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第4話 不平等で優しい世界



──正義に理由などなかった


──死せる時に優しさはなかった



地下室にていつも通り錬成を繰り返し、新たな剣を生成していると、


「あっ……?」


錬成に使う鋼を無造作に掴もうと手を伸ばしたが、その先には何も無く。

空っぽの箱の底に手が当たった。まだある物だと決め付けていたが底をついてしまえば取り揃えるしかない。

鋼を生成するために鉄の入っている箱を引きずって来ては中を覗くが、鉄さえも無かったと。細かい破片のようなものはあったが、それを固めた所で短剣すらも出来そうにない。仕方なく材料をこしらえに行くことにした。


人里に降りて金を払うよりも山に入り洞窟で採取する方が手っ取り早いと思い、ハクは床に落ちていた上着を叩き、土埃を落としてから羽織る。


誰と戦う訳でもないが護身用と魔物に襲われる可能性を含み、ハクは剣を剣帯に通して吊るした。錬成魔術を使えばツルハシは要らないが、使いすぎると死ぬ事だけ気をつけて置こうと心に留めてから地下室から這い出て外に出た。


日が暮れる前に帰るために足を早めて駆け出す。

足場の悪い木々の合間を縫うように走り、長く続く体力に今までが無駄ではない事をハクは少し味を噛み締めた。


3ヶ月前なら息が上がっていただろう道のりも、今なら駆け抜けられた。

多少の無茶なら身体はついてこれる。

身体強化の魔術を施さなくたってかなりの速度が出るようになっていた。


「ハク!私も連れて行って」


急遽呼び止められて足を止める。

かなり遠い位置ではあったが、聞こえなくはない。

奥の人物を無視することも憚られて顔を向ける。


「暇だから、こんな所にずっといたら死んじゃうよ」


ハクとしてもティアにする事がないと言うのは分かっていた。

魔法を習得する事にしていると言えど、ハクのように切羽詰まっているわけではない。同年代の者と比べれば使える魔法の量は多い分類であり、無理に覚えることもない。

娯楽の少ない森の中で勉強のみを務められるほど、子供の気は長くない。


「分かった。ただしフードは被ってもらうからな」


ティアの下に近づいて彼女のフードを被せる。そして白く長い髪の毛をフードの中に押し込んで髪の毛を隠す。普通の人が見ても使徒だとは分からないが話が広がればダグレス王国の耳に入る可能性も捨てきれない。

本来なら外には出したくないが、そこまで非情になるには兄という情は凄まじく邪魔だった。


「えー」


「文句言うな、ティアが特別なのは知ってるだろ。悪い大人が寄ってたかって奪おうとするんだからしょうがないだろ」


フードを被る事に不服があるらしく文句を垂れるティアを宥める。

ハクはシオンにティアが狙われたから両親が死んだとは言わないで欲しいと頭を下げて頼み込んだ。彼がどのような説明をしたのかハクには知り得ないが、


「特別だから……私が特別だから今回は許す」


「ありがとう」


どうにか伝わったようで息をつく。

そしてティアが両親の死の責任を感じていないようで安堵した。


「行こうか」


特に見所がある訳でもない道のりだが、ハクにとっては妹と二人きりで歩くのは久しく感じた。それと同時に二人で歩いた最後の日の事を思い出す。

何もかもが失われたような火と日を思い出し、痛くなる頭を振って前に進んだ。


──幸せは失われたままなのに




平等という言葉は不平等だ。

平等でないから平等なのだ。


そんな事はずっと前に気づいて置くべきだったと、そう思ったときには全てが破綻していた。こぼれ落ちた全てを掻き集めようとして何も拾えずにいた。

絶望は平等ではない、必要な分を必要なだけ突きつける者なら良かった。

実際はそんな生易しい者ではない、真実は希望の断罪者でもあるのだから。



「こんにちは、さようなら。貴様はどちらがいい?」


その声が聞こえたとき、もうすでに死を直感するに至った。現状を打破するだけに全力を注ぎ、迫り来る剣撃を弾き返して地面を跳んだ。

ハクはとっさにティアを担いで宙を駆ける。迫り来る追撃の刃を手に持った剣を振る事で防御して防ぎ切る。だが剣の扱いに関しては相手の方が圧倒的に上手、防御しきれなかった斬撃が皮膚を斬り裂いていく。


「使徒を寄越してもらおうか?」


「ふざけるな」


追手がもうここまでやって来たのかと視線を動かすが、目に映るのは目の前の剣士だけ。それ以外はまだ見えないだけか、それとも居ないのか。考えた所で答えが出るはずもないのでハクは諦めて、


「ティア……逃げれるか?」


腕の中にいるティアを地面に立たせて、そう伝えた。


「ハクはどうするの!」


「先生と師匠を呼んできてくれ、それまでは耐えてみせる」


自身はなかった、出来る確証など確立にして数字にすらならない。

万が一にも勝てない、どんな奇跡が重なったとしても負けは確定しているのなら、


「僕は負けない、お前の兄だぜ」


負けが確定しているのなら、その時間を全力で引き伸ばすまでだ。

目の前の敵に対峙して、逃げ出す事は許されない。最後までティアを守ると誓ったのなら、この思いが偽物でないのなら、戦えと言い聞かせる。


「話が終わったのなら……死んでもらうか貰い受けよう」


直線状に剣を向けて斬りかかってくる男はティアを目掛けて跳んだ。

狙うは腹部、一撃では死なず身動きを取れなくするには絶好の位置だったのだろうが、その行動は戦闘経験の薄い少年にさえ読めるくらい短絡的でもあった。


「妹が欲しけりゃ兄貴に頭下げてからにしろ」


「女に興味はない、欲しいのは使徒だ」


間一髪の所で剣を弾き飛ばし、蹴りを叩き込みんで吹き飛ばす。

歴戦の戦士には素人の蹴りが通じるわけもなく地面に足をつける。


「ティア……逃げろ!」


怒鳴り声を荒げて足を動かせた。兄として絶対にしたくない行為だったが、そうも言ってられない。剣を二度合わせて圧倒的なまでの力の差を感じたハクは、すぐにでも折れそうだった。殺されるビジョンが目に映る。首を落とされる気がして止まない。それでも戦わなくてはならぬと、最後の希望を握りしめて奮い立たせる。


「完全な不意打ちだった初撃を躱し、そのうえ私の攻撃を防ぐとは」


技物だと、剣を作り出せるハクならば分かる剣と。蹴り飛ばしたときに感じた違和感から男の着ている黒い隊服は防御面に優れているようだった。


「あんまり汚いから思わずに避けただけだ、しても不意打ちとは芸がないなあんたも」


初撃はティアとハクが歩いている所を襲いかかった。木々が生えて視界が悪かったせいで反応が遅れたが、なんとか回避する事ができたのだ。

一撃では足りずに連撃を叩き込む敵に対してハクはティアを抱えて距離を取りながら防御。ティアを守り切る事はできたが攻撃は食らっている。


「その減らず口……目的は逃すためが」


背後に目をやり、ティアが視界から外れて逃げきれた事を確認してから剣を構え直す。剣の修練をし始めてから2週間、その期間だけの付け焼き刃の攻撃がいつまで通じるのか、だがハクに出来る物がそれしかないのだからやるしかない。


「これで後はお前を塞き止めるだけでいい、先生が来れば……それまでは」


時間を稼ごうと踏み込んだとき、


「図に乗りすぎだ餓鬼」


既に置かれていた刃が迫る光景が眼に映っていた。ハクの意識がズレた一瞬の隙に首を取りに来ていた。身体をのけぞって剣を間に入れて防御するが力で押し切られて吹き飛ばされる。


ハクは空中で回転する身体を制御するために力を込めるが、そんな時間を待ってくれることもなく追撃が走る。横なぎの剣撃に合わせて剣を振るい、直撃だけは避けて弾き返したが反作用と殺せない威力によって身体は木々をなぎ倒して土煙を上げながら森の中を転がっていく。


「流石に死んだか」


死体を確認しようと前に出た男に土煙の中から発射された短剣が頬を掠めて血を流させる。


「そう簡単に死ぬと思うなよ」


砕け散った岩を背に血を流すハクの姿が土煙の中から現れる。

岩を錬成して即席の剣を作り出して投げ、片手に握った剣を向けては殺意を突きつける。


「身体強化魔法か」


「正確には魔術だか」


魔術の発動とともに削られていく魔力を感じ、タイムリミットを計る。


『魔術は使いすぎると死ぬぞ』


それはハクがシオンに魔術を教わる時、一番最初に言われた事である。

これから教えるものがどれだけ危険なのかを最初に知って欲しいという注意。


『大気中の魔子へ詠唱をする事で事象を起こす魔法、だが魔術は違う。魔術は自らの身体とその生命エネルギー魔力を媒体として事象を起こすものだ、当然生命エネルギーを使い果たせば死ぬ』


『そして詠唱の代わりを務めるのが……ここ」


シオンは自身の頭部を指差して軽く叩く。


『脳にある電子信号の一部を術式として魔力の変換を行う。だから実際は手から魔力を出す必要もない』


『必要なのはイメージ、魔力を変換させるイメージだ』


『ただし対価は取られる。使うイメージが大きい程多くの魔力が支払われ、使い過ぎれば対価の生命エネルギーが枯渇して死ぬ』


『これだけは忘れるなよ』


シオンからの言いつけを今ここで思い出していた。

魔術を使うときはいつも気を付けているが、命のやり取りをするこの状況だからこそ、ハクには思い出さなければならたかった。


魔術は命を削って成す技。

生命のエネルギー、魔力を消費して現象を引き起こす技術。

独自の術式を肉体の脳の電子信号を媒介として変換する物、待機中の魔子に詠唱という指令を送ることで引き起こす魔法とは決定的に違うもの。

そして魂から生み出される魔力、生命活動に使われない余剰分ならともかく。維持にかかる魔力まで使ってしまえば確実に死亡する。


そしてハクの魔力総量は鍛え始めてからの期間に伴って少ない、そのため長時間の戦闘は死を意味する。身体強化魔術は魔力の消費が多く、このまま戦えば確実に底をついて死に至る。だが身体強化を施さなければ時間稼ぎはおろか、一撃で殺される。それではティアがシオンを呼ぶ前に死んでしまうため、苦肉の策をハクは取らざるを得なかった。


「はあっ!」


身体強化魔術を使った今のハクは岩をも軽く切る力と、馬に匹敵する脚力を有している。付与のかかった剣を振り抜き、斬撃を叩きつけるが容易く防がれてカウンターの拳がめり込む。だが肉体を強化した今なら痛みを耐え凌ぎ次の一手を打つことができる。


めり込む拳を受けながらも蹴りを叩きつける。

防ぐ両腕を同時に使わせている現在なら蹴りが入った。

強化された足蹴りによって吹っ飛ぶ男の後ろを迫り、剣を振りかぶった。


「大気のマナよ、我の肉体に力を『ブースト』」


身体強化魔法を使い迎撃を行い、ハクの剣を弾き飛ばしては流れるような動きで顔面を殴りつける。視界を塞がれ追撃を防がれたハクの下に拳が連続で叩き込まれる。

先程の攻撃の数倍の威力を持った拳が、骨を砕いて贓物を圧迫する。


「ガハッ!」


口から血を吐き出して宙を舞うハクの胸から腰にかけて、斬撃を叩き込んだ。

身体強化のおかげで贓物までは達しなかったが、大量の血を吹き出して地面を転がる。


「手間かけさせやがって」


荒い口調で動かなくなったハクを蹴り飛ばす。

剣を握る力もなくなった彼は手の中から剣を手放してカランと音を立てて落ちる。


際限なく垂れ流される赤い液体が地面に広がり、男はそれを踏み潰して立ち上がる。白が逃したティアを探すために、幸いハクの相手をした時間はそれほど長くないため今からでも追いつく可能性はある。

どこに隠れたか探さなければならないが、街道を通っていけばすぐに見つかるものだろうと、男は剣を鞘にしまって足を動かす、


はずだった。



動かすはずの足を掴む死んだはずの少年の手が邪魔をした。

流れた血の量は普通ではなく、生きていられるわけがないと思える程の血溜まりだ。

なのに何故、


(なんだこの力は、普通ではない)


今にも足の骨を砕かれそうになる力。身体強化魔法を切った訳でもないのに骨が軋んでいた。


「貴様!生きて……」


込められる力が増えていく事に恐怖を感じて、一撃で殺せる剣技を放つ。


「月影流剣術、首狩り」


首に剣技を放った。

確実に殺すために、餓鬼如きに使うはずのなかった剣技を使ってまで恐怖を払拭したはずだった。


『僕は──俺は──まだ……死ねない』



『後少しでいい。その対価が必要なら……僕でいい』


──世界は平等ではない


『だから……』


──それでも、対価に見合う価値は……くれてやる


明確な本編はそこから始まるのでもう序章は終わりです


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