第十八話 部分的な本気
残り時間は約半分となる。
「くっーー!《ウィンド》!!」
魔法を連発していたせいか、哀川さんの使う魔法が1つランクの下の《ウィンド》となっていた。
「もっと意識を高めないといけないよっ!」
私はそれを軽々と弾き飛ばす。
「はぁ…はぁ…!」
かなり動き回り、私を翻弄しようとしていたが何一つ効果はなく、限界が近いようだ。
「そろそろ向こうが終わるかもね。」
絡斗君たちの戦いも終わる頃かと思い、私はこの戦いを終わらせようとする。
「哀川さんはもっと強くなれるよ。頑張ってね。」
私の励ましが皮肉と感じるか、アドバイスと感じるかは分からない。だが、私は今思うことをそのまま口にした。
「《エアストーム》!!」
「ぐっ!!?ーーーぁぁぁああ!!?」
手加減をしつつ、哀川さんを大きく後方へ飛ばした。
躱すことも防ぐこともできず、まともにくらったため、おそらくは負けとなるだろう。遠くへ飛ばされた哀川さんを見ると動く気配はない。
流石に死んではいないが、意識はしっかりと保ってはいないだろう。気絶してるかもしれない。
「こっちは終わりかな。」
模擬戦闘とは言え、中々本格的な戦いなんだなと私は思ったのだ。
〜〜〜〜〜
「くっ…このっ!」
俺の「補助魔法」があるとはいえ、実質2対1の状況にある七香。流石にきついか。
「きついわよっ!あんたも混ざってよ。」
七香が俺にそう言ってくるが、
「とは言ってもな…遠くからの視点がないと、お前すでに負けてるからな?」
「うっ…」
あの2人は連携がとても上手い。七香だけだと何度か、竜那の姿を捉えきれず不意を突かれることがあった。
遠くから俺が指示をしていたから、なんとか躱しているが俺も混ざってしまえば一緒に見失ってしまうかもしれない。
「中々やるわね…」
「竜那、私疲れた。」
「もうちょい頑張ってよ。」
とは言え、2人もそろそろ体力がきつくなってくる頃だろう。仕方ない…
「少し力を出すか。」
「いいの?」
「画面越しだとほかの生徒たちには気づかないだろう。あの2人には…最悪気づかれても構わない。考えがあるんだ。」
「?」
俺の考えというのが分からないという風に首を傾げる。が、
「分かったわ。…2対2でやる?」
「いや、俺一人でやる。補助を頼む。『異能』は解除してもらって構わない。」
「おっけー。」
そう言って、七香は『異能』を解除する。
「あれ?やめるんだ。」
竜那が言ってくる。
「今度は俺が相手をする。」
「2人同時に来ればいいものを。そんなに私たちをイラつかせたいようね。」
と、竜那はいらいらを溜め込んでいるようだった。
「《ガルト》…だけでいい?」
「いいぞ。」
と、俺は一歩前へ踏み出す。
「ふんっ。あなたも遊んであげるわ!」
「!!」
竜那と竜佳は構えを取った。だが、遅い。
「上を見てみろ。」
俺の言葉に反応し、一瞬上を見上げる2人。そこには、
「なっ!?」
「嘘…!?」
太陽が落ちてきたのかと見間違うほどの、熱を放っている丸い球体が2人目掛けて落ちてきていた。
それは一瞬だった。大きな爆発音がしたかと思うと、そこにはクレーターのような穴ができていて、2人は躱しきれずそこに倒れていた。もちろん《ドッペル》の魔法は使われていない。
「……」
なぜか味方であるはずの七香が驚いたような顔を…いや、ドン引きしていた。
「…やりすぎじゃない?バレないとかの話じゃなくない?」
「七香の補助魔法のおかげで強かったと言えば大丈夫だ。」
「どこが…」
と、七香は肩を落とした。
「くっ…ど…どういうことよ…!?」
流石は「永代の能力者」だ。今のをまともに喰らっても立ち上がろうとするとは。
「…今のは…《ヘルシオン》…」
「…!?それ本気…!?」
「うん…」
竜佳が今の魔法を分析する。…よく知っているな。やはり、俺たちと同じ側なのだろうか?
「なんで、そんな魔法使えるの…あんたの適性値…もしかして誤魔化してる?」
竜那がすぐに気づいた。隠すのは無理だな。
「…そうだ。俺は力を隠している。」
ここで七香まで隠しているということはまだ言わないで良いだろう。
「…くっ…」
竜那の顔は衝撃的なものを見たような驚いた顔をしている。
「…日向は「永代の能力者」?」
竜佳が質問をしてくる。
「いや違う。俺は普通の能力者だ。」
それを聞いて竜佳も驚く。自分たちと違い、「永代」とも言われていない普通のクラスメイトが自分たちより強いということを知ったのだ。屈辱な部分もあるだろう。
『ーーーそこまでだ。時間切れとなったが、この戦いはBの勝ちだ。』
ここで幸崎先生からの終了の合図があった。
ーーーその後、俺たちは元の観戦場所のほうに戻ってきた。そして、次の試合が行われる2チームが先生に呼ばれた。
「…ちょっと待ちなさい。」
俺たちはどこか適当な場所に行こうと、歩き出したところ声をかけられ足を止める。
その人物は竜那だった。隣に竜佳もいる。
「日向…あんたに話があるわ。」
最初のおしとやかな部分とか…どこへ行ったのだろう。
「なんだ?」
「…他の2人は違うところに行ってほしいんだけど。」
と、七香と結乃を見て竜那が言う。
「えー。私たち邪魔者扱い?」
七香が口を尖らせて言う。
「別にいいよ。」
と、結乃は受け入れた。
「…仕方ないな。そうだ、実ちゃんのところ行く?」
「…さっき色々酷いことしてきたんだけど。」
「…じゃあ謝りもついでにさ。」
「仕方ないな。」
と、2人は哀川さんの所へと向かっていった。
「ちょっとこっちに来て。」
と、竜那に案内され、少し周りから見えない所へと歩き出した。
「ここら辺でいいわね。」
2人は振り返り、俺の方を見てくる。…ここまでで分かったことだが、竜佳は意外と無口なのだな。
「…あんた何者?」
と、竜那から質問をされる。
「何者とは?」
「なんで力を隠してるのかってことよ。訳があるんじゃないの?」
訳と言えるほどではないが…
「周りに合わせてたって感じだな。変に意識されると困ることがある。」
と、俺はそう言っておいた。
「何よ?その困ることって。」
「『星ノ使徒』って知ってるよな?」
「…ええ。それがどうしたの?」
『星ノ使徒』という単語を聞いた瞬間、少し肩を震わせたが、何事もないように平静を装う。
「俺はその星ノ使徒が本当の敵だと思っている。魔物なんかよりもな。」
「…それがどうしたの?」
「変に力を出して、それが星ノ使徒に気づかれたり、魔物に気づかれればここが襲われる可能性が高いだろ?まだ、ほとんどのクラスメイトは未経験だ。」
「…は、はぁ?未経験って…何がよ?」
「もちろん…実戦のことだ。」
それを聞き、竜那は唾を飲み込む。まるで、俺が実戦があると言っているように聞こえるだろう。
「実戦は本当に命を落とす危険性がある。それに、一度星ノ使徒に襲撃されている。」
それはほかのクラスメイトや担任からも言われており知っていることだ。
「それと、一番の理由は…俺は狙われてるんだ。」
「狙われてる?誰に。」
「分からない。…前に襲われ、俺は「治癒魔法」が使えなくなった。」
それを聞いて再び驚く。治癒魔法が使えなければ無茶をしづらくなる。
「その犯人探しもしてるからな。迂闊に力を出したくはないんだ。」
と、半分以上は今思いついた言い訳のようなものだが、竜那は考え込むように黙ってしまう。
「…なるほどね。」
「竜那…日向はいいと思うよ?」
「そうだね。」
何か竜佳が竜那に向かい話しているが小さくてよく聞こえない。
「よし…!」
と、話し合いが終わったのだろうか、竜那がこちらを向いてきた。そして、
「日向…私たちと一緒に手を組まない?」
「…は?」
いきなりなんだ。脈絡が全くないぞ。
「どういうことか説明を求む。」
「いいわ。…実はね、私たちの苗字を聞けば何となくは想像できるだろうけど…」
確か2人の苗字は、
「御影だよな?」
「そうよ。そして、私たちはあの有名な「御影屋敷」の娘なのよ。」
「なるほどな。」
「御影屋敷」とは、この『ヒュームセカイ』においてかなりの有名な一家のことだ。そこの娘ともなると、かなり上の貴族みたいなものだろう。
「なんでそんな2人がここに?」
そんな貴族同然の2人が一般の…しかも未来のための育成に力を入れてるここに通うだなんて。
「私たち…その一家から追いやられたみたいなものなの。」
なんとも衝撃な発言だ。
「それはどういうことだ?」
「御影屋敷の掟として、女の子は1人しか産んではいけないとされてるの。」
これだけで話はおおよそ分かった。双子として、2人の女が産まれてしまい、掟を破ったということか。
「なんとも酷いな。」
「うん…それで、私たちの親も一緒に追い出されて、御影屋敷とは別のところに住んでるわ。」
「それで…手を組むとは?」
「ここでの学校生活で私たちは、強くなって、御影屋敷を見返してやりたいのよ。」
なるほど、そういうことなのか。
「それで強くなるために一緒に行動をしたいなと思ってね。」
「日向は、実戦経験があるから。」
「俺としては別に構わないが。」
「ほんと!?やった!」
と、竜那が喜び竜佳とハイタッチしている。
「足は引っ張らないわ。私たち「永代の能力者」、「光の神子」と…」
「「闇の神子」。」
「得意な魔法は、もちろん「融合魔法」!」
「日向より、上手く扱える。」
「そうだろうな。」
俺は「融合魔法」など試そうとも思ったことがない。
「改めて、よろしくな。一応、俺は日向絡斗だ。」
「よろしく絡斗。私は御影竜那。竜那でいいわ。」
「私は竜佳。竜佳って、呼んでいいよ。」
「分かった。よろしく、竜那、竜佳。」
こうして、俺は新しくクラスの友達(?)ができたのだ。




