第十六話 敵
ーーーここに来てから、雄二とは2度目の戦いとなる。
「…絡斗君。僕は、どうすれば良かったんだ?」
「……」
俺はすぐに答えることができなかった。
…雄二の異変に気づいたのはつい先日だ。
それまで、俺に何も伝えてくれなかった。
それを今更聞いてくるなんて卑怯だと思う。
だが、
「…行くよっ!《エアストーム》!」
…それでも俺の大切な親友で、優奈さんに任された大事な人なんだ。
「…戻ってきてくれ。雄二。」
だからこそ、考えを改めさせて、以前の雄二に戻す。
それが俺のやるべき事だ。
「…《アイアンウォール》!」
…雄二を冷静にするためにはどうすれば良いか。
まず、冷静さが欠けることとなった原因を聞くしかないな。
とりあえず、倒さない程度に応戦しながら話を聞こう。
「…やはり、絡斗君は僕とは戦う気がないんだね?」
俺に向かって、魔法を連発しながら言ってくる。
「お前を『敵』と認識してないからな。」
「今更そんな言葉はやめてくれ。僕は君を裏切った。」
だが、俺の話には耳を傾けるつもりはないらしい。
「…これならどうだ!《サンドカッター》!」
これは、土と風の複合魔法か。
「…《デグリア》!」
俺は雄二の魔法に、闇属性の魔法で対抗する。
2つの魔法は衝突した途端に、大きな音を立てて爆発四散した。
「くっ…」
見ると、雄二は何か焦っているようだった。
「…何をそんなに焦っているんだ?」
俺が問いかけると、雄二は目を見開いた。
「…僕が、焦っているように見えるのかい?」
「…ああ。」
俺が答えると、一度目を瞑ってからこちらに向き直った。
そして、
「…そうさ。僕は焦っている。皆に置いていかれないか心配さ。」
「…置いていかれるも何も、お前はクラスの中でも上位じゃ…」
「…絡斗君は上位なのかい?」
「っ…!」
その言葉には怒りか、憎しみか、またはそれ以外の感情が含まれているのを肌で感じ取った。
「…絡斗君みたいに他にも力を隠している人がいるんじゃないかい?…愛条さんとかさ。」
ーーーある意味では冷静だな。
「…僕は強くなくちゃいけない。そうじゃなきゃ…皆が傷つくんだ!」
雄二は叫びながら接近してくる。
「…《エアロ・ウェアー》!!」
両手に風属性を付与し、肉弾戦を仕掛けてくる。
雄二が悩んでいること…それは一度だけ、優奈さんから聞いたことがあった。
雄二の父親がかなり厳しくて…そして、
家庭内で暴力を振るうということ。
「…僕は強くなって、母さんたちを守らなくちゃいけないっ!」
雄二の勢いが増し、躱し続けるのが困難になってきた。
「…《ランド・ウェアー》!」
「くっ…!!」
俺は雄二の攻撃を付与魔法で迎え撃つ。
…雄二の家は5人家族だ。そして、暴力が振るわれるのは雄二の母親と優奈さんが多いらしい。
そして、そんな最低な父親でさえも、
「あいつは…最低なクズ野郎なのに、それでも有名な能力者なんだ…今の僕じゃ勝てないんだ…!」
雄二の父親は、『WFPWA』に所属しており、仮組織『VENUS』で活動していると優奈さんが言っていた。
…確かに、ある程度強くなければ所属することはできないからな。
「…だからって、『ブラックリスト』に入る必要はない!」
「だったら!…どうすれば良いんだ!?」
雄二は強い意志でそう答えてくる。
俺が戦う手を止めると、雄二も突っ込んでは来ずに少し離れて止まった。
…少しは冷静になっただろうか?
「…俺たちと一緒に強くなれば良いんじゃないか?」
「だから何度も言っているだろう!?それじゃあ僕は置いてかれる…」
「だからどうしたんだ?」
「ッーーー!?」
俺の言葉を聞き、雄二は刺激されたことに怒りを覚えている。
「…俺たちに置いていかれるだと?例え置いていかれたとしても関係ないんじゃないのか?」
「関係ない…だと?」
「雄二は、父親から家族を守れるくらいに…そして父親を倒せるくらいに強くなりたいんだろ?」
「……」
俺の核心を突く言葉に、雄二は返事をせずに黙ってこちらに顔を向けている。
「…俺たちクラスメイトと比べている時点で強くはなれねえよ。」
「…何…?」
雄二は意味が分からないとばかりに疑問を言う。
「…確かにクラスの中で俺を含めて実力を隠している者はいる。そうは言っても俺が知ってる中では3人だけだ。」
「その3人は…絡斗君と愛条さんと黒瀬さんかい?」
「そうだ。だが、他のクラスメイトはどうだ?」
「どうって言うのは?」
「お前が置いていかれると思うか?」
「……」
「雄二の成長はかなり早い。置いていかれるどころか、他よりも先へ進めるんじゃないか?」
「…本当にそうかい?」
「一度くらいは自分の力を信じてみろ。」
「信じるも何も…力がないから欲しいんだって言ってるじゃないか。」
雄二は少しイラつき始めたか、構えを取る。
「…『異能』を試してみろ。」
「…絡斗君にかい?」
「力の話をするなら、全力を出してから言うんだな。」
「…『異能』を使えば強くなれると?」
「多少は強くなるだろう。」
「…人に向かって使うのは初めてだけど?」
「逆にその力をお前の父親に使えば良かったんじゃないのか?」
「自分の力が信じられなかったからね。…だから、絡斗君との戦いで自分の力を試すよ!」
そして、雄二は一歩後ろに下がり、
「…『異能』、「滅刻」!!」
そう言うと、一気に体から黒いオーラが溢れ出した。
…思っていたよりも強いパワーだな。
「…この力は姉さんも見たことがない。」
そう言いながら、オーラが少しずつ控えめになっていく。
「…絡斗君は、まさかこの力でも倒せないのかな?」
「俺を倒せればお前の父親を超えたことになるのか?」
「最低ラインにはなるだろうね。…この力で絡斗君を倒せなかったら僕としても傷つくけどね。」
そう言って、瞬時に俺の懐に飛び込んできた。
「いくよっ!」
そして、右手を下から振り上げてくる。
「…っ!」
俺はそれを躱すために後ろに身を引くが、
「…ぐはぁぁっ!!?」
ーーー躱すことができずにその拳に打ち上げられた。
「どうしたんだい?」
雄二は真っ直ぐにこちら見据えてくる。
…確かに拳自体は躱したはずだ。
「これが『異能』か?」
「そうなんだろうね。…どうやら、近距離において距離を消すことができるみたいだ。」
「…距離を消す?」
「どんどん試すよ!絡斗君なら…死なないよね?」
そして、再び見た瞬間に横に現れていた。
「くっ!?」
「『異能』…「空滅」!」
雄二が拳を突き出してくる。
それを、一歩後ろへ飛び、ギリギリで躱したーーーはずだった。
「がっ!!?」
またしてもその拳は確実に腹を抉っていた。
俺は大きく後方へ吹き飛ばされ、木にぶつかった。
「…そう言えば、絡斗君も『異能』を使ったことないよね?」
倒れている俺に雄二はゆっくりと近づいてくる。
「…もしかして、それも手加減しているということかい?」
「…くっ…」
「『異能』を使った僕ですら、全力で戦う必要はないということか…」
このままでは、確かにきついな。『異能』を使用している雄二は動きは単調だが、その一つ一つの威力が桁違いだ。
ーーーおまけにその力のせいでほぼ必中だ。
意外とこっちが不利な状況だ。
いや、話の流れ的には俺が負けた方が雄二もクラスに残るんじゃないか?
……いや、それではダメだ。雄二が、変にクラスを出ようとしている。まずは、その心を折らなくては。
「まずは、戦意を喪失させないとな…」
少し力を出すことにしよう。
「…良いね、この『異能』。これなら絡斗君の言うように、あいつにも勝てるかもしれないね。」
そう言いながら雄二は拳を振りかざしてくる。
そして、それは再び『異能』の力で躱し切れずに当たるーーー…
「っ!!?」
ことはなく、俺は雄二の背後に避けていた。
「…まさかまだ本気を出してなかったのか…」
雄二はそう言いながら振り向いてくる。
「…雄二には悪いが、負ける訳にはいかない。」
「負けた方が僕も考え直すんじゃない?」
雄二もその考えに至ったようだ。
「わざと負けるのは嫌いだからな。…お前を倒す。」
「そうしたら、強くなるためにクラスを出ていくよ?」
「それもさせない。お前には負けてもらって、それでいてクラスに残ってもらう。」
「……」
雄二は返答の代わりに攻撃を仕掛けてきた。
「…「滅裂」!」
雄二は手を剣に見立てて、俺に振りかざしてきた。
瞬間、手に集まったオーラが消え、目の前に現れた。
「……どういうことだ…」
雄二は俺の体を見て驚きを露わにする。
雄二の『異能』により、確かに俺の腹は抉られて血が吹き出た。
…だが、今雄二の目の前には傷一つついていない俺が見えている。
ーーーそして、俺の体は紅く光輝き、体の一部からオーラのような炎が溢れていた。
「…何が起きているんだ…?」
「…悪いが詳しくは言えない。想像に任せるよ。」
「…もしかしてそれが君の『異能』かい?」
俺は答えない。
「…僕だって負けられない。今の君にどれくらい通じるか試すのにいい機会だっ!」
雄二は臆することなく、俺に向かって突っ込んでくる。
「…必ず、雄二の暴走を止めてみせる。」
俺は雄二を『敵』と見なして、返り討ちにするべく構えをとった。




