第7話 新しい人生
ティアを迎えにいく、そのためだけに今を動くことにした。
やる事は決まったから迷う必要も戸惑う理由もない。
身体を動かすことができなかった2歳までは魔力の増加に努めた。先生が言うには魔力の容量は鍛えることができるらしい。
鍛えた年月の分だけ多く、前回の僕は魔術を使い始めてから約3ヶ月と言う期間だったため戦闘に使うには少なすぎた。使えたとしても奥の手、切り札として取っておくような使い勝手の悪さ。
あの時のような炎を作り出すだけで生命エネルギーの枯渇は始まり、臓器の一部が機能停止した。吹き出せるほどの血の量さえもなくなっていたが、今から鍛えれば間に合うと踏んで魔力増加に努めた。
やはり魔術を使うたびに肉体の破壊は始まるし、許容量を超えれば臓器が破裂して気を吹き出すことも多々あった。それも僕が魔法を使えなかったのが悪く、その理由についても後悔はしていない。先生には可能性の一つとして聞いていたが僕が望んだことだ。
一生この魔術と付き合っていく。
産まれてからすぐに記憶が現れた事で2年ほどの歳月に余裕ができた。魔力増加に努めたと言いえど、錬成などの消費が少ない魔術以外を使えば死にかける。
新しい家は国の伯爵家、貴族の事はあまり詳しくはないし、学校にも行ってなかったので又聞きだが、上から数えた方が早い立場らしい。
そのため僕が毎回身体を破壊するたびに回復魔法をかけてもらえた。魔術に回復系統は存在するが僕は使えない。怪我を治す工程を知らないしイメージできないからだ。
そうして魔術の練習している少し興味深い話を小耳に挟んだ。
それは【外交官研修生】の事だ、どうやら話によるとこの王国の外に行くことができ、貴族としての権力を振るうことができる物らしい。
そして貴族の子息が国の外に出る事については基本的に規制が厳しい。国を統治する者は貴族で占められており、その若き芽を積まないための処置だそうだ。
随分な封建制度だと思うが、僕の住んでいた国がどうだったかは知らない。ただの村人如きが国の情報を知る必要もなかったし、帝王が約300年前から変わっていない事くらいしか知らない。あとは税金が上がった時に爺さんが嘆いていたくらいか、
ともあれ、僕が国の外に出る事。そして最短でティアを迎えにいく事にすれば【外交官研修生】の制度に頼らなければならない。こんな事なら貴族なんかに産まれたくなかったと悪態をついてみたが、傷を倒してもらえないのは困るため喉の奥に引っ掛けて口には出さずに飲み込んだ。
【外交官研修生】の制度としては、12歳を超えた貴族の子息が、随分と高度な試験を受けて見事合格すればなれる物だ。試験の内容について誰かに問いかけようと思ったが、あまり接してくれる人が居ないので一人で調べることにした。
僕の家、それは屋敷のように広かったが。僕の家という感覚は薄い。家族の姿も見ないし、屋敷にいるのはメイドか執事。だから寂しさは感じないようにした。
3歳を超えれば歩くことも叶い、ずっと天井を見ながら魔術の練習をして身体を壊す日々も終わりを迎える。
書庫に入り浸っては【外交官研修生】と国の制度について洗いざらい調べ尽くした。その中で貴族の地位とやらが随分と使い勝手のいい物だと思ったが。使う機会がなさそうだ。
貴族としての産まれた者は最後まで貴族として死ななければならない。
そのあり方はどうも受け入れられる物ではなく、僕は貴族じゃないと生前の記憶に引っ張られた。
3歳の年は魔術の練習と知識の向上に全てを費やした。
その中で【外交官研修生】の入試問題を見る機会に会い。何が書かれているのか全く分からず、このまま受かることができるのか不安になったからでもある。
ただのガキが高度な試験に受かるためには時間は足りないくらいだった。
それでも諦めるわけにはいかない。ティアを迎えにいくと誓ったのだから僕は必ず成し遂げなければならない。僕の最後の家族を独りにはしない。
目的を果たすまで絶対に折れる訳にはいかない、それだけは忘れてはならぬと心に刻め。
■
今の僕には兄がいて、彼の名前はレイガス。
年は18歳で僕の人生年齢を足せばギリギリ勝てるが、知識の量と剣の腕では圧倒的に負けている。彼の髪の毛は最近まともに生え揃ってきた僕の髪の毛と同じで、明るめの茶髪。黒髪と前回の金髪の間のような色だった。
レイガスは天才でしかも努力家だった。だから僕が何かを聞くと、すぐに答えてくれる知識の量と2大剣術の一つ、暁明流剣術を披露してくれた。
暁明流と月影流、この二つが2大剣術と呼ばれて剣を扱う武術だそうだ。
剣の型を教えてくれると言っていたが、レイガスは多忙のようであまり時間が取れなかったから5歳になる今でも教わっていない。
そんな過去の出来事を思い出しながら修練場に木剣を引きずって歩くと、やっぱり誰もいない。レイガスは王様に気に入られたとかで婿養子が決まった。彼は王族になるそうだ、だからもう帰ってくる事は稀なんだ。
「クロード、そんな所で何をしているの?」
クロードとは僕の名前だ、5年間もこの名で呼ばれていれば定着もするし。ハクの方が古く別人のような気がしてしまう。そんなことはないはずだと言うのに。
「母様」
顔も知らない父親と絶世の美人と評判だったこの女性が結婚した結果、三男として再び生を受けた僕がいる。一定の敬意は払うべきだが、それ以上にこの女性だけはよく気にかけてくれるので本当の母親のような気がする。
「剣術の稽古をしたかったのですが……」
「たまには遊んだらどうですか?従兄弟のアルバーニ君も来週辺りに挨拶に来るでしょう」
「アルバーニとは歳が離れすぎています、弟に任せてはどうでしょう?」
僕は三男だが、弟もいる。
弟は現在で2歳か3歳のはずで、屋敷を歩き回ったりはしない。そのため顔を合わせることもないし、自分から会いにいかない限り出会う事はない。
そしてアルバーニは赤子だ。どうやっても遊べないし時間がもったいない。
「うーん、少しお部屋にいらっしゃい」
理由は分からなかったが。断ろうとした時に見せた彼女の表情が曇っていた。無理に断って無下にはしたくはない、身体強化をしない限り持ち上がらない木剣を引きずって彼女の後ろをついていくことにした。
何があったかは知らないけれど、彼女ともういないレイガスだけは僕に対して普通に接してくれている。意識が外部の人間だとしても、それを知らなかったとしても僕は嬉しい。
実は意識は違う人ですなんて言ったら、悲しむのだろう。
だけど実際はそうなのだ。幼少期の頃から機会な行動を取り続けた僕を家族だと言ってくれた事に少しだけ嬉しかった。一人にはなりたくなかったのかもしれない。
「はい!」
後ろをついて行き促されるままに室内に踏み入れる。
案内されたというか、ついて行った部屋は応接室、金持ちが客人を招き入れる時に使う部屋であり、相手も金持ちだと相場がきまっている。
そしてこの部屋は空気が重く冷たい、これから行われる話し合いに何かが通じているのだろうと思いながら、手ごろな椅子に腰掛けてなんの話をされるのだろうと身構える。
貴族の子息と言ってもただのガキが、5歳という年齢の子供を巻き込んで話をするなら、それほど重要なことではないのだと言い聞かせて落ち着きを見せる。
後ろに立っている執事達の顔が強張っている事から相手は大物。粗相したら首が飛ぶのだと、今までの思考が水の泡になる事実を突きつけられる。
なんとか何もせずに終わらせなければとビクビクしていると、
「ハルイザ国王」
真横で頭を下げる執事達に習って頭を下げる。
だが僕の耳が間違っていなければ、相手は国王。
頭を上げることが不敬なのではないかと下げたままにしていたら、
「面を上げよ」
渋い声が応接室に響き渡り、心臓を震え上がらせる。
目の前に国の最高権力者がいるとなれば恐怖も倍増するのである、
「今日は婚約の話をしにきたのだ」
婚約と聞いて、誰なのか?
その答えは出ているようで出ていない。
次男のマルクが適任だろうが、レイガスが既に王家に行った所だ。
あの人一人で十分とはならぬのか。
もし新たなとくれば、残された選択肢は僕だけだ。
僕に婚約者ができる可能性が、この会談次第で決まる
午後9時、そして12時に次話投稿
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