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吸血彼女のお願い  作者: ひろゆき
8/57

 一 ~  そんなのできるわけがないだろっ  ~ (8)

 普段の日々。

 そう。これまでのことは忘れることにしよう。

           7



 嫌なことを忘れるにはどうすればいいのか。

 僕としては、楽しいことをして、気持ちを切り替えることがいいと思っているのだが、上手くいかないらしい。

「昨日、なんでカラオケ来なかったんだよ」

 ほらね、忘れようにも、罪のない問いが友人の吉村から向けられてしまうのだから。

 一連の出来事の翌日。

 あの放課後の出来事がなかったようにすごしていた。

 問題がないと思えた昼休み。

 売店にパンを買いに来ていると、吉村から唐突に聞かれたのである。

「行くつもりだったんだけどさ。なんか、急に気分が悪くなって、それで止めた」

「だったら、連絡くらいくれよ」

「悪い、悪い」

 当たり障りのない言い訳をして、顔の前で手刀を切る。吉村はわざとらしく頬を歪めていたが、僕は苦笑してごまかしておいた。

 話すわけにはいかないよな、あんなの。

 前日のことが靄となって巡るなか、納得させていく。

「ーーで、今日もコロッケパンか?」

「ーー当然」

 今日の収穫はコロッケパンにツナサンド。そして野菜ジュース。僕の鉄板である。

 いつも昼休みの売店は混み合っている。学生があたかもアリみたいに群がって押し寄せる。

 ここでほしい物を買うのは難しいのだ。

 だからこそ、目的の物を買えたのは上々である。さぁ、この嬉さで昨日のことは忘れられる。

 まぁ、単純だと自嘲したくはなるが。

「お前、ホント好きだな。コロッケパン」

「まぁね」

 これで何日連続だっただろうか。それを見抜いている吉村も半ば呆れてかぶりを振る。

 放っておけ。好きなものは好きなのだ。

「古川くんって、コロッケパン好きなんだ」

「うん」

 あれ? 反射的に返事をしたが、誰だ、この女の子の声。

「ーー今田?」

 隣にいた吉村が驚いて声をもらした。突然話に割り込んできた姫香に。

 姫香は不思議そうに首を伸ばし、僕が手にしていたパンとジュースを眺め、

「ーーでも、揚げ物と野菜ジュースじゃ意味ない気がするけどなぁ」

 体が固まってしまう。

 耳にかかった髪を撫で、「ーーね?」と気さくに聞く姫香。大勢の人が集まるなかで、話しかけられたのは初めてである。

 目を点にしてどう対処するべきか迷ってしまった。

「ーー姫香」

 途方に暮れていると、姫香の友人が遠くから呼び、姫香は足早に去ってしまった。

 一体、何をしたかったんだ?

「今田だよな。お前、あいつと何かあったのか?」

 遠退く背中を眺めながら、吉村が驚いて呟くと、僕をまじまじと訝しげに睨んできた。

 驚いているのは僕である。もちろん、昨日のことは話せず、「いや」とごまかしておいた。

「ーー男嫌いってのは嘘なのかな?」

「なんだよ、それ」

 実際、昨日の保健室では何もなかった。確かに姫香は不敵な笑顔を僕に献上してくれた。

 背筋が凍る眼差しに息は詰まったが、姫香は「ありがと」と礼を言うだけで終わった。

 だから、今日からはいつもの生活に戻ると思っていた。まさか、こうして話しかけられるとは思ってもいなかった。

 あの笑顔に含みを感じてしまうのは、僕の性格が歪んでいるのか?

 正直、怖かった。何を企んでいるのか。

 何もない。

 普通にされるからこそ、怖さと疑いが強まるんだ。

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