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吸血彼女のお願い  作者: ひろゆき
7/57

 一 ~  そんなのできるわけがないだろっ  ~ (7)

 野菜ジュース。

 野菜ジュース。

 本当にほしいのは……。

           6


 はて、僕はあいつの下僕なのだろうか。

 いやいやいや。そんなはずはない。だって、あいつはどちらかといえば、近寄りがたく、あまり喋ったことはないぞ。

 それなのになぜ?

 自販機の前で、言われた通りに野菜ジュースのボタンを押した。

 ガチャンッと音を立ててボトルが出てくる。

 脳裏に浮かぶ疑問に、明確な答えが導き出せないまま、ボトルを手にした。

 はたして、今日は何本同じジュースを買わなければいけないのか、と別の疑問に襲われながらも、保健室に戻った。

「あれは冗談」

 だよな、と呟き、保健室の前に辿り着く間に自分を納得させながら、ボトルをマジマジと眺めてしまう。

 これで自分の命は助かったんだよな、とふわふわとした思いで眺めるが、眉をひそめてしまう。

 今日はさすがに野菜ジュースを飲む気にはなれないな。

 迷いながら歩いていると、保健室に着く。

 扉を開くと、まだ養護教諭はいないらしく、姫香はベッドに座ったまま、窓の外を眺めていた。

 やはり、教室での出来事は幻だったのか、と全然危険な様子は伺えない。

 夕陽に染まる姿が儚く、ホッと安堵した。

「ほら、これ」

 まぁ、逆らうことのできない僕自身、情けないものだと、痛感しながらも言われた通り、野菜ジュースを渡した。

「ありがと」

 笑って受け取る姫香。その無垢な笑顔に、これまでの疑いが晴れていく。

 ジュースを飲む姿を見届け、やはりこのまま帰るのもどこか違う気がして、丸椅子に座った。

「どう? もう体調、大丈夫なのか?」

 一息吐く姫香に聞くと、姫香は動きを止め、またしても宙を眺めている。

 彼女の周りだけ時間が止まっているみたいに。

 おいおい、また変なことを言い出さないだろうな。

 つい、手にギュッと力がこもってしまう。

「ーーねぇ」

 唐突な呼びかけに、体が固まってしまう。恐る恐る視線を移すと、姫香の呆然とした目と合った。

「ねぇ、私なんで保健室なんかにいるの?」

「はぁ? なんだよ、今さら」

「ーーえっ? 嘘? え?」

 何を今さらそんなことを言っているのか、と呆れていると、訝しげに僕を睨んだあと、顔を背けた。

 いやいやいや。なんだその態度は。それじゃ、まるで僕が……。いや、そんなことがあるものか。大体、それを言うなら……。

 ゴホッと咳払いをして、気持ちを落ち着かそう。話すわけにはいかないからな。うん。

「教室でお前、倒れていたんだ。ちょうど、僕そのとき教室に入ったからさ」

 まぁ、間違いじゃないはず、だよな。

「ほかに誰もいなかったの?」

「うん。お前だけだったけど」

 だから感謝しろよ、とは言えないよな。

 内心で毒づきながら頷いていると、またしても姫香はじっと僕を見つめてきた。

 何かを言いたげに訴えてくる様子にたじろぎ、首筋を掻いてしまう。

「ねぇ、見た?」

 思い詰めていると、今度は上目遣いに聞いてきた。そんな請うようにされると、聞きたいことは……。

「……ノートのことなんだけど」

 つい、手に力がこもった。悟られただろうか。姫香の瞳孔がピクリと動いた。

 う~ん。どうも、逃げることができそうにない。

「……うん。見た、けど」

 ……けど。

 どういう意味なんだ? 冗談だよな。あれは、その……。

「……血って」

 今度は声を留めることができなかった。発した途端、唇を噛んでしまうが、すでに遅い。

 もう聞こえているはずだ。

「……そっか」

 そのあとのことは忘れてくれ。いや、嘘であってくれ。

「じゃぁ、そのあとは?」

「……そのあとって?」

 つい目を見開いてしまう。そんなことを聞くことは……。

「あとってことは」

 恐る恐る聞くと、それまで神妙な面持ちであった姫香の表情が次第に緩んでいく。

 そして、あの教室での不敵な笑顔を浮かべた。

 ……あれ?

 ……えっと、

 ……ん?

 そっか、そっか。

 ノートを見たんだ。

 ふ~ん。

 それだったら……。

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