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吸血彼女のお願い  作者: ひろゆき
4/57

 一 ~  そんなのできるわけがないだろっ  ~ (4)

 死ぬ?

 殺される?

 貧血に……。

 干からびるのか?

            2



 滴り落ちる雫……。

 胸の辺りがポタポタと濡れていく。

 冷たい。

 あれ? 血って、冷たいの? いや、温いのか? いや、わかんないな。

 これって、意識が遠退いているのか。意識がなくなっていくから、血の温もりもわからないのか?

 それって、あれ、僕って……。

 死ぬの?

 死ぬ前にちゃんと野菜ジュース飲んでおくべきだったなぁ。はぁ~。

 痛い…… 痛い…… 痛……

「……なんで?」

 あれ? 痛くない。今の声、今田?

 恐る恐る目を開けた。


 一日一本! 健康で丈夫な体をこれで。


 はい?

 どこかで聞き覚えのあるフレーズ。

 そうだ。これは野菜ジュースのキャッチフレーズではないか。なんでそれが?

 途方に暮れ、まばたきをすると、視界が晴れていく。

 姫香に噛まれていた。

 だが、姫香が噛んでいたのは、野菜ジュースの入ったペットボトルであった。

 咄嗟の出来事である。

 姫香に襲われそうになった瞬間、僕は手にしていた、野菜ジュースを顔の前でかばっていたらしい。

 ポタポタと滴り落ちる雫が、僕のシャツを濡らす。

 それは野菜ジュースからこぼれていたのだ。

 ボトルの先で、パチパチとまばたきをする姫香。その口にはがっしりとボトルがくわえられている。

 姫香は僕を噛もうとした勢いで……。

 って、いやいやいや、どんだけ鋭いんだよ。

 どれだけ八重歯だからって、穴が開くほどの力が出るわけが……。

「……嘘でしょ」

 そう、これは嘘。このボトルをどければ、姫香はいないんだと、ボトルを避けてみた。

 全身から血の気は引いたままである。

「……あ、おいしっ」

 そこにしっかりと、姫香はいた。

 美味しいって。

 姫香は満足と、言いたげに、唇をペロリと舐めた。背筋が凍ってしまう。

「なぁ、満足、したのか?」

 思わず苦笑して聞いてしまった。今はそんなことを聞くべきではないだろう。

 倒れ込む僕の体に乗り、座り込む姫香。僕の声は聞こえていないのか、口元を手で押さえ、宙を見上げて何かを思案している。

「……今田?」

「美味しいんだけど、これって血じゃないよね。なんで?」

「なんで、って」

 不思議がる眼差しがこちらに向けられた。

 思わず手をブンブンと振って否定するのだが、疑いの目は退いてくれない。

「いや、だから無理だっての」

「……私がほしいのは、血だよね」

 姫香の目が恐ろしく、僕は強くかぶりを振る。

 なんで? と疑問が振り払えず、姫香はまた僕の肩を掴んできた。

 依然、力が強く、腕を振り払う余裕がない。

 だから、なんでこんなに力が強いんだ?

 もうボトルも中身が減っていて使えそうにない。

「ねぇ、やっぱり、ちょ~だい」

「だから、そんなのって」

 また大きく口を開く姫香。ここで手を出せば、手を噛まれそうだ。

「じゃぁ、今度こそーー」

 今度こそ、殺されーー

 半ば諦め、目を閉じて首筋に力を込めた瞬間、姫香の声が途切れた。

 途端、体にドンッと何かが覆い被さった。

 恐る恐る目蓋を開いた。

 すると、飛び込んでくるのは、教室の殺風景な天井が出迎えてくれた。

 あれ? 今田は?

 心臓が飛び出そうに暴れてしまっている。

 興奮しているから? いや、それもあるが、何か体が重い。

「……えっ?」

 僕の体に姫香が倒れ込んでいた。

 これまで狂気に満ちていた体が、生気を失って倒れていた。

「……気絶?」

 いや、静かではあるが、寝息が耳元で聞こえる。また眠っているのか。

 体を伝い、姫香の心臓の鼓動が伝わる。

 これまで形としては、命を狙われていたよな。それなのに、なんだろう。安心している。

「あれ? この後、どうしたらいいんだ?」

 だから、干からびるってのっ。

 何がおいしいだっ。

 まさか、野菜ジュースに助けられるなんて……。

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