一 ~ そんなのできるわけがないだろっ ~ (1)
ちょっとした好奇心は誰にでもあるもの。
その思いに体を動かしてみると、そらはどんな物語の始まりになるのか。
第一章
1
さて、ちょっと聞いてもいいでしょうか。
みなさん、学校の行事で楽しみにしているものって何かありますか?
うん。文化祭でしょうか?
当日までの準備期間、クラスのみんなとワイワイ楽しみながら騒ぐのが醍醐味? その間、好意を寄せている人と距離を縮め、仲良くなり、願わくば恋が成就するきっかけになるから。
それとも、修学旅行? これもクラスのみんなとワイワイ普段の学校との違いを楽しむのでしょうか。いろいろと観光し、美味しい物を食べたり、夜、教師に怒られながらも騒ぐ時間。心が躍るでしょう。
あるいは、体育祭と答える人もいるでしょうか。
まぁ、こちらは運動が苦手であり、嫌いだと訴える人もいるでしょう。
かくいう僕もその一人です。まぁ、いろいろと捉え方があるでしょう。
なかでは、そんな行事ではなく、部活が楽しいとか、普段の方が楽しいと捉える人もいるかもしれませんね。
僕も普段の騒がしい時間が好きです。部活には入っていないので。
なら、逆に嫌いな行事はありますか?
僕にとって、それはまずテスト。何を置いてもテスト。中間、期末、小、いろいろとありますが、そのすべてが嫌いで、もう逃げられるのなら、逃げたいのが本音です。
と、
まぁ、いろいろと聞いてしまいましたが、そのなかで意外にも嫌いなのが「日直」なのです。
日直とは、何か言い知れぬ責任を押しつけられている気持ちになってしまうのです。
その日に問題が起きれば、それはすべて日直の責任なんだ、と緊張してしまいます。
だから今、担任に日誌を渡して教室を出ると、自然と肩で息をしてしまった。
「……やっと終わった」
日直であった今日はとても長く感じてしまう。廊下の窓から外を眺めていると、夕暮れが僕を嫌味ったらしく眺めていた。
「……さ、終わり、終わり」
憎らしさを振り払い、売店へと向かった。
目的は売店にある自販機で売っている野菜ジュースを買うためである。
みんなは野菜ジュースを敬遠している。以前、お昼に買おうとしていると、友達に不思議がられてしまった。
こんな物を買うのか? と。
僕は野菜ジュースが好きである。今日も日直の呪縛から解放されたご褒美として、買っていた。
上機嫌で教室に戻っていた。左手に握った野菜ジュースのおかげで、足も軽やかである。
顔がほころびそうだ。
右手でスマホを操作していると、友達から連絡が来ていた。
ーー カラオケに行っている。
ーー 待ってろ、すぐ行く。
と、すかさず返信し、足早に教室に戻った。
まるで見捨てるように帰った友人を憎んでいたが、これを見て、憎悪は消え去った。
ならば急ごうと教室に着き、扉を開いた。今さら後悔してしまう。カバンを持って、職員室に向かえばよかったと。
みんな、部活や遊ぶために、すぐに教室を後にしているため、誰も教室には残っていないだろう。
扉を開いた手が止まり、まばたきをついしてしまった。
「……今田?」
すると教室には、一人の女子生徒が残っていた。
今田 姫香。
彼女は自分の机に突っ伏すように眠っていた。いや、倒れてるのか?
つい、首を伸ばして、彼女を眺めながら教室に入る。
ちょっと信じられなかった。
普段は気さくに誰とも話す子ではあるが、几帳面なのか、物を散らかしたりする子ではなかった。
それなのに、突っ伏しながら、だらしなく右手を伸ばして眠り、普段はしなやかな長い黒髪を乱している。
彼女の席は窓側から二列目の最後列の席。僕の席は窓際で、彼女の斜め前の席であったので、彼女の前を通ろうとした。
さっき、日誌を持っていこうとしたときはいただろうか?
ほかに生徒は残っていない。取り残されたわけではないだろうが、ふと不思議に見えてしまう。
「……今田?」
スヤスヤと寝息が聞こえてきそうな雰囲気に、つい声をかけ、机の前で止まってしまった。
ふむ。爆睡らしい。反応はまったくなく、よくお眠りのようである。
言葉を失ってしまう。無防備で無垢な寝顔が…… その、可愛い。
普段から体が細く、色白だな、と思っていたが、こうして近くで見ていると、本当に白いと魅入ってしまう。
っと、そんな暇はないのである。カラオケ、カラオケっと。
魅入っている気持ちを叱咤し、自分の席に置いていたカバンを掴み、体を反転させると、不意に足が止まってしまう。
「……血?」
今回は、ある意味、どこまで楽しんで話を進められるかな、と考えています。
また、読んでいただいて、楽しいと思っていただけるか、不安はありますが、今後もよろしくお願いします。