第三話 視線の先
「あっちって、学校の敷地外?」
視線の向けられる方へ走りながら、七香が聞いてくる。
「いや、たぶん敷地内じゃないか?」
「この学校って広いね…」
「たぶん、あっちは森林地帯じゃないか?」
この学校では、能力者の育成に力を入れている。そのため、実戦向けの環境を用意するということで、森林地帯といったエリアがいくつか存在している。そのため、ここの敷地はかなり大きくなっている。
「でも、だとしたら不法侵入?」
「生徒…もしくは先生って可能性もあるけどな。」
「でもあんな…敵意のような視線を向ける人なんて…絶対悪いやつじゃない?」
確かに。しかも、おそらく俺たちに向けられていた。そうなると、考えられるのは星ノ使徒の一人ではないだろうか。
ーーーしばらくして、森林地帯の中心部分にたどり着く。
「残念、いないわね。」
「ああ、向けられていた視線もなくなっている。」
俺たちに気づき逃げたのだろう。
「どうする?」
「うーん。気になるけど仕方ない、戻るか。」
「りょーかい。」
俺たちは、少し気に残りつつも校庭の方へと戻っていく。
「……」
ーー戻ったあと、授業が終わり、俺たちのことも何も気づかれず午後になった。そしてーーー、
ーーー今は金曜日の五時間目。授業は「魔法基礎」で再び校庭にいる。
火曜日から木曜日までの3日間の内に、皆が成長した。
雄二も今では風属性の適性値は 18 になっている。他のクラスメイトも15から18あたりが多く、優秀なクラスなのだと改めて思った。
「うーん、ここからがどうしてもなぁ。」
雄二が悩んだ顔をしている。それもそのはず。昨日はほとんど力が向上しておらず、著しい成長を感じていないからだ。
「まぁ、ここが一つ目の壁みたいなもんね。」
「一つ目の壁?」
七香の言葉に疑問を持った雄二に俺が説明する。
「ただ、1つの属性魔法をひたすら鍛えようと練習するだけじゃ、もちろん適性値が 100 になることはありえないのさ。意味は分かるだろ?」
「ま、まぁ、なんとなくは。」
「ここからは実戦とか、あとは技みたいなものを習得しないと先には進めないぞ。」
基本的に属性魔法の習得において、適性値の伸びが大きく止まる箇所が3箇所ある。適性値が約 20 、60 、85 となっている。一つ目の壁である 20 付近に今のクラスはいるだろう。つまり、ほとんどが伸び悩んでいる状況であると分かる。
「それに、得意不得意もあるからな。どうしても、これ以上に適性値が上げられないってこともある。」
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「今はまだ実戦も技のようなものの習得もないから伸びないだけだ。それらを習得すれば先に行けると思うぞ。」
「実戦かぁ…」
珍しく雄二は困ったといった素振りをする。
「…それに、そろそろ先生も分かるだろうから、2つ目の属性の習得を進めてくるんじゃないか?」
この1週間、最初に習得すると決めた属性以外は気にせず、自分の選んだ属性だけを極めるように、と先生が言っていた。
「来週からはクラスの中で少しづつ実戦形式を取り入れていく。今日は、ほんの少しでも攻撃魔法などの習得に専念してくれ。」
先生がそんなことを言った。
「たった1時間じゃまともなのは無理じゃない?」
七香が言う。今はすでに五時間目が終わり、六時間目になる前の休憩時間だ。
「初級魔法くらいならいけるかな?」
「…雄二ならいけるかもな。」
「なんだい?その初級魔法ってのは。」
「簡単に言えば、攻撃魔法で扱う属性魔法の中の低レベルの技のようなものだ。」
初級魔法は、俺が先日使った《フレイム》といった魔法のように弱く、簡単な魔法のことだ。
「僕は風属性だから…どんなのがあるんだい?」
「風は確か《ウィンド》だっけ?」
「確かそうじゃないか?」
戦闘において初級魔法は目くらまし程度の役割しかなく、ほとんど使えない魔法と同じだ。基本的に中級魔法以上を使うことが多いので、俺もよく使う「火属性」以外の初級魔法には疎い。
「それじゃあ、ちょっとやってみるか。」
基本的には「元素」を扱うやり方で問題はない。俺と七香で交互に教えるように、六時間目を過ごした。
「…さすがに1時間じゃ厳しいな。」
優秀な雄二と言えど、さすがに完璧に習得するまではいかなかった。だが、
「感覚だけでも掴んだのはすごいな。」
「いや、そんなことはないよ。でも、これは土日も頑張らないと。」
雄二がやる気に満ち溢れている。
「そういや、あんたの姉って能力者でしょ?」
「そうだけど?」
「その姉に教えてもらえば?」
「…確かに、そうだね。そうしてみるよ。」
良い案を思いついたような謎のテンションになっているな。
そして、午後の授業も終わり放課後となった。雄二はすぐに帰宅している。俺も、明日のための準備をするために早めに帰ろうと席を立つとーーー、
「ーーーねえ。」
「ああ。」
再び、月曜日に俺たちに向けられていた視線と同じようなものが窓の外から感じた。
ここ3日間は何もそんな視線を感じなかったが、
「俺たちに用があるみたいだな。この感じは。」
「そうだね。でも、前と比べて敵意は少ないね。」
少し不思議に思いつつも、荷物を持って、視線の先の森林地帯へ足を運ぶためにクラスを出ていく。
「あれは…」
前と同じように、森林地帯の付近までやってくると前の方に人影があった。
「行ってみよう。」
「うん。」
俺たちはその人影に近づき、そして顔がはっきりと見えた。
「ーーー。」
「「……」」
俺たちのことを見ていて、さらには敵意も表していたことから、てっきり星ノ使徒、または関わりのある人間かと思ったがーーー…
「えっと、あなたは?」
目の前にいる人らしき者は見知らぬ顔だった。
「…私も知らない人だわ。」
七香も俺と同じく知らぬ者に対して不思議に思っている。すると、
「…驚かせてすみません。その、お手数かもしれませんが助けていただけないでしょうか?」
その人物が口を開いた。
俺たちはその声を慎重に聞いていた。
「あ、あまり身構えないでも大丈夫です。えっと、わ、私はあなたたちに敵意は、ありません。」
「それは本当かしら?月曜日にはかなり強い敵意を感じたのだけど。」
おどおどとしたやさしそうな音に、敵意を解かないまま七香は言葉を返す。
「えっ、と、それは、ごめんなさい。それは、おそらくこの子の視線かと…」
そう言い、背中の方から1匹のカラスのような生き物が現れる。
「こ、これは…」
確かに、目の前の人の言うように、カラスから向けられる視線は月曜日感じたものとほとんど似ていた。その、敵意のような感覚までもが。
「このカラスは俺たちに敵意を向けているようだが…」
「す、すみません。それはいつものことで…」
「…そうか。」
ひとまず嘘はついていないように思える。
改めて、その姿を確認すると、服は薄着…というよりかは、ボロボロの布を被っているような格好をしており、体も至る所に傷がある。
…ちょっと視線のやり場に困るな。
俺はなるべくその姿を見ないように努力する。
「あなたの名前は?」
重要なことを七香が聞いた。
「私は、フレイヤと申します。」
ーーー彼女の名前はフレイヤと言うらしい。初めて聞く名前だった。
「俺は絡斗だ。」
「私は七香。」
俺たちも自己紹介をしておく。
「ラクトさんに、ナナカさん。」
「えっと、こんなことを聞くのもだけど、フレイヤさんって人じゃないよね?」
…ずいぶんと直球だな。
「はい。私は、「妖精族」です。一応、今は妖精姫となっています。」
初めて会う種族だった。
「え?「妖精族」ってまじ?すごいんだけど!」
何故か七香はテンションが上がっているが、
「どうしてここに?」
俺は全うな疑問を口にする。
「…実は、たまたまなんです。」
「狙ってきた訳じゃないと?」
「はい。その、私の住む『アルフセカイ』から、逃げた先がここだったと言う訳で…」
「逃げてきたの?」
「はい…敵に、狙われていまして…」
「それで、俺たちに助けてほしいと…」
これで少し辻褄が合った気がする。何者かに狙われ、必死に逃げた先で俺たちを見つけたということだろう。
それはつまり、
「それって、私たちの本当の力が分かるの?」
わざわざ話も聞かず第一声に「助けてほしい」と言ったのだ。それはつまり、こちらの力をある程度分かるのではないか?弱いやつに助けを求める者なんていないからな。
「はい、その、だいたいですけど、分かります。」
「やっぱりか。あと1つ疑問点があるんだけど…」
「は、はい、何でしょうか?」
俺はもう1つの疑問を口にする。
「妖精姫…ってのは何だ?」
「あ、それ私も気になっていた。」
多少「妖精族」については調べた事があるが、「妖精姫」という単語は見たことがないし、聞いたこともなかった。
「えっと、それは…言いづらいんですけど…」
フレイヤさんがそう前置きをし、一度呼吸を整えて告げた。
「実は…妖精姫とは仮の王様なんです。「妖精王」は聞いたことは、ありますよね?」
「ああ、そっちなら知っている。」
「簡単に言えば、私が女なので、妖精王ではなく、妖精姫と呼ばれているんです。」
つまり、妖精姫は妖精王と同じで読みが違うだけということらしい。だがその事に疑問が増える。
「妖精を統一するのは、男性の役目だから妖精王っていうんじゃないのか?妖精姫の必要性って…」
わざわざ、女性を選ぶ理由があるのだろうか。
「実は…妖精王は私の兄なんです。」
そんなことを、悲しそうな顔をしながら言う。
そして、
「私の兄は…殺されたんです。」
フレイヤさんが今にも泣き出しそうな声で衝撃な発言をした。
今回の登場人物については次話にて紹介いたします。




