番外編 気持ち
ーーー。
あれから何時間経っただろうか。おじ様たちが戦に向かいかなりの時間が経った。…気がするだけだ。まだ半日も経っていない。だが、心配しすぎで時間が、1分1秒が長く感じた。そんなときだった。
「あなたは!!?」
外にいる門番さんが大きな声を上げた。私は一瞬、敵がやってきたのではと身を縮めたが…
「エル様!?それに、「討伐隊」の皆さん!!」
先程おじ様と一緒に戦いの場に向かった一部の人が戻ってきただけだった。だが、
「大丈夫ですか!?」
その声を聞き、無事な状態ではないのだなと分かってしまった。
私も急いで、部屋から外へ出た。そして、そこにいたエルさんに、
「お…おじ様は!?」
一番心配していた人の安否を確認したのだ。おじ様が「星ノ使徒」と呼ばれる者に負けるはずはないだろう。そう思ってはいたが、やはり今すぐにでも状態を確認したかったのだ。
「確か、フラン…だったね?」
エルさんが、そう私の名前を口にする。
「すまない。ジャイ二は…亡くなってしまったよ。」
その言葉は真実なのだろうか?いや、疑う余地がない。なぜなら、エルさんの顔は真剣そのもの。ここで嘘をつく必要などないのだ。
その言葉を聞き、驚いたのは私だけでなく、門番さんも同じだった。
「そ、れは…本当…なんですか…」
驚きで声が出せないような中、なんとか絞り出したような言葉を投げかける。
「ああ。そして…これはボクの勝手な考えだが…ここも危険になるかもしれない。今すぐ皆をなるべく遠く…できれば『セカイ』の外に避難させたい。協力して欲しい。」
門番さんはエルさんの言葉をまだ理解出来ていないようで数秒間固まっていた。そこへ、お願いをされてもすぐには返事ができそうになかった。だが、10秒…20秒と時間をかけ、ようやく頭の理解が追いついたか、エルさんの言葉に疑いを持たず、
「わ、分かりました!今すぐ兵に言い、村人全員を避難させる準備をしてきます!」
と、一礼をしてからすぐに走り去っていった。負傷していた「討伐隊」の皆さんも同じように、避難の準備を進めていた。
私は、まだ動かない。いや、動けない。理解が追いついていないのだ。そんな私にエルさんは近づき、
「すまない。守ることが…できなかった。本当にすまない。」
と、何度も謝られた。そんなエルさんに私は声を発することができなかった。
エルさんは、
「村人の避難の準備を進めてくる。フラン…君も避難させる。だから…大変かとは思うが、荷物をまとめて置いてくれないか?しばらくしてまた戻ってくる。」
そう私に言い残し、ここを去っていった。
今この場に残っているのは私一人だけ。私は、また城の中に戻っていく。そして、自分の部屋…ではなく、今まで一度も立ち入ることが許されなかったおじ様の部屋…つまり、プライベートルームに入っていった。
部屋の中はなんとも質素な雰囲気なのだろうか。まるで、誰も最初から使っていなかったような内装だった。
「ここは…おじ様の部屋だよね?」
私自身、部屋を間違えたのではないかと一瞬思ってしまう。
「ぁ…」
私がここの部屋に来た目的。その目的のものを見つけた。
「これが…秘密の鍵?」
「秘密の鍵」…おじ様が肌身離さず持っていたものだ。だが、今回の戦いに向かう前、
『この鍵は…今日は置いていこう。いいかい?もし、わしが居なくなったら…この鍵を使うのだ。』
私は、その言いつけをしっかり守ろうとした。それに、なぜ今日に限ってこれを置いていくのか不思議だった。
「居なくなったら…おじ様は自分が死ぬことを…予知していた?」
まさか。わざわざ、自分が死ぬと分かっていて、それでいて戦いに行くのはおかしな話だ。…まぁ、おじ様は頭がおかしいのだが…
「ここに使うのかな?」
秘密の鍵が使えそうな鍵穴を見つけ、早速使ってみた。
「これは…」
上手くはまり、中を開けて見てみるとそこには一枚の折られた紙が置いてあった。
そして、その表には「フラン以外読んではならぬ。」と書いてあった。
私は、ベッドに腰掛けて紙を広げて中を見てみた。
ーーーフランへ。
この手紙を読んでいるということは、おそらくわしは死んでおるか、もうフランには会えないような遠い場所に行っておるのだろう。
まずは、謝らせてほしい。まともに別れの言葉をかけることもできなかっただろう。そして、唯一の肉親でありながら、最後まで成長した姿を見届けて上げられなくてすまない。謝って許されるわけではないだろう。
だから、その怒り、悲しみは忘れないでほしい。
それと、フランには大切な人と思える存在を見つけて欲しい。本当はわしが選びたいのじゃが、フランが選んだ人には文句は言えん。だから、もし、大切な人ができたのなら、その人のことは絶対に悲しませてはいけない。
絶対に…わしのようにはなってはいけない。
いいか?これから強く生きるんだ。誰よりも強くなり、そして…こんな老いぼれのようにはならないでほしい。
ーーージャイ二より。
こんな内容が紙には書いてあった。おそらく、伝えたいことはもっとたくさんあるだろう。紙一枚では書ききれないことがあるだろうに、それでもこの一枚で収まるように、内容を選んで私に伝えたのだろう。
「…ぐすっ…ひっ…」
いつの間にか私は泣いていた。
「おじ…様ぁぁ……」
気持ちが、堪えられなくなり、盛大に泣き声を上げた。
ここに他の人はいない。だから、周りを気にする必要はない。
あれから数分間、ずっと泣いていただろうか。鏡を見ると、目は赤く腫れていた。
だが、気持ちは無事おさまったようだ。
「私は…強くならなきゃ…」
決心した。先程の涙で悲しいと思う気持ちには一旦整理がついた。そして、新しい覚悟を決めることができた。
「そのまえに、避難だった。」
すぐに、自分の部屋に戻り、荷物をまとめた。そして、「フラン!準備はできたかい?」
「はい!今行きます。」
私はエルさんの声に返事をした。
もちろん、「秘密の鍵」と呼ばれた鍵とおじ様からの「手紙」を大切にしまいながら。
〜〜〜〜〜
小さな王女様が決心をし、『レッドセカイ』が滅んだその日の夜。
「やあ。」
「ーーーユノ様。お戻りになられましたか。」
私は、「アジト」と、そう呼ばれる場所に戻ってきた。
目の前にいるのは、私の傍付きである、「無刀の剣士」の異名を持つレナ・アルカードだ。
「ユノ様の欲しがっていたものは手に入ったんですか?」
彼女はやさしい声音でそう問いかけてきた。
「うん。ちゃんと秘石は入手したし、『セカイ』も消してきたしで満足だよ〜。」
私はそう気軽に答えた。
「そうですか。…ところで、なぜ『セカイ』を滅ぼしてきたのです?ユノ様は『使命』を全うするような人でしたっけ?」
「酷い言われようだな。確かに『使命』を果たそうなどとは全く思っていないさ。…中々に良い奴と会ってね。気持ちが高まっていたから滅ぼしちゃったのかな?それでもついでではあるけどね。」
私は素直に、理由を聞かせたのだが、納得した様子ではなかった。
「…良い奴…とは?」
気になったのだろう。そんなことを聞いてきた。
「ん〜?それは内緒さ。いつか分かるよ。」
「…そうですか。それと、秘石を欲しがっていたのには何か訳があるのです?」
私が真面目に答えようとしない時、いくらしつこく聞いても一切話さないということをレナは知っている。そのため、別の話題に切り替えた。
「この秘石はね、『セカイ』を滅ぼすアイテムであるのは間違えではない。だけど、もう一つの使い道ってのがあるのさ。今回はそっちが目的。」
「そのもう一つの使い道とは?」
「後で話すよ。そのときが来たらね。」
今回もまた曖昧に答えた。それ以上気になることはないのだろうか、質問してくることがなかった。私自身も、椅子に座り、本を読んで時間を過ごした。
「ーーーあれ、もうこんな時間か。」
ふと、時計を見ると針はもうすぐ日付を変えようとするところを指していた。
「レナ?」
「…はい、どうしました?」
何か作業をしていたのだろうか、手を止め、こちらを振り向いた。
「私はそろそろ寝るとするよ。」
「ずいぶんと早いですね。」
「ああ、明日からしばらく学校生活を楽しんでくるからね。」
「そうですか。」
「だから、ここに戻ってくるのは土日の間だけとなってしまう。」
私がいなくて寂しいだろう?と言う視線を向けるがこれっぽちも思っていそうにない。
「まぁ…だから、その間、誰かが訪れても中に入れないように。入れるか入れないかの判断は私に連絡するように。」
「かしこまりました。」
「あと、私の…『純潔』の守人たちには、ここの警備とか、まぁ雑用を押し付けておいていいから。」
「かしこまりました。」
私の言った内容を忠実に守ってくれるレナだ。心配はいらないだろう。ただ、この秘石だけは自分自身で持っておこうと決めた。
学校生活というのは退屈だと、そう感じていたが。
「ラクト君…興味深いね。」
そんな退屈な毎日に、一つの楽しみができた。
「さてと、ラクト君は私を見つけられるのかな〜?」
ラクト…どうやらこの『セカイ』の構造というものに気がついたようだが…
「あくまで、それはこの世界の構図でしかない。」
そう。
「この世界の『ルール』を知らなければ何も知らないのと同じことだよ…ラクト君。」
私はラクト君の姿を見ながら薄く微笑んだ。
※今回で第1章は終わりとなります。次回からは第2章となりますので、どうかよろしくお願いいたします。
今回も人物紹介です。
レナ・アルカード
20歳。誕生日は12月12日、血液型はB型。「魔族」で、「無刀の剣士」という異名を持っている。また、ユノの傍付きであり、その実力は高い。『異能』は不明。




