第十二話 失われた魔法
ーーー深い森の中、俺たちは『礼賛者』と交戦している。
俺は七香とエルと一緒に『礼賛者』ゾミアに接近した。
「くらえ!《インフェルノ》!」
初撃は様子見だ。
「…《クリアシールド》!」
ゾミアはすかさず防御魔法を展開し、俺の魔法を受け止めた。
「…くらいなさいっ!」
ゾミアは七香に近づき拳を振りかざす。
「…「心器」!」
『異能』により、目の前に頑丈な盾が出現する。
「ぐっーーー!!」
重い衝撃をなんとか耐え凌いだ。
「《ライトニング》!」
その隙にエルはゾミアの腕目掛けて魔法を放った。
「ちっ…!」
腕に当たったものの、切断することはできなかった。
「…硬いな。」
「…遊んでる暇はないのよっ!《アースバスター》!」
「っ!?避けろっ…!」
「ぐっ!!?」
「…っ!!」
再び強力な魔法を放たれ、至近距離にいた俺たちは躱しきることができずにくらってしまう。
「ぐっ…」
直撃は免れたため、なんとか軽傷だ。
「…エル!?」
だが、まともにくらったのか、エルは倒れたまま起き上がろうとしない。
七香は盾により衝撃を和らげたようだ。
「…まず1人ね。」
そしてゾミアは再び七香に接近する。
「…!?さっきよりも速い!?」
「《ランド・ウェアー》!」
2度目となる拳を盾で防ごうとするが…
「ぐっ!?」
「これで2人目ね!」
脆くなった盾を壊して、七香の腹を直撃した。
「…七香!?」
七香はその場に倒れ込んだまま動こうとしない。
「…!!」
あっというに2人やられてしまい、成すすべがない状況だ。
……こうなったら…
「《プリズムレイン》!」
「っ!?」
「…何っ!?くっ!!」
背後から魔法が飛んでくる。それを躱すべく、ゾミアは横へ大きく飛んだ。
…そして、この魔法は…
「…絡斗君には一度見せてはいたが…隠す状況ではないからね。」
結乃による…失われたはずの「古代魔法」だった。
「…まさか、古代魔法!?」
ゾミアは今の魔法を見て衝撃を受けた。
「…私も加勢するよ!」
そして、結乃は俺の隣に並んでそう言った。
「…未だに超属性が使える者がいるなんて…しかも、人族に。」
ゾミアは結乃を見て、そう答える。
「…あなた、興味深いわ。」
「生憎こっちはあなたに興味は無いわ。《ディメンションカット》!」
結乃は再び魔法を詠唱し、手を地面へとかざした。
「な、なんだ!?」
結乃を中心に地面に紫がかった光が円形に広がっていく。
「…これは面白い魔法だこと!」
それに構わず、ゾミアは突っ込んできた。
「…!?まずいわ、この魔法を知っている!」
「なんだと!?」
「この魔法空間の中は、魔法の影響を反転するから気をつけて!」
そう言われるが、俺にはなんの魔法だか分からない。
「…くらいなさいっ!」
「ちっ!?」
ゾミアは魔法の影響お構い無しに結乃と交戦する。結乃もギリギリのところで躱し続けている状況だ。
「…俺も援護を!…なっ!?」
そう思い、《インフェルノ》を発動しようとするが魔法術式が組み込めなかった。
「反転…魔法の術式もか!?」
この魔法を、あの戦いで使われていたら間違いなくやられていたな。
…結乃が俺たちを本気で殺そうとしていなくて助かった。
「…よし。《インフェルノ》!」
この魔法空間の仕組みを理解し、俺は再び魔法を発動する。
今度はしっかりと成功し、ゾミアに魔法が飛んでいく。
「…対応が早いのは流石ね。」
そう言いながら、結乃は俺の魔法に合わせるようにゾミアに立ち向かう。
「…《アイアンウォール》…なっ!?」
俺の魔法を防ごうと、防御魔法を使用したゾミアだが、防御魔法が張られることは無かった。
「ぐっ!?」
そのため、俺の魔法は防がれずゾミアに直撃した。
「…《ギャラクシーディザスト》!!」
ーーーそこへ、結乃は超強大な魔法を叩き込んだ。
ーーーゾミアはまともに魔法をくらい、膝をついて息を乱していた。
「はぁ…はぁ…まさか、あの古代魔法まで使えるなんて…」
超強大な魔法を使用した結乃も少しだけ息が切れている。
「それにしても…魔法が…」
ゾミアはなぜ、魔法が展開できなかったのか疑問に思っている。
「…まさか…」
「そのまさかかもね。…この魔法空間内部の一部分だけ自由に解除することもできるのよ。」
「くっ…!」
つまり、ゾミアは魔法空間の仕組みを知った上で、その空間内部で使用できるように魔法の術式を組んだ。
だが、その部分だけ解除され普通の空間だったために術式が不完全となり発動されなかったのだ。
「中々厄介なことしてくれたわね…」
ゾミアは傷を癒しながら息を整えている。
だが、その傷は今までとは違い、かなり深いため癒すのに時間が必要だ。
「…今のうちに逃げるか?」
元々倒せるとは思っておらず、隙を作り逃げることが作戦だ。
逃げるなら今が絶好のチャンスだった。
「…でも、倒せそうだけども…」
結乃がそう言ってくる。
確かに倒せるならそれで良い。
「…そうだな。竜那、竜佳!準備はどうだ!?」
俺はあらかじめとっておきの魔法の準備を促していた。
「…いつでも行けるわよ!」
竜那から返事が返ってくる。
そして、2人はこの魔法空間の外にいるため影響は受けない。
「よし!頼む、2人とも!」
俺は2人に合図を送る。
「行くよっ、竜佳。」
「うん!」
2人は片方ずつ手を出し、互いにその手を取った。
「…融合魔法!《インフィニット・デトロイト》!!」
そして、未だ治癒が完全ではないゾミアの周りに、複数の魔法陣が浮かび上がる。
「くっ…!?」
魔法陣から無数の魔法砲がゾミア目掛けて放たれたのだ。
2人の魔法の当たった場所は地形が変わっており、その場にゾミアの姿は見当たらなかった。
とっておきの魔法を放った竜那と竜佳はその場に倒れ込む。
「…グリナさん、マキナは2人を担いで!」
「わ、分かりました!」
「分かった。」
竜那たちは2人に任せ、七香とエルは、
「結乃、七香を頼む。」
「分かった。」
俺はエルを背負った。
「フレイヤさんは、2人のこと頼めますか?」
「はい、大丈夫です。」
そして、
「…早めにここから立ち去ろう。」
時間も遅いことと、皆がもう戦える状況ではないからな。
他のやつに襲われる前に早めに館に戻っておきたい。
俺たちは、倒れてた仲間をそれぞれ抱えながら館へと走っていった。
ーーー夕刻となり、空は一段と暗くなった。
俺たちはなんとか館にたどり着き、全員を俺の部屋に入れた。
「…狭いな。」
俺の部屋がいくら広いからと言っても、流石に10人を超えると狭くなる。いや、狭すぎる。
「…それにしても、お前いつの間にかいなくなってたな。」
部屋に戻ってきたとき、部屋の前にシェードが座っていたのだ。
確かに途中からシェードがいなかった気がする。
「怖くなって戻ってきたのだ〜!皆無事で良かったぞ〜。」
全く、世話が焼けるやつだな。
今起きているのは、比較的軽傷の俺と結乃、マキナとフレイヤさんとグリナさんだ。
他の6人は魔法の消費が大きかったり、少し重めに攻撃をもらっていたりでまだ目覚めていない。
「…結局ゾミアはやられたのかな?」
結乃が疑問に思っている。
「姿が見えなかったから、てっきり吹き飛んだものと思ってはいたが…」
「逃げた可能性もありますからね。」
だが、あれほどの傷を負っていて挙句の果てに超強力な融合魔法だ。
動けるとは思えないが…
「…化け物をこの目で見たあとだからな。あの傷でも動きそうだな…」
俺はそんな事を思った。
それから約1時間程経過した頃。
「…う〜ん…」
「お、竜那と竜佳は目覚めたか。」
魔力の消費により倒れていた2人は比較的消耗が少ないため、他4人より早く目覚めた。
そして、ここまでの事を2人に話した。
「…なんとか無事で戻ってこれたのは良かったわ。」
と、竜那は安心したとばかりに肩を下ろす。
それから更に約1時間後。
「…これで皆目覚めたわね。」
「…ん…」
「七香、大丈夫か?」
「んー…?絡斗?」
俺は寝ぼけているのか分からないが焦点が定まっていない七香の肩を掴み軽く揺さぶってみた。
「おい?」
「えっ…あわっ!?」
「…あわ?」
なんか変なことを言っている。
「だ、大丈夫よ!?」
そう言ってきたので俺は肩から手を離す。
「4人にも説明しておかないとね。」
と、結乃が竜那たちにしたような話を4人に説明した。
「…退けられたのは良い事だが、ここを襲ってきた主格は他にも2人いるのだろう?そして、それとは別に神が1人いる。まだ落ち着ける状況ではないね。」
今の話を聞き、エルがそう判断する。
「…俺たちは一応交流としてここへ来ているけど、明日は土曜日だし、変わりに来週の月曜から水曜までは振替休日だ。今日の夜からはこっちの問題解決に力を尽くすよ。」
「ありがとうございます、ラクトさん。」
「もちろん私たちも協力するわ。」
と、結乃に七香、竜那と竜佳もやる気に溢れていた。
「…頼もしいな。」
そして、今日は色々あり大変だったため皆もすでに疲れ切っている。
「…そろそろ解散にするか。」
「…あの、私たちはここにいてもいいですか?」
フレイヤさんが言ってくる。
「しっかりと《ブラインド》はしてありますので。」
「勿論いいですよ。やっとフレイヤさんたちと合流できたので。」
フレイヤさんとマキナ、カナデとフランとエルは俺の部屋に泊まることに。…あとシェードも。
七香たちが各々の部屋に戻ろうと、立ち上がったとき……
「…『妖精姫』はここですかっ!?」
部屋の入口である扉を思い切りぶち開けて、謎の少女が入ってきたのだ。




