カナデはそのまま体力が尽きて、壁と衝突した。
「…大丈夫…だよ。」
勢いが抑えられなくて、そのままぶつかったという感じだろう。大して、ダメージを負っている訳ではなかった。
「…アギは…」
「…カナデのおかげで、倒れ込んでいる。おそらく…私たちが勝ったんだよ。」
体を貫かれ、その場に倒れ込んでいるアギを見て、私はそうカナデに伝える。
「…カナデは安全なところで休憩していて。…私は皆の手助けに向かうわ。」
「…っ!ナナカも体力ないでしょ!?無理しないでよ!」
「…大丈夫だよ。私を信じて。」
私がカナデの眼を見てそう言うと、少しの沈黙のあと頷いてくれた。
周りを見ると、まだフレイヤさんたちや、竜那たちが戦っているのが見える。
フレイヤさんやメルリアたちは4人集まって、アギの配下たちと戦っている。
一方、竜那と竜佳は1人の魔族と交戦中だった。見た感じ、竜那たちが圧されている。
「…あの魔族の配下もかなり強そうだね…」
手助けに入るなら、竜那たちの方だろう。考えを決め、竜那の方へ向かおうとした時、背後で音がなった。
「…我も驚いたぞ。危うく死ぬところだったわ。」
「…っ!!」
私はすぐに振り返る。そこには、血を流し満身創痍のアギがこちらを見据えて立っていた。
「…うそ…っ。」
カナデもその姿を見て驚いている。
「…くっ!」
私も、カナデに言われた通り体力がほぼ限界だ。これ以上はまともに戦えないかもしれない。
「…まずい…!」
私は、残り僅かな力を使い、『異能』で武器を創造する。…よく見る普通の剣だ。
「…我も見ての通り後がないのでね。…片付けてあげるわ。」
アギがゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる。
そして、一気に加速して目の前にまで近づいていた。
「…っ!!」
…やられる。かわすことも防ぐことも不可能だ。すでに拳が打ち抜かれようとしていた。
「…な、ナナカぁ!!」
激しい音を立てて、アギの拳が命中する。
「…っ!…ん…!?」
「…何ッ…?」
私の顔ではなく、フレイヤさんと初めて会った時に見た、カラスのような精霊に。
「…えっ。」
アギだけでなく、私までもが驚いている。
「…大丈夫ですかっ!?」
私とアギの間に割って入って来たのは、『妖精姫』フレイヤさんだった。
「ふ、フレイヤ…さん。」
「…大丈夫ですか?魔族の配下たちは他の3人に任せました。…私がこいつを倒します。」
「…あ、危ないですよ!」
「…心配しないでください。私こう見えて…強いんですよ?」
フレイヤさんが、アギを睨みつけると、まるでこの『セカイ』が丸ごと共鳴しているかのように、周囲に光が溢れてくる。
「…まさか、狙っていたご本人とは。…負けられないわっ!」
アギが標的を変え、フレイヤさんに向かって接近していく。
「…『異能』、「慈愛」。」
「…ッ!?」
「…っ!!」
フレイヤさんが『異能』を発動した瞬間、フレイヤさんを中心に地面を淡い光が円状に広がっていく。
…そして、アギの目の前には複数の「精霊」と呼ばれるものが浮いていて、次々とアギに突撃していった。
「…ぐぁっ!?」
アギは衝撃に耐えられず、後方へ吹き飛ばされる。
「…今のは…あ、あれ…!?」
フレイヤさんに何が起きたのか聞こうとすると、突然私自身の体が淡く光だし、治癒魔法を受けているのと同じ効果を受けている。
「…今のも、さっきのも私の『異能』の力です。」
「…これが、フレイヤさんの『異能』…」
私だけでなく、カナデも効果の範囲内に入ったみたいで、同じように治癒を受けている。
「…見ての通り、私の『異能』は補助向きの力なんです。」
フレイヤさんが、私とカナデに説明してくれる。
自分が指定した、「味方」に対しては自分の『異能』発動時の光円の範囲内にいれば治癒され続け、能力もバフがかかるというものらしい。
指定した「味方」が多いほど、光円の範囲は狭くなるという。
「…それじゃあ、今のは違う力…?」
今さっき、複数の精霊を操ってアギを攻撃していた。それはまた別の力ということなのだろうか?
「…私の『異能』の本質は別にあるんです。」
「…別?」
「はい。私の『異能』の元の能力は、あらゆる生物の核を操ることができます。」
「…それって…?」
「…簡単に言えば、操れるということです。もちろん、自我をそれなりに持っている者は操れません。例えるなら、能力者はほとんどが不可能です。」
つまり、非能力者ならフレイヤさんは簡単に操れるということなのだろう。
そして、契約は本来、一つだけだが力のある者は2つ、3つ契約しても問題ないことがある。
それでも、フレイヤさんが今操っていた精霊は10近くいた。
「…『異能』の力で契約を…?」
「そうです。この力で、精霊とはほぼ無条件に、そして無限大に契約を交わすことが出来るのです。」
と、フレイヤさんが丁寧に教えてくれた。
正直びっくりするほどの『異能』だ。敵じゃなくて、本当に良かったと思う。
「…そして、『異能』のもう1つの力。」
フレイヤさんが言うには、「敵」と指定した者に対しては、光円の範囲内にいると、全体的なデバフを受け、治癒能力も弱体化してしまうという。
また、「敵」に対して契約した精霊たちが攻撃を繰り返すというものらしい。
「…かぁッ…!」
声が響き、その方向をむくとアギが精霊たちを払い除けて、こちらへと歩いてきている。
だが、その姿は更に酷いものになっていた。
「…中々しぶといですね。」
フレイヤさんがアギへ向き直る。
「…かぁ…かぁ…貴様を…連れて…行かなければ…」
だが、アギの目はフレイヤさんを見てはいなかった。
もう、とっくに限界ということだ。
「…これで終わりです!…「精霊魔法」《テリトノン》!」
フレイヤさんから激しい光の弾が撃ち放たれ、アギは正面から防ぐこともできずにもろに喰らい、壁に激突した。
…アギは倒れたまま動かないでいた。
「…今度こそ…やったのね?」
私がそう呟くと、隣にフレイヤさんが歩いてくる。
「念には念を入れましょう。…《ホールゲート》」
そう言い、アギを転移魔法の球体の中に閉じ込め、その球体を圧縮し消滅させた。
「…っ!?」
「すみません。驚かせてしまいましたね…本来はこのような使い方ではないですから安心してください。今のようなことができるのもいませんから。」
「…えっ…」
さすがに声が出ないほど驚いてしまった。
「…私の使える「精霊魔法」との合わせ技ですので。気にしないでください。」
と、フレイヤさんが私を落ち着かせるために何度も説得した。
「…そろそろ傷のほうは大丈夫ですか?」
フレイヤさんが私と、カナデに向かって言ってくる。
「あっ、はい。もう動けます。」
「わ、私も。」
「よし。…他の皆さんの手伝いに行きましょう!」
そう言い、フレイヤさんは3階の方へ向かっていった。
おそらくここ1階の配下たちは、メルリアたちで充分と判断したのだろう。
「私たちも行こう!」
「うん。…先行ってて。『異能』が少し不安定で。」
「分かったわ。周りに気をつけてね!」
私はカナデを置き、先に竜那たちの方へ合流しに行った。




