第三話 精霊
ーーー周りを見渡すと、そこは深い森の中にいるみたいだ。まるで、この『セカイ』をまるごと覆うかのように木々が空高くまで伸びている。そして、青空が木々の葉の間から僅かに見えるばかりだ。
それなのに、木が光っているかのように影となる部分がなく、まんべんなく太陽の光が差し込んでいる。
「…この近くにいるはずなのですが。」
幸崎先生がそう呟きながら周りを見渡す。と、
「あ。…あの、すみません。グリナさんですか?」
一人の人物を見かけたらしく、その人物に歩み寄って話しかける。
「…あら、あなたたちが来ると言われていた、『魔法科』クラスですか?」
「はい、そうです。」
幸崎先生の後を俺たちも追って、その人物の近くまでやって来た。
「それでは…皆さん初めまして。私は、今回皆さんをおもてなしする役目を承りました。グリナと申します。」
と、その人物…グリナさんは丁寧に挨拶をする。
「まずは、皆さんの泊まる館へ案内致します。こちらです。」
そう促されて、俺たちはグリナさんの後を追うように歩き出した。
「…マキナ、カナデたちの方は?」
「問題ない。私はどうすればいい?」
エルとフレイヤさんがいるとは言え、心配事は消えないからな。
「こっちは人数がいるから大丈夫だ。カナデたちの方に戻っといてくれ。何かあればまた呼ぶ。」
「分かった。…《ムーブ》。」
そう言い、マキナは転移をしてこの場を去っていった。
「うおっ!?神が転移していったぞ。」
「すげえな…」
クラスメイトがざわついている。…見せ物ではないのだけれど。
「大変だね。」
七香がそう言ってくれるが励ましになっていない。
「…そう言えば、さっきからあるこの淡い光は何?」
竜那がそう言いながら周りを見渡す。
確かに、ここには宙に無数と、淡い光の球が浮いている。
「それは精霊。」
竜佳が説明する。
「…竜佳って詳しいのか?」
「うん、少しだけ。これは下位精霊に属している。」
「あれ?下位精霊って「精霊術」を習得しないと見えないんじゃ…」
俺は「精霊術」を身につけていない。だが、竜佳によると下位精霊であるはずの光が見えている。
「…それはね、この『セカイ』自体に「精霊術」がかかっているからだよ?」
「…え?」
上から声が聞こえ、その方を見る。すると、そこには一人の人物…ん?
「なんか、小さくないか?」
俺たちの両手を合わせたくらいのサイズだった。
「…君は?」
「私はね〜…『噂を流す精霊』シェードだよ?」
精霊…?
「上位精霊か?」
「そう!」
その…シェードという精霊は笑って答える。
「…精霊って話せるのか?」
フレイヤさんが契約をしていたカラスみたいなやつは話してなかったような…
「好んで話す精霊と、話さない精霊がいるんだよ〜?」
そう教えてくれる。
「…あのさ、何いきなり現れた精霊と普通に会話してんの?皆見てるわよ。」
と、七香に言われ周りを見ると、歩きながらだが、皆俺の方を見ている気がする。
「…なんか、俺おかしいのか?」
「うん。」
即答だった。
それから、シェードに、この『セカイ』まるごとに「精霊術」がかかっており、中にいるものは「精霊術」を身につけているかどうかに関係なく、精霊を視認できると説明をしてもらった。
「着きましたよ。」
そして、数分歩き館に着いた。
「それでは、部屋分けをする。2階が女子、1階が男子部屋だ。好きな部屋にして構わない。我々教員は3階にいる。部屋分けを終えたあとは今日は自由にして構わない。」
そう言い残し、先生たちが3階へと上がっていく。
「楽しみだね〜ラクト〜。」
と、何故かついてきたシェードが言ってくる。
「…そう言えば、『噂を流す精霊』って言ってたけど、精霊ってそういうのがあるのか?」
「ん〜?そ〜だよ?私たち精霊はね、「2つ名」を得ることで、その名の力を手に入れた精霊が生まれるの。」
と、楽しそうに話してくる。
「…噂を流すってのは?」
「その名の通り!私は噂がだ〜い好きなの!」
説明とは若干違うことを言いながら、俺の手を引っ張ってる。
「はやくはやく〜!部屋に荷物置いて遊びに行こうよ〜!」
「お前…よくこんなに俺に懐いてるもんだな…」
「楽しそうだったし〜!」
「…絡斗、とりあえず荷物を置いたら集合しましょ?」
「分かった。」
竜那に言われ、俺も荷物を置いてくることに。
「ここがいいよ〜!」
「お前どこまでついてくんだ。てか…精霊に性別はあるのか?」
「ん〜…ある?私は…女の子!」
「そうか…」
なんとも厄介だなぁ。…他の男子クラスメイトから変な目で見られそうなので早く部屋に入ろう。
「おお〜。広いな。」
立派な館だな。内装もしっかりとしていて綺麗だ。
造りは和風建築に近いな。
俺は早々と荷物を整理して、鍵を閉めて部屋の外に出る。
雄二にRineを送るが、他のやつと特訓をするらしく断られた。…最近よく特訓をしているなぁ。
そんなことを思いながら、館の外で皆を待つことにした。
それから数分が経つ。
「おまたせ。」
七香がやって来る。
遅れて竜那と竜佳、結乃がやって来た。
「お前らは部屋同じにしたのか?」
「うん。私と結乃ちゃんが同じ。あと、竜那ちゃんと竜佳ちゃんが同じだよ。」
まあ、予想はしていた組み合わせだな。
「絡斗は?」
「俺は一人だ。」
「だよね。」
「おい。」
含みのある言い方をしないでほしい。
「…それで、これからどうする?」
「カナデたちを探すか。」
ここにはカナデとフラン、エルとフレイヤさんが来ているはずだ。
「…それより、マキナを呼んで皆をカナデたちの所に連れて行ってもらうのはどうだい?」
結乃が提案をする。だが、
「悪い。…なんか「神業」が使えないんだ。」
「…まだ3回使ってないよね?」
「…ああ、そうなんだけど。」
おかしなことに力が足りない。
「疲労が関係しているんじゃない?」
竜佳がそう言ってくる。
「確かにそうよ。疲労かもしれないわね。」
竜那がそう納得する。
「探し人がいるのか〜?」
シェードがそう言ってくる。
「ああ、実は…」
そう言いかけた時だった。
ドゴォォン!!と、けたたましい音を立てて、西の方角が揺れていた。
「な、何!?」
「びっくりする。」
「シェード、今のは?」
そうシェードの方を見る。
「…精霊が生まれちゃったよ。」
今の音が?
「精霊が生まれた…?」
「うん。そして、私の天敵だ〜!困る〜!」
そう言いながら宙でバタバタしている。
「天敵…?」
意味が分からないと質問をする。
「今生まれたのは…『噂を食べる精霊』だって!」
噂を食べる精霊…
「それは…てか、なんで分かったんだ?」
「私は噂を流すために、いろんな噂を知ってるの。それで、噂が生まれれば私はそれが分かるの。」
つまり、精霊が生まれた瞬間を見ていた者がいて、その精霊について噂をしたから分かったということか。
「どうしよ〜。噂を食べられたら、私消滅しちゃう!」
消滅だと?
「どういうことだ?」
「精霊は〜、その「2つ名」を付けられた時点で、それが人生の一部なの。その「2つ名」に反すると精霊は消滅しちゃう!」
シェードは噂を流す精霊だから、噂を流せなくなれば消滅するということだろう。
「…どうするの?」
結乃が聞いてくる。正直、シェードが消滅しないとなると今生まれたばかりの精霊が消滅することになると思うが…
「まぁ、これも何かの縁だろう。シェードを救ってやるか。」
「了解〜!」
皆もこの意見に賛成のようだ。
「噂ってのは簡単に無くなるのか?」
「そんな簡単には無くならないよ〜。だから、落ち着いてやっつければ問題ないよ!」
シェードがそう言ってくる。
「お前たち精霊ってのは…争いが多いのか?」
消滅するかどうかを賭けて、互いに戦いあっていてもおかしくはないからな。
「それは違うぞ〜。」
と、シェードは俺の考えを否定してくる。
「どういうことだ?」
何度目だろうか、俺は疑問に思ったことをシェードに聞く。
「今生まれた精霊は、精霊に敵対している…「悪精霊」なんだよ〜!」




