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7話 開始

ついにこの日がやってきた。

国立学園、入学式。ゲームシナリオのオープニングだ。シナリオ通りならば、途中参加のロイ・ブラスタ以外の全ての攻略対象と出会うことになる。


私の両隣には15歳になった友人が立っている。


「なに突っ立ってんだ?ほら、行くぞ。」


攻略対象のカイル・マーヴィン。


「学園の大きさに驚いてらしたの?まったく、クラリスったら。」


悪役令嬢のジュディ・ニコルズ。


前世の記憶が戻って彼らに初めて会ってから約5年の月日が流れ、彼らはすっかりかつての画面越しに見たお馴染みの姿となった。


あの伝説のお茶会のあと、私たちはよくつるむようになった。お茶会でも会えばよく話すし、そうでなくともお互いの家に呼びあってあそんだり。公爵+公爵+貧乏子爵という些か凸凹なチームだが、2人は私が貧乏子爵だからと遠ざけることも無く、仲良くしてくれた。その代償として稀に「公爵家に取り入るなんて卑しい」だの他の令嬢たちから悪口を言われることもあるのだが、それもカイルとジュディがひと睨みして黙らせてくれたり。2人は本当に良い友人だ。


本来、オープニングではクラリスは1人でこの学園の門をくぐるのだが、実際には違った。だけど、ストーリーに沿って動くつもりは毛頭ないので、無問題。

私は、私の世界で生きていく。


そして、イケメンを影から堪能する!!


「2人共、これからも改めてよろしくおねがいしますね!」


「な、なんだ急に……。まぁよろしくしてやらんでもない。」


「うふふ。わたくしたちは唯一無二ですわ!」


3人でキャッキャウフフしていると遠くから声がかかった。


「おーい、クラリス。ついに入学したんだね。おめでとう。」


「ジーン兄様!ありがとうございます。これもジーン兄様が勉強を見てくださったからです。」


校舎側からやってきたのは攻略対象であり、従兄弟のジーン・メイウェザー。これはシナリオ通りだ。ゲームのオープニングでは1人で門をくぐったクラリスは、まず、ジーンに案内されて入学式会場のホールへと向かう。


「いやいや、クラリスはずっと勉強を頑張っていたからね。君の実力だよ。」


ジーンはなんでもないことのように笑うけれど、私は本当に感謝をしている。彼は記憶を戻した10歳の時から昨年の入学適性試験までずっと、定期的にわざわざウチの領の図書館へ足を運んでくれた。殊更、数学分野では大変お世話になった。クラリスはどうやら文系脳のようだ。


「そうだ、僕は案内しようと思ってここに来たんだった。君たちをホールまで連れて行ってあげよう。」


そうやって手を取られ、ゲーム通りに案内される。さすが国立で最高峰というべきだろうか、学園の敷地はとんでもなく広く、実家よりも軽く倍以上はありそうだ。私は学園内の色んなものが珍しく、キョロキョロと小さな子供さながら辺りを見ていた。

そんな私が面白かったのか、カイルが少し馬鹿にしたように笑って「お前、見過ぎ」と言ってきたので軽く肘パンをお見舞いする。下流貴族が公爵様に手を上げた!と騒がれそうな案件だったけれども、幸いジーンは見ておらず(もし見ていても私たちの仲の良さは知っているので恐らく本気で怒ったりはしないけど)、周りに人は居なかったのでセーフだ。ジーンは近道を通ってくれているようで、人通りは少ない。稀にすれ違う人も新入生ではなく、在校生っぽい人たちだけだ。


「中庭を横断する方が早く着くんだよね。……さぁ、会場が見えてきたよ。改めて、入学おめでとう。いってらっしゃい。」


ジーンは最大のイケメンスマイルを発動させ、私の頭を撫でた。至近距離でそれはダメだよ〜カッコよすぎる〜。ウッ、やめて、堕ちそう……。


若干後ろに居るカイルとジュディが蚊帳の外になっている気がしなくもないが、彼らは本来この場には居ないキャラなので仕方がないのかもしれない。ちらと見たけれど特段気にしてなさそうだ。


ジーンにお礼を言って別れた後、ホールに入るとそこは新入生で溢れかえっていた。


「これはすごい人数だな。」


「ええ、本当に。何人いるのかしら?」


あまりの人混みに驚く公爵組2人。対して私は、


「や、やばい、押しつぶされる……!」


まるで人気アーティストのコンサートが終わったあとの出口付近のように人で溢れかえっていたホールで私は早々に人の波に流されしまい、2人とはぐれてしまった。

にしても人多過ぎじゃない?これ全部新入生?ちゃんとホール収まり切るのかしら。


あれよあれよと流されているうちに、突然、誰かに腕を引っ張られて、人混みの中から救出された。


「あんた、大丈夫?」


「あ、ありがとうございます。」


お礼を言って助けてくれた主を見上げれば、桃色の瞳が視界に入った。ストレートで、よく手入れがされているとひと目でわかる、艶がかった菫色の長髪の女の子____じゃない、男。この人は……。


「……ウィリアム・モートン……?」


「あれ?俺の名前を知ってるの?そうだよ。俺はウィリアム。よろしくね。黒髪ちゃんの名前は?」


勢い余って名前を口走ってしまったが、彼は攻略対象のウィリアム・モートン。伯爵家5男の女装男子だ。

人の多さに完全に忘れていた。オープニングでは、今のように人混みに流されてしまったクラリスをウィリアムが助けるという流れだった。本当に忘れていた。

とにかく、名前を聞かれたので名乗らねば。


「クラリス・ウォルターです。こちらこそよろしくお願いします。」


「クラリスちゃんも新入生でしょ、お互い同期なんだから、堅苦しい敬語はやめない?」


ウィリアムは笑顔で言った。彼は女の子には皆こういった感じだ。女たらし設定ではないが、シナリオ内でも度々男には辛辣で塩対応なのに女(特にクラリス) には距離近めで優しくしていた記憶がある。

というかさすが攻略対象、やはり顔が良いな。女装男子を初めて実際に見たけれども、美しすぎて女の私が霞みそうだ。と言っても実際に霞むのは『私』であってヒロインの『クラリス』ではないのだけれど。


「う、うん。分かった。」


敬語が取れた私に満足したように頷いたウィリアムは、


「ねね、一緒に入学式受けない?」


そう提案してきた。これはシナリオ通りのセリフ。しかしどちらにしろ今からこの人数の中カイルとジュディを見つけるのは不可能に近いだろう。私は彼の誘いに乗って、2人で席に着くことにした。

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