第二十三話 使命
それぞれが家に着き、慌ただしい一日が終わろうとしていた。
「ーーーん……ここは…」
「お、目が覚めたか?」
「…ラクト…?」
つい先程まで、アランにその体の自由を奪われ、無理やり魔力を消費されながら俺たちと戦わされていた本人ーーーエルが目を覚まし、意識を取り戻したのだ。
「……」
「…アランに乗っ取られたのは皆知っている。」
ここにいるカナデやフランにも帰ってきたあと、説明をし終えている。
「…ラクト。本当に申し訳ない。」
エルが俯いたまま顔を合わせようとしない。
「エルが謝ることは無い。これはアランが悪い。俺たちはエルを責めていないさ。…だから顔を上げてくれ。」
そう優しく言ってやると、エルはおずおずと顔を上げる。
「…本当に、許してくれるのかい?」
「ああ。お前のことを俺はよく知っている。お前は優しいやつだってな。」
「っ……ありがとう。」
そう言い、エルは俺に抱きついて嗚咽を漏らしていた。
「…それで、どこから記憶がない?」
エルが落ち着いたところで、改めて聞いた。
「記憶は完全にない訳ではない。意識はありつつも、体を動かせない…金縛りにあっていた感じだ。」
「なるほどな。」
つまりは、説明しなくてもある程度のことは分かってはいるのか。
「私のことを…あなたは分かる?」
マキナがエルに言う。
「ああ。確か、君がマキナかな?」
「そう。」
「マキナは…悪い神ではなかったのか。」
「ああ。マキナはアランに強制的に操られていたんだ。」
「なるほど。」
おそらく、アランは再び俺たちの目の前に現れるだろう。
アランの目的は、
「おそらく、俺を吸収することだろう。」
「何故ラクトを吸収するんだい?」
エルが聞いてくる。
「どうやら俺に契約を交わした時、俺の『異能』を知ったらしくてな。アランは吸収すると、その者の『異能』が使えるんだ。」
「それは厄介な相手だね。」
「なんか大変ですね。私たちも強くならないとね!」
「そうだね!」
カナデとフランは話についてこられてないだろうが、アランが敵だということは分かっていた。それさえ分かっていれば充分だ。
「今日は遅いし、次の土曜日、また『ドラードセカイ』に行くとしよう。」
と、ひとまず話し合いは終わり、今日は寝ることに。
ーーーそれから何事もなく、授業が進んでいく。
七香と結乃、竜那と竜佳にも伝えており、土曜日は皆で『ドラードセカイ』に向かうことになっている。
そして、当日。
「…ここが、神の住んでるところ…」
「言葉に出ないくらい…すごい。」
竜那と竜佳は初めて訪れ、俺たちのいる所と全く違う『セカイ』に興味津々のようだ。
転移してきたのは、結乃のアジトの目の前だ。
「それでは、入ろうか。」
結乃が扉を開け、中へと案内する。
「お帰りなさい、ユノ様。…本日はまたずいぶんと客が多いですね。」
待っていたのは、結乃の傍付き、レナ・アルカードだった。
俺たちは、それぞれ椅子に座る。
「お、ラクトじゃないか。そいつがマキナか…」
声を発したのは、レナさんと一緒にマキナとカルマの手がかりを探していたミルだ。隣にはラプラスさんもいる。
「そっちはどうだ?」
「…今のところ何もわからずじまいじゃよ。」
「なるほど…」
手がかりなしか。それでも、マキナの方が見つかっただけでも充分だろう。
「その前にいいかい?」
エルが手を挙げ、そう声を発する。
「まずは…皆に謝ることがある。」
そう前置きをして、七香たちに改めて謝り、ラプラスさんたちには事の事情を説明したのだ。
「…まさかそんなことになってたなんて。エルも大丈夫〜?」
「ああ。ありがとう。」
2人は長く付き合っているからな。それだけ心配も多いことだろう。
「…これからどうするん?」
結乃が俺に聞いてくる。
「そうだな。…マキナ。」
「何?」
短く呼ぶと、俺の近くへやってくる。
「マキナは、アランに操られて仕方なく『異能』を使わされていたんだろう?」
皆に理解してもらうために、もう一度聞き直す。
「そう…本当は…世界を救いたい。」
「アランは私たちの敵ってことは確定ね。」
七香が頷いている。
「マキナ…まずは、『異能』の代償を教えてくれないか?」
そのことを聞いてからではないと、マキナに『異能』を使わせられないからな。
「…そこまで大したことではない。…『異能』を使ったあと、使った対象に二度目の『異能』使用が条件だ。」
「えーと?」
竜那が分からないと頭を悩ませる。
「要するに、俺に対して『異能』の効果を使った後、もう一度俺に使ったら代償が起きるのか?」
「そう。」
何度も事実を書き換えられないと言うことか。
「その代償はマキナにくるのか?それとも対象者?」
そのどっちかにもよるだろう。
「代償は私が受ける。」
やはり、思った通りか。
「…その代償の内容は?」
結乃が俺の代わりに聞く。
「…それは、私の…事実が消えること…」
「事実が、消える?」
どういうことだ。
「…代償1回につき、私の事実…記憶や持つ力、存在意義…その全てのうちのどれかが消えてしまう。」
ある意味、予想しない事実改変が起きるということだろう。
「その消えた事実は分かるの?」
竜佳が疑問点を上げる。
「分かる…だが、詳細までは分からない。元々合った事実を知ることはできない。」
「…それじゃあ、ライナは…」
ライナはマキナの『異能』により、周りから忘れられてしまった。つまり、すでに力が使用されている。
元に戻すために『異能』を行使すれば、マキナに代償がきてしまう。
それだけは、やらせたくはない。
「…他の方法を探そう。」
俺の決意に、誰も反対意見を述べる者はいない。
「マキナは、すでに事実が消えている?」
「1つ消えてしまった…」
つまり、二度使用してしまったことがあるのだろう。
「何が消えたんだい?」
「私の記憶の一部…ラクトの…父親のこと。」
「…!!?」
俺の…父親。
それは、生まれてすぐにその行方を知らなかった存在だ。
「マキナは、俺の父と会ったことがあるのか。」
「そう…だが、ラクトの父と会った記憶はあれど…その時の話した内容、名前を忘れてしまった。」
俺も父親の名前は分からない。
母からも聞いていなかったし、家のどこにもそれが分かるような物が1つもなかったのだ。
「絡斗の…父…」
「そうか…だが、今は気にしないでいいだろう。」
十分気になるが、今考えなくても良いことだろう。
「丁度良いころだ。私から皆に隠していたことがある。」
と、ひと段落ついたところに、結乃が立ち上がり皆を見回す。
「隠していたこと?」
七香が聞き返す。皆も不思議に思っている。もちろん俺もだ。
「竜那と竜佳は知らないだろうが、獣人が住んでいた1つのセカイ…『レッドセカイ』を滅ぼしたのは私だ。」
と、まさかその話をしてくるとは思わなかった。もちろん、竜那と竜佳は知らないことだが、『セカイ』を滅ぼしたと聞き相当驚いている。
「そして、何故滅ぼしたのか、殺さなくても良かったはずのジャイ二を何故殺したのか…」
それは俺が思っていたことだった。
「気になっている人がいるようだからね。ここで、その真意を話したいと思うよ。」
わざわざ聞く手間が省けたのは良かった。
ただ、ここで話される内容次第で、俺はまた結乃に対する意識が変わってしまうかもしれない。
「実は、私は最初からアランが敵だと知っていた。」
……
「え。何…だって…」
最初から知っていた?
「マキナ。アランに言われ、『異能』で『十二星神』とアランの事実を書き換えたね?」
「その通り…言われたから…書き換えた。」
『十二星神』とアランの事実?
「それって何のことよ?」
竜那が食い気味に聞く。
「アランと『十二星神』が対立し、アランがその力で『セカイ』を生み出し、争いを途絶えさせた。…と、この時代まで伝わっていること。これは、マキナによる「事実改変」の影響だ。」
「えっ!!?」
それは俺にも驚きの新事実だった。
「そうなのか?マキナ。」
「言う通り…本来は、アランと『十二星神』が手を組み、世界を征服していた。」
まさか、そんなことだったなんて。マキナと結乃、レナさん以外には初の事実に驚きの表情を隠せない。
続けてマキナが告げる。
「アランを倒すため立ち上がった一人の「人族」がいる。…『剣神』と、そう呼ばれた者…」
人が、神に立ち向かったのか。
「その『剣神』の実力は異常だった。…十二星神全てを滅ぼし、あまつさえアランも滅ぼす手前までいったのだ。」
「何だ、その化け物…本当に人なのか?」
「3000年前は、さほど弱いわけではなかった…」
「それで…その後は?」
「アランは『剣神』から逃げるために、『セカイ』を創ったのだ…」
『セカイ』の生まれた理由が、まさかそんな理由だったなんて…
「…そして、私たち『星ノ使徒』…『十二星神』の意志を継ぐ者はアランによって受け継がれたのさ。」
言葉を引き継ぎ、結乃が説明する。
「私たちの使命…それは、アランを復活させること。」
「…!!」
話の流れから察したが、やはり星ノ使徒はそういう存在だったのか。
「…もちろん使命を果たそうとする者が多いが、そう出ない者も中にはいるよ。」
自分を指さしながらそう言ってくる。
「結乃は、どうしてアランが敵と知っていた?」
「色々と、レナと一緒に調べてきたからね。使命を果たす気もなかったのもそれが理由の1つだよ。」
「…それで、結乃ちゃんがジャイ二さんを殺したのは?」
七香が質問する。俺も気になっていたことの一つだ。
「エルと同じさ。アランに乗っ取られかけていた。」
「なっ!?」
俺と七香、エルは驚いた。他の者はさっきの話を整理しようとしていて反応は薄い。
「しかも、エルよりも手遅れに近かった。だから、殺すしか方法がなかった。…そのことは後でしっかりと謝るつもりでいるさ。」
「まさか、ジャイ二さんもだったのか…」
「…許してくれるかい?」
結乃がこちらを見てくる。
「…許す…ことは難しい。だが、それでもお前のことは味方だと思う。…それで良いか?」
納得のいく答えだったのか、微笑みながら頷いていた。
「星ノ使徒も敵には間違いないか…」
それでも、結乃みたいに話ができるならば…
俺はそんなことを薄らと思っていた。




