第二十二話 信用に値するもの
ーーーここ『アルフセカイ』は、どの種族よりも強い魔法を扱うことができる種族、「妖精族」…その中でも「エルフ属」の一部が住む『セカイ』だ。
『レッドセカイ』よりは広く、『ヒュームセカイ』より狭いといった大きさをしている。ちなみに、「エルフ属」が住む全ての『セカイ』を合わせると、『ヒュームセカイ』と『リュームセカイ』を合わせた範囲より広くなるみたいだ。
そして、この『セカイ』の特徴は、『セカイ』の八割を占める程の大きい森林地帯だ。
見渡す限り見えるのは、地平線なんかではなく、木の幹がほとんどだ。
そんな『セカイ』の中で、俺は珍しいことに洞穴の中にいた。
〜〜〜〜〜
「…ここは?…それに、あなたは…」
「一度に質問しないでください。はぁ…ここは、見ての通り洞穴の中です。そして私はメルリア・ガーネットと言います。」
と、急な質問に対して丁寧に答えてくれた。
「…ガーネット?」
俺はその家名に、妙な違和感を感じた。
「どうしました?というより、起きたなら早くどこかに行って貰えます?」
「…どこかへ行くって…メルリアさんは何者?」
俺は今悩んでいても仕方ないと思い、名前には触れずに反応する。
「さん付けは要らないです。あと、私は見ての通り「魔族」ですよ。」
「いやいや、それは分かってるけども。…俺は確か、アギに捕らわれたはずなんだが…」
そう言い周りを見るも、やはりアギ本人の姿は見えず、気配も感じない。
「…それは、私は『賢王』の配下ですから。ここに私がいるのも、『賢王』の姿が見えないのもおかしいことではないですよ。」
と、俺の思っている疑問を解消してくれた。
「そ、そうか。…あれ、どこかへ行けってどういうことだ?」
アギの配下だと分かった今、なぜ早くどこかへ行けなどと言ったのだろうか。それでは逃げろと言っているのと同じだ。
「…そのままの意味ですよ。早くしないと『賢王』が戻ってきますよ。」
「戻ってくるって…今なんで居ないんだ?」
「追っ手の確認。それから、この場所を隠蔽するために配下達を連れていったところです。私は、この実力を『賢王』に信用されているのでこの場を1人で見るよう命じられたのです。」
淡々と事細かにメルリアは話してくれた。
「…それなのに、どうして俺を逃がそうと?」
アギの配下だと言うなら、このままアギに俺を手渡すのが普通だろう。
「…私は、別に『賢王』に忠誠を誓ってはいませんから。」
と、メルリアは驚くべき発言をしたのだ。
「…えっと、それってつまり。」
「そちらの言葉で言うなら裏切り者といった所でしょうかね。」
と、何を気にするでもなく呆気なく言い切った。
自分が、裏切り者と。
確かに、配下なのに様付けもしなければ名前も呼ばないのは不自然とは思ったが。
「っ!」
「気にする事はないですよ。…あ、一応この事は『賢王』には言わないでくださいね。」
「…流石に、これから恩人になるかもしれない人を裏切ったりはしねえよ。」
いずれにしても、何とかアギから逃げれるならば幸いだ。七香たちも心配して…くれていると嬉しいが。
「…いつ出ていったんだ?」
「頭が回るのが早くて助かりますね。つい先程なので、30分程は戻ってこないかと。」
ここから出ていってバレない所まで逃げるのには充分な時間だ。
「でも、俺が逃げるとメルリアは…」
「あなたが転移系の魔法が使えたということにしておけば問題ないですよ。…実際は?」
「無理だ。使えない。」
「それならば早く出ていくのが良いかと。」
「…それならば問題ない。《神呼》すればすぐに逃げれるからな。」
アギの前では《神呼》するタイミングがないだろうと思っていたが目の前にいるのがメルリアならば問題なく使える。
それを聞いて、メルリアは少しばかり驚いた表情をしている。
「…神と契約しているだなんて。中々すごいですね。」
「まあ、成り行きってのがあってな。…それでだ、少しの間時間に余裕があるということになる。」
「…確かにそうですね。何がお望みですか?」
「…一応メルリアのことと、アギの『異能』についてできる範囲で教えて欲しいのだが。」
「…『賢王』を倒すつもりですか?」
「配下ならやろうとしていることは分かるだろ?それを阻止するためにはやむを得ない。」
「別に倒すことには抵抗ありませんよ。むしろ、倒せるならば手伝って頂きたいくらいです。」
「…手伝う?」
「はい。…私の、父親の敵討ちです。」
今までに増して、鋭い眼光でメルリアは言い放った。
「…敵討ちってことは…」
「はい。私の父親は、『賢王』…いや、アギによって殺されたのです。」
「…そうだったのか。」
「…私の父親は、元『賢王』メルガ・ガーネットだったのです。しかし、アギがその座を欲したことにより、父と戦闘を繰り広げ、1ヶ月の間に父親は攻め落とされその命を失ったのです。」
「…メルガ・ガーネットって、あの『禁忌』の実験をしていたと言われる魔族か?」
「…なるほど、その事は知っていたのですね。その通りです。そして、その『禁忌』の実験により生まれたのがアギなのです。」
と、初耳な情報を聞いた。
「なっ…!?…そうだったのか。」
「…アギの『異能』について聞いていましたね?」
「あ、あぁ。」
「率直に言います。アギの『異能』は、「反射」と「吸収」です。」
「…は?」
俺は耳を疑ったのかと、メルリアに聞き返した。今の言葉に聞き間違いが無ければ、
「アギは…『異能』を2つ持っているのか?」
本来であれば1人1つしか持たないであろう『異能』を2つ持っていると言ったのだ。
「…ええ。父の実験により生まれたアギは本来は双子として作られていたのです。」
「…それが1人に?」
「そうです。その双子が1つの命となって作られたことにより、2つの『異能』を持っているんです。」
「それで、アギの『異能』の効果は?」
「攻略は簡単かと。「反射」は、ありとあらゆる非接触攻撃…つまるところ「魔法」のような攻撃を無効化する力です。そして、「吸収」は、反対に接触攻撃…「武技」のような攻撃を無効化します。」
メルリアの言うように、聞いてみれば意外と普通な力だ。それでも厄介なのは変わりない。
そして、あの時の俺やグリナさんの魔法が効かなかった訳も納得した。
「…弱点とかは?」
「その2つの『異能』は常時発動ではないです。あと、同時に発動もできないですね。…他に、見分け方として、『賢王』の体が赤く光ったら『反射』を、青く光ったら『吸収』を使用している合図です。」
「なるほど。…色々と助かる情報だ。」
これを知っているだけでも勝率はかなり上がっただろう。
「…私の『異能』も聞きますか?」
と、メルリアが黙り込んだ俺に聞いてきた。
「…いや、そこまでは大丈夫だ。その時は俺の『異能』も教えるよ。」
「…そこまでする必要は無いですよ?」
「いやいや。俺はメルリアを信じてるから、そこまで欲は言わねえ。」
「……。不思議な人ですね。」
メルリアがそんなことを口にして考え込んだ。
しばらくした後、
「…そろそろこちらに向かってる頃かと。」
「分かった。…《神呼》!」
俺は、この場を去る準備として《神呼》を発動する。
そして、
「…ラクト。無事だったか。」
呼ばれてこの場に現れたのは、俺と契約を交わしている神…デウス・エクス・マキナだった。
「…これが、神ですか…」
神を初めて見たのだろうか、メルリアはマキナを見つめている。
「マキナ、俺が拐われたこと知ってたのか。」
「もちろん。グリナとナナカが館へ戻ってきて、説明した。」
「…エルたちは?」
「同じく戻ってきている。グリナたちと一緒に。」
つまり、途中もしくはあの遺跡の中で合流できたのだろう。
「あ、そう言えばマキナにはカナデたちの見守りを任せていたんだった。」
ここでマキナを呼んでしまっては、2人を見ている人がいなくなってしまう。
「それなら大丈夫。2人とも、目を覚ましている。」
「そうか。それなら良かった。」
起きていれば、2人だけでも何とかなるだろう。
あれでもカナデは戦えるからな。
「…さてと。メルリア。俺からの提案なんだが…一緒に来ないか?」
「…え?」
メルリアは俺の言葉を聞き、何を言われたのかと困惑する。
「…その、父親の敵討ちをしようとしているんだよな?だったら、俺たちと同じでアギを倒したいって少なからず思ってるはずだ。目的は違えど過程は同じってな。」
俺がそう言うと、少し考えてから。
「…良いのでしょうか?これでも…「魔族」ですし。」
「俺のクラスメイトたちには驚かれるだろうけど、慣れてるやつもたくさんいるから問題ないぜ。」
「それに、倒す算段はあるのでしょうか?私と、あなたが居ないことに気づけば再び襲撃してくると思います。おそらく、夜にでも。」
「そこなら問題ない。さっきの教えてもらったことでだいぶ光が見えたからな。」
俺はそう言って、メルリアに手を差し伸べる。
メルリアは少し考えた後、
「…分かりました。私も、あなたを信じてみます。」
そう言い、俺の手を握り返した。
メルリア・ガーネット
???歳。誕生日不明、血液型不明。『異能』は不明。
魔族で、『賢王』アギの配下。元『賢王』メルガ・ガーネットの娘。




