一 ~ そんなのできるわけがないだろっ ~ (5)
そんなに後悔すること?
別に酷いことなんかしてないんだから。
3
そういえば、小学校のころ、やたらと怖がりな友達がいたな。
そいつは、幽霊や化け物といった類が大嫌いで、よくテレビなどで心霊番組があった次の日、誰かしらその話で盛り上がっていても、絶対に話の輪に入ろうとせず、自分の席で耳を塞ぐように、そっぽを向いていたな。
だからこそ、みんなしてそいつをからかって、わざとそいつの席の前でホラーの話をしていた。
僕も面白がって話していた。そいつは、ゲームですら怖がってしまい、ホラーゲームを勧めても、絶対にやらなかったな。
でも、そいつも変わっていて、ホラーが嫌いだと騒いでいたはずなのに、一つだけ、平気なものがあった。
それが吸血鬼、ドラキュラの類であった。
なんで、そんなに偏った怖がりだったのだろう。
「あ~。最悪だ……」
白いシャツに広がったオレンジ色の染みを睨み、ハンカチで叩いて染みを拭き取ろうと苦戦しているなか、唐突に、昔の友人のことを思い返していた。
そいつは今、何をしているんだろう、と。
そいつは小学校五年生のとき、引っ越してしまい、それからは音信不通となっていた。
ふと、思い出したそいつに、僕は言いたい。
僕は今、染みと戦っていると。
保健室には、僕ら以外誰もいなかった。養護教諭もいない。
僕たちとは、僕と今田姫香のことである。
僕はちょっと疲れてしまい、丸椅子に座って背中を丸め、胸の辺りにできた染みに参っていた。
彼女、いや、ここは怒りも込めて名前で呼ばせてもらう。今さらではあるのだが。
姫香は保健室のベッドに眠っているのである。
それも穏やかに、スヤスヤと快眠なのである。憎らしいほどに。
さて、僕たち二人しか保健室にいない。教諭もおらず、そこに可愛い女の子が無防備にベッドに眠っているのである。
邪な考え、欲望に駆られてしまうと姫香を……。
はたして、それは本能なのか、健全なのかはさておき、僕は断言しようではないか。
僕は絶対にこいつを襲ったりなんかしない。
絶対にそれはないっ。
なぜなら、僕がこいつに襲われ、命を奪われそうだったから。
「……吸血鬼、ドラキュラ? なんだよ、それっ」
まったく。なんなんだ。
って、思い出したくもないわっ。
変なことするつもり?
何かするつもり?