一 ~ そんなのできるわけがないだろっ ~ (2)
なんで?
なんで、こんなことをしてしまったんだ?
襲うのは後悔?
わからない。知らないよ。
でも、この行動は間違いだったのか?
ふと、まばたきをしてしまう。
見間違いだろうか。
彼女が眠っている机に、一冊のノートが広げて置いてあった。その上に、覆い被さるように彼女は眠っているのだが、ノートの一部が見えていた。
シャーペンも転がっており、几帳面な彼女にしては珍しいと思ったとき、僕の目に飛び込んできたのである。
血、という文字が。
ダメなのは痛感し、自制心が背中を這っていて気持ち悪い。
でも、読まずにはいられない。
つい、僕はこのノートを引き抜こうとした。
ゆっくり、ゆっくりと気づかれないように……。
ふう……。
上手く引き抜けた。後ろめたさを好奇心が騙し、安堵から胸を撫で下ろした。
さて、なんと書いてあるのか。
「……血が…… はい?」
ーー 血がほしい。
ノートに書かれていたことに僕は戸惑ってしまう。
「血がほしいって、どういうことだよ、これ」
思わず声に出てしまった。
「……だって、血がほしいんだもん」
えっ?
「ーーはっ?」
あれ? この教室に誰かいたか。うん、いた。今田だ。けど、彼女は寝ていなかったか。
そう。そんなはずはない。いやでも、この女の子の声に聞き覚えがある。確か……。
「ーーえっ?」
頭に浮かんだ「?」に導かれながら、視線を落とした。
すると、それまで眠っていたはずの今田姫香が体を起こし、大きく腕を伸ばしてアクビをしていた。
いやいやいや。こんな無防備な姿。本当に今田なのか?
「あれ、古川くん?」
僕に気づくと、満面の笑みを献上してくれた。
「お、おはよう」
つい反応してしまった。
うん、と頷くと、今田はおもむろに立ち上がり、席を回ると、僕の方に近づいてくる。
「あ、ごめん。勝手にノート読んじゃって」
急に申しわけなくなり、咄嗟にノートを机の上に置いた。
彼女は笑顔を崩さず、僕の横に立つと、おもむろにお腹を摩った。
それはまるで、お腹が空いたみたいに。
「はぁ~。血がほしい」
「はぁ? 血? 血ってなんだよ」
「だ・か・ら・血」
うん、血?
「け・つ・え・きっ」
次の瞬間、彼女は不適に口角を上げた。
あ、八重歯。
いやいやいや。そんなことを考えている場合じゃない。何を言っているんだ、こいつは。
「じゃ、いただきますっ」
いや、待て待て待て。
じゃ、じゃないだろっ。
「なんなんだよ、おい、こら、おいっ」
吸血鬼じゃあるまいし。こらっ。
「おいっ。今田っ」
ってか、なんなんだ。
ただノートを見ようとしていただけ。
自分の行動は間違いじゃないはず。
それなのに、こうなった?