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吸血彼女のお願い  作者: ひろゆき


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10/57

 一 ~  そんなのできるわけがないだろっ  ~ (10)

 そう。

 呆れても、笑ってもいいんだ。

 バカげたことを言ってしまったんだから。

            9



 いやいやいや。そんなはずはないよな。うん。

 だってほら、姫香も僕の返事にうなだれて顔を背けてるじゃないか。

 きっと笑うことを堪えているんだ。このバカげたことに。

「……やっぱりそうなんだよね」

 ーーはい?

 そこで姫香は跳ねるように席を立つと、僕に背を向けた。

 あれ? なんでそこで笑わないんだ? それか、呆れてもいいんだぞ。

 僕の不安をよそに、姫香は背中を丸めてしまう。細く小さな体がより小さくなる。

「あぁ、もぉ……。なんで、こんなことになっちゃったんだろ……」

 ーーん? 怒っているのかわからないが、嘆きに似た小さな声がもれてくる。

「まぁね。そりぁ、昨日はちょっとお腹が減ってたよ。だって、お昼はちょっと減らしたんだから。仕方がないじゃん。ちょっと、太ったんだからさ」

 姫香はその場で手を大げさに広げて動き出した。

 あたかも何かのジェスチャーをしているみたいに。

「そりゃね、薬も切れていたよ。でも、それも仕方がないじゃん。このところ、バイトとか絵里と遊んだりして、イヌくんところに行く暇がないんだからさ。だったら、あそこの店、遅くまで開けておいてよって話なんだからさ」

 今度はその場で地団駄を踏み、怒りを発散している。しかも、それで物足りないのか、机を叩いてしまう。

 しばらくして、手が止まった。

「はぁ~。でも、薬がないとダメなのかな……。だったら、“血”を吸えってことなんだけど。だからって、そんなの簡単じゃないじゃん。私がどれだけ我慢して……」

 そこで宙に怒鳴るように張り上げていた声が止み、動きを止める姫香。

「……今田?」

 これはミュージカルか何かの芝居か? 両手を大きく広げる姿につい声をかけてしまった。

 銅像みたく固まる姫香。こいつは本当にあの今田姫香なのか?

 無言の疑問が耳に届いたのか、ゆっくりと姫香は振り返る。そこにはあの笑みが出迎えた。

「ねぇ、古川くんって、吸血鬼って信じる?」

「吸血鬼って、あの血を吸う?」

 ダメだ。つられて言ってしまう。

 耳を疑っていると、姫香はより目を細めて目尻を下げた。

 なんだろう。より恐怖を抱いてしまうのは……。

 どこかで見たな、こんな状況を。

「……私ね、その吸血鬼なんだ」

 誰に文句を言っているんだ?

 それに、吸血鬼?

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