第二十二話 奇跡の一手
「あなたと…契約…?」
マキナは驚いたような顔をする。
「そうだ。俺と契約してくれれば、アランに太刀打ちできる。」
従の者なら、他者とも制限無しで「契約」できる。
「無理…アランとの…契約は解除されない…」
そう。従であるマキナが俺と契約したところで、破棄の条件は満たされない。
「考えがある。…俺と契約した後、『異能』を使ってもらいたい。もちろん、契約による強制力で。」
これならば、アランと同じように、無理やり『異能』を使わせることが出来る。
「『異能』をあまり使いたくないのは分かる。だが、たった一度だけ、力を貸してくれ。」
少し考え込んだ後、こちらを見つめ直して、
「本当に…それで、アランの…言いなりから逃れられる?」
「もちろんだ。『異能』には代償があると聞いたが、一度だけ我慢してほしい。」
「…余計なことを!君の思い通りにはさせないっ!」
アランがこちらに向かって接近してきた。
「行かせない!行くよ、竜佳!」
「うん!」
そこに立ちはだかるように、竜那と竜佳が回り込む。
「融合魔法《ディグレイト・フォース》!」
2人の目の前を、大きな魔法が囲いこんだ。
「くっ、邪魔だな!《ライトニング》!」
アランは片手に魔法を溜め込み、光の速さでそれを放出する。
「堪えてっ!」
「くっーー!」
竜那と竜佳による、防御によりアランの接近を防ぐ。
「マキナ!お願いだ!俺の手を取ってくれ!」
俺は、皆が必死になり防いでくれている時間を無駄にしたくなく、マキナに片手を差し出しながら、語りかける。
そして、
「ラクト…私を…皆を救ってほしい…どうか…」
「…約束しよう。」
マキナは俺の手を取り、『契約』を交わした。
ーーー俺は、2人同時に「契約」を交わせるほど強くはない。だが、マキナに手を差し伸べる前、俺はアランと契約していた。
アランによれば、俺の自由に契約は解除できると言われていたが、何度試しても不可能だった。
…つまり、最初から騙すつもりで契約をしたのだ。
もちろん、俺はアランとの契約があるにも関わらず、マキナとの契約で上書きしてしまった。
それはつまり、破棄をしたことになる。
「…何も異常無しか…」
破棄による代償は現れなかった。…時間差か?
いや、今はそんなことどうでもいい。
「…ちっ。」
アランが舌打ちを零す。おそらく、俺と契約が破棄されたことに気づいたのだろう。
「《ライトニング》!」
何度目だろうか。2人の防御に対して、連続で攻撃を放ち続ける。
「くっ…!!」
「やばいよ、竜那…!」
2人を囲うように、こちらを守った障壁にヒビが入ってきた。耐えるのも限界だろうか。
「ラクト…命令を…して…」
マキナが覚悟を決めたかのように、俺に問いかけてくる。
「代償は…気にしないで…」
「分かった。」
そして、俺は考えていた「ある事」をマキナに命令する。
「ぐわぁぁあ!!」
「きゃあああ!!」
パリンッ…という大きな音とともに、竜那と竜佳による障壁に亀裂が走り、粉々に割れてしまった。
「…これで邪魔はない!順番が変わるが仕方がない…マキナ!命令だ!『異能』により…」
アランがマキナに対して、『異能』の行使を命令するのを遮ってーーー…
「マキナ!『異能』を行使してくれ!…事実を変える内容は…「アランとマキナとの間に契約は交わされていない。」だ!」
「…『異能』「舞台装置」発動…」
マキナがそう口にした瞬間、周りに浮かぶ4つの時計盤の針が激しく回り始める。そして、時計盤が光輝いた。
「…事実は書き変わる。私とアランの間で契約は行われていなかった。」
そう、マキナが言うと、時計盤から大きな歯車が浮かび上がり、動きが止まる。
そう…まるで、この世界丸ごと、時が止まったかのように、ほんの一瞬…音が聞こえなくなる。
と、まるで錯覚させられたかのように、意識した次の瞬間には何事もなかったかのように歯車が動き出し、世界に音が蘇った。
「…どう、なった?」
俺は、光が溢れて眩しくなったわけでもないのに、目を擦り、それからマキナを見る。
「マキナ!命令だ。『異能』を行使してもらう。」
アランがマキナにそう言うが、時計盤が光輝くことも、マキナも反応する素振りもなかった。
「アラン…事実は書き変わっている。」
マキナは俺の側に寄ってきて、アランに対してそう言い放った。
「……」
「さあ、アラン。これでお前の奥の手も消えたはずだ。」
マキナに命令し、『異能』で自分に都合のいいようにしようと考えていたのだろう。
「はぁ…今回は負けたよ。…だが、諦めたとは思わないでほしいね。」
そう言い残して、アランはここから逃げ去るように宙へ浮かぶ。
「アラン!エルを返せ!」
「この肉体の持ち主かい?…別にいいだろう。今更、この子に用はない。《コピードール》」
そう、アランが言うと、エルと全く同じ姿の人形がその場に現れる。「創造魔法」の1つだ。
「『異能』「憑依」。」
そう言うと、エルの体から、禍々しいオーラが抜け出し、作られた人形の中へと入っていった。
おそらく、「始祖」で吸収した他者の力を使ったのだろう。
「…また会おう、ラクト君。次は…こうはいかないさ。」
そう言って、今度こそアランは姿を消したのだった。
「終わった?」
竜那と竜佳と七香がやって来る。全員、大きな傷は負っていなかった。
「ああ…逃げられはしたけどな。」
「だけど、まさかアランが敵だったなんて。」
七香が驚いたという風に言ってくる。
「星ノ使徒よりも厄介じゃん。」
「確かにな…下の方は?」
「音がしないね。戻ってみよう。」
俺は倒れているエルを担ぎこんで、優奈さんたちが戦っていたはずの場所へ戻って行った。
「優奈さん。」
「あ、お帰り!大丈夫!?」
「はい、何とか。それよりどうなりましたか?」
周りを見る限り、動いてる魔物は見当たらない。
「ついさっき、魔物たちが一斉に逃げていったの。…もしかして、元凶を倒したの?」
「いえ、倒してはいないです。追い払った程度で。」
「それでもありがとう。何とか無事に済んだよ。」
それなら良かった。
魔族もいたとの話だったが、最後まで姿を現さないのを見ると、アランと一緒に逃げたのだろう。
「…もしかして、これってアランが仕組んだの?」
七香が小声で聞いてくる。
「わざわざ絡斗にメールを送ってさ。」
「おそらくな。」
「…えっと、後ろにいるのって神?」
優奈さんが恐る恐る聞いてくる。
「…はい、そうです。でも安心してください!危険では無いです!」
ここでマキナに対して矛を向けられては台無しだ。何とか敵ではないと認識してもらわなくては。
「そうなの?…まあ、絡斗君が一緒にいるなら大丈夫ね。」
と、優奈さんは気にしないでいてくれた。
「後始末はこっちの仕事だから。皆は早く帰りなさい?」
「分かりました。」
俺たちは優奈さんに別れを告げ、『WFPWA』本部から離れていった。
「…歩いて戻る?」
ここから各々の家まではそこそこの距離だ。歩くのは辛い。
「…ならば…転移させよう。」
と、マキナが申し出た。
「そういえば…マキナ、だっけ?」
「そう。」
「マキナはこれからどうするの?」
竜那が疑問に思った。
「確かにね。」
「私は…ラクトと一緒にいる…」
「えっ!?」
七香が一番驚いた。俺の方が驚きたい。
「なんで?」
竜佳が質問をする。
「ラクトと…契約を交わしたから…」
と、マキナは淡々と言う。
「絡斗?何を契約したの?」
「えっと、1度だけ俺の命令を何よりも優先することってのを条件にした。」
「他はないの?」
「ああ。だから、マキナも嫌なら別に契約解除してくれて構わないぞ?」
と、俺はマキナに向かって言う。
「私は…ラクトのおかげで救われた…ならば、今度はこちらが相応の対価を払わないといけない…」
「そんな大袈裟な…」
そこまで言われる程今の俺は良い奴ではないと思うが…
「ラクト…君が困った時…すぐに助けよう…そのためにも契約は続けておく…力を貸し与えることも可能だから…」
確かに、アランと契約を破棄した瞬間、アランから貸し出されていた力が一気に無くなった。だが、今マキナから借りている力はそれに負けることの無いほどの量だった。
「ラクト…《神呼》を知っているかい?」
と、初めて聞く言葉だった。
「何だそれは?」
「神と契約を結んだ者だけに…許された力…『神業』の一つ。」
「神業?」
またまた初めて聞く言葉だな。
「…あー、それ私聞いたことあるかも。」
と、竜那が考え込みながらそう呟く。
「本当か?」
「この世にはさ、『魔法』と『異能』が主な力の1つでしょ?」
「ああ。」
「それと、剣術科に進んだ人は、武器を操るでしょ?それの主な力は『武技』って言うの。」
「あー…」
何となく聞いたことがあるような無いような。
「そんな感じで、『神業』ってのがあるって聞いたことがあるわ。」
「そうなんか。」
おそらく、『継承』は別の類だろうな。
「ならば…帰ったあと…《神呼》を教えよう…いつでも、私を呼ぶことができる…」
「でも呼んじゃ悪い時とかはないのか?」
「問題ない…呼ばれてから…ラクトの元へ向かう間に…私は準備を整えることができる…」
神というのは、おそらく皆そういった存在なのだろうな。
「エルも早く起きるといいわね。」
七香がそう言葉をかける。
「そうだな。起きたらひとまず現状を伝えるよ。どこから記憶がないのかも聞かないとな。」
もちろん誰一人エルを責めることはしない。悪いのは、アランなのだから。
「それじゃあ戻るか。」
「分かった…《ホールゲート》」
俺たちは魔法の球体に包まれ、瞬時に学校前まで戻ってきた。




