第六話 無の空間
「ちょっと!!それ何とかしてぇ〜〜!?」
なんとも騒がしい建物だな。俺は少し引きながらも中に入っていく。
「危な〜い!!?」
なんと部屋の奥の方から本が飛んできた。…いや、本は飛ばないだろ。
「ちょ!?」
俺はいきなり過ぎて躱す動作を行えなかった。だが、その本は俺に当たることなく、少し手前で勢いをなくしていた。
「大丈夫か、ラクトよ。」
ミルがその本を取ってくれていたのだ。
「ありがとう…」
「ちょっと、大丈夫ですか…って、あ!!」
「ん?…って、おい!?」
奥からやってくる人物を見て、俺もお相手さんもお互いに固まる。その人物とは…
「七香!!?」
「絡斗!!…生きてたのね。」
「おい…」
やっと探していたお目当ての人物を見つけホッとする俺だが、やけに七香は心配していなかったような…
「おや?ラクト君じゃないか。探す手間が省けて助かるよ。」
「お前はもう少しオブラートに包んでくれ!?」
あまり慌てていない2人を見て、少し…ほんの少しだが、がっかりした。
「いやまぁ、これの片付けが終わったら探しに行こうとしてたんだよ?」
七香から心配してましたアピールをされ、
「まぁ、ラクト君は弱くないからあまり心配もしていなかったというのも事実なのだが。」
エルからは更なる事実を聞かされた。
「まぁ、それにしても2人とも無事で助かったよ。」
俺は心の底から思っていたことを告げた。
「…で、私たちとはぐれた後、そのミルっていう神と知り合ったと。そして共に行動してると…」
俺から、隣にいるミルについてある程度2人に説明をした。
「…ラクト君は弱くないとは言っていたが…さすがに肝が据わりすぎではないのか?」
その結果、七香もエルも何故か俺に呆れているようだった。
「ふーん。ラクトの探し人はこの2人か。片方は天使とは珍しいな。」
ミルはエルと七香を交互に見ている。そして、何故か目を輝かせているのだが…
「ちょっとエル〜?何してるの?」
先程より物音が落ち着き、奥にいたもう一人がやってきた。
「あら?もしかしてこの子がはぐれちゃったっていう子?」
「そうだよ。」
謎の人物は俺を見てそんな風に言ってきた。
その人物とは…
「ラプラスさん…ですか?」
「そうよ〜。私は『因果律を司る女神』をやらせてもらってるラプラスよ〜。」
そのラプラスさんはおっとりとした、大人の声音でそう答える。
「いや〜、エルにお友達がこんなにいたなんて〜。」
「それはそうと、ラクトも来たことだし本題に入りたいのだが…」
「そうだ、ラプラスさんに聞きたいことが山ほどあって…」
「その前に…ミルも聞いていいものなのか?」
本題に入る直前、ミルからそんなことを言われる。
「…私たちは会って間もないからなんとも言えないわ。絡斗が決めてよ。」
七香がそう言ってきた。エルも俺に決めろと言ってくる。
「もちろん、ミルはもう立派な仲間だからな。聞いていってくれ。」
「おお、ラクトさんきゅーな。」
ミルは嬉しそうに椅子に座り直した。
「…神とこの短時間でここまで仲良く…」
「ラクト君はほんとすごいのだな…」
「それで何か聞きたいことと言うのは〜?」
ラプラスさんが聞いてくる。
どうやら、俺が来るまで七香たちも質問はしていなかったみたいだ。その代わりに、ここの掃除を手伝わされたらしいが…
「まずは、ここに来た目的でもあることからだな。単刀直入に聞くが、ノステアを知っていますね?」
「ああ、そのことならエルから詳しく聞いているわよ〜。何やらラクト君を襲った人物の可能性が高いんでしょ〜?」
「おお、なんだ?詳しく知っているのなら話が早いですね。そのノステアを探してほしいんですけど…」
「…あれ?もしかして、ノステアを探すためにその事を聞いてきたの?」
「…え?あ、はい、そうですけど。」
なんともはっきりしない。何が言いたいのだろうか…
「残念だけど、今はもういないわよ?」
「え?今は?」
それはどういうことなのだろうか。そんな悩んでいる俺に向かってラプラスさんは口を開き、
「最近…というより、つい先日ね、ノステアが殺されたのよ?」
「……」
それは衝撃発言だった。それに加えて、
「しかも、その殺した人物は…「神族」ではないって噂なの。もう、今はこんな話でいっぱいなのよ…」
更なる爆弾発言。神が神以外に殺された?そんな事は今まで聞いたことがない。…そもそも、神に他の者が太刀打ちできるのだろうか。そして今の事はーーー、
「ラプラス。それは本当なのかい?」
「ええ、本当よ。大真面目よ。」
エルにとっても聞き捨てならない言葉だったらしい。
だが、一人…
「まぁ、殺されるのも無理はないんじゃないのか?」
ミルは平気な顔をしていた。
「えっ?」
俺は耳を疑ったのかと思わず聞き返す。
「…ミルさんは、ノステアと知り合いだったんですか?」
ラプラスが俺を遮って質問する。
そういや、ミルはラプラスを知らないと言っていたし、初対面なのだろう。
「ミルで良いぞラプラスよ。まぁ、ノステアと知り合いと言うよりは、ノステアの知り合いと知り合いのようなものだ。」
「その知り合いさんって?」
「オーディンとかいうクソジジイだよ。」
「まぁ…クソではなくエロだと思いますけどね。うふふ。」
いやラプラスさん、あなたもあの人(神だが)を嫌っているのか。
「そのオーディンがノステアのことを色々言っておるからな。それで多少知っているんじゃよ。」
「そうなんですか。私はオーディンさんとは会いたくもないのでそういったことは知らないですね。でも、やはり情報は気になります!是非聞かせてほし…」
「話が進まなくなるから後にしてほしい…」
ラプラスの暴走をなんとか止めたエル。
「それにしても…ノステアの事はこれで謎のままか…」
仕方ない。こうなったら他のことを聞くとしよう。
その後も聞きたいことは一通り聞いたが、どれも範囲外らしくあまり良い答えはかえってこなかった。一番気になっている、俺にかかっている「弱化魔法」のこと、俺の妹のことなど、どれも分からないらしい。…いや、知識欲がどうのこうのという話はどこへ行ったんだ。
「ご、ごめんねぇ?神以外のことはあまり詳しく知らないの〜。」
と、謝ってくるが…
「まぁ、仕方ないですよ。いきなりというのもありますし。」
「…これからどうする?」
七香が当然のことを言ってくる。確かに、わざわざここまで来て収穫がほぼ0に等しい。このまま帰るのもなんだか損した気分になってしまう。
「…ちょっと、気になることがあるのだが。」
と、ここまで俺たちの会話を静かに聞いていたミルが声を上げる。
「ん?どうしたんだ?」
「いやぁ、ちょっとな…いや、ないとは思うんだけどな?」
「な、なんだよもったいぶって。どうしたんだ?」
なんだか言いにくそうな顔をしている。
「『シボラ』にさ、アランの神像があったじゃろ?」
「ああ。」
「なにそれ?」
七香たちは行っていないので知らないだろう。
「後で話すよ。」
そうして、先を促す。
「…あの神像に触れた人物がな?何やら不思議な力を手に入れたらしいんだよ。」
「不思議な力?」
「それに加えて…まるで誰かに操られたかのように、急に動き出したらしいんだよ。」
「ん?それ最近の話か?」
「そうだよ。」
ん?何か引っかかる気が…
「その人物って…」
「ノステアだよ。」
「ーーー!!」
なんとなく予想はしたものの、驚きの発言であった。
「つまりは、俺たちを襲ったのはノステアの可能性が高いが…」
「それを操った謎の神像の力が襲ってきた真犯人ということね?」
俺と七香が結論を導き出した。
「よし、早速その神像に向かうか。」
俺は時間は有限だと、皆を急かし神像に向かうのだった。
ーーー再び『シボラセカイ』へ入り、アランの神像の目の前までやってくる。ラプラスもアランの神像を見てみたいと言い出し、同行している。
「こ、これがアランの神像?」
「周りの神秘さの真反対だね。」
七香もエルも不思議そうにその神像を見る。
「これに不思議な力があるんですか〜。」
ラプラスさんも不思議そうに見ている。…不思議という言葉が連発してあるが気にしないでほしい。
「全く力というのを感じないな。」
俺はそう言いながら、一歩神像へと近づいた。
「え?」
瞬間、その神像が光輝いて、轟音と共に周りの景色が一瞬にして真っ白にーーー……
「こ、これは転移!?」
そして、光と音が収まり、目を開けると、
「どこだ?ここ…」
俺は、真っ白な空間に転移していたのだった。
「また、俺だけが?」
おそらく、あの光に包まれ転移したのは俺だけだろう。近づいた瞬間、まるで反応したかのように光輝いたあの神像…
「一体何なんだ…」
立っていても何も変わらないと、俺は周りを確認するため歩き出す。どこを行っても、見えるのは真っ白な景色。まさしく『無』の空間にでもいるみたいだ。
するとーーー、
『ーーーラクト君。君を待っていたよ。』
どこからともなく声がした。俺はその声の元を探るべく周りを見渡し、
「ん?」
ふと、人影のような黒い霧を発見する。
「……」
そして、俺はその霧に向かい歩き出す。
やがて、そこに現れたのはーーー、
『ーー君にとっては初めましてかな?ボクはアラン。』
そう、目の前の黒い霧が晴れると同時、謎の女性が自分を「アラン」と名乗ったのだ。




