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3話 ジーン・メイウェザー

前世の記憶を思い出して1週間。


ド田舎貧乏子爵家に大層な図書室があるわけでもなく、私は仕方なく町の公立図書館へと通っている。仕方なくと言ったのは平民と同じ空間を共有するのが嫌だとかそんな事ではなく、『馬車で片道30分の図書館』と『家の敷地内にある図書室』なら確実に後者の方が通いやすいし、楽だからという単純な理由からである。


そもそも貴族の末端レベルのウォルター家は平民と身分の差は正直言ってそんなにない。だからといって舐められているというわけでもなくて、治める領民とは良い関係を築いている。


では何故貧乏子爵なのかというと、何代か前の当主がやらかしにやらかしまくった結果なのだと父に聞いた。借金は先代で完済したものの、ド田舎で小さな領地ではめぼしい特産物も無いために貴族としてはギリギリの生活なのだ。


ウォルター家には娘しか居ないので、次女のケイシーは婚姻の際に相手側の家から資金援助を受けるという約束がなされている。政略結婚ではあるけれど、婚約者の彼とケイシーは仲良しさんなので問題ない。ちなみに長女のアシュリーの婚約者は婿入りという形で子爵家を継いでもらう予定だ。こちらももちろん結納金を頂く。


私もこのままゲームシナリオ通りに進めなかったらどこぞの金持ちに嫁に出されるんだろうなぁ。さすがに今の両親が金持ちだからといって小汚いおじさんに嫁がせるみたいなことはないとは思うけれど……。


まぁ援助や結納金等、そういうこともあるが、領地が小さい分コミュニティが狭いため領民との距離が近く、今のところ領民との仲は良好なのでなんとか運営していけているというのがウォルター子爵領の現状である。


話が逸れてしまったけれど、現在、私は進行形で歴史についての分厚い本をノートにまとめている。貧乏子爵家に家庭教師を雇う金は……ギリギリあるにはあるが、優しい両親に迷惑は掛けてられないので、この図書館の館長にたまに見てもらっていた。

『育ててくれた両親と領地への恩返しのために、学者になりたい』との一心で勉強していたゲームのクラリスと違って、ただイケメンを眺めるため学園に通いたいと勉強を始めた私は些か不純な動機ではあるものの、『クラリス』の脳は非常に優秀で、前世で特に勉強が得意だったわけではないが順調に事は進んでいた。


「クラリス」


そんな中、私の名前が呼ばれたので振り返ると攻略対象の1人でクラリスの従兄弟、ジーン・メイウェザーが手を挙げてこちらに向かって来ていた。


「ジーン兄様!お久しぶりです。どうしてこちらに?」


「君が図書館で勉強していると聞いたから気になって、ね。なにか力になれることはないかな?」


前世の記憶が戻ってジーンに会うのは初めてだったので、少し緊張して挨拶する。あぁ、カッコイイ。深海のようにどこまでも深い紺色の髪の間から夕日のような燃え上がる赤い瞳が見える。彼はクラリスより2つ上だ。

薄暗い図書館の中でもジーンからはキラキラオーラが滲み出ている。記憶がもどる前もそう思っていたけれど今はまた違う意味でその顔に見とれる。うーん、顔が良い……。


「クラリス?そんなに見つめられると照れるな。」


「えっ?!あ、すみません!」


無意識のうちに凝視してしまっていたらしい。いや、でも、好きなキャラが目の前に居たらどのオタクも見つめてしまうよね?ね?

屈託なく笑うジーンの笑顔にまたもや見とれかけるけど首を振って物理的に阻止する。


「ジーン兄様、ここの部分を教えて下さってもいいですか?」


「いいよ。どこだい?」


無理に話題を変えてその場を凌ぐことにした。しかし、嘘は言っていない。やはり館長に教えて貰っているとはいえども四六時中見てもらう訳には行かず、今日のようにこうやって1人で自主勉強するときの方が多い。いくら秀才設定のクラリスでも今は10歳の女の子なのだ。転生前の学力があっても日本の歴史とこの国の歴史は違うので今力を入れている歴史分野ではつまづくことも少なくない。

ジーンはゲームの舞台である学園に入学するので、賢いのだろうと推測したが、当たりのようだ。つまづいた部分をわかりやすく教えてくれる。彼は顔良し頭良し性格良しの三拍子だ。さぞかしおモテになるだろうな。


「ところで、クラリスはどうして勉強を?」


「イケメ……じゃない、学者を目指そうと思って……。」


おっと。口が滑りかけた。


「へぇ、学者にね。では、国立学園を目指すんだね?」


私は頷く。

私の目指す国立学園は、ここ、ヘスリア王国の最高峰の教育機関である。15の年に入学し、3年間生徒たちは座学から剣術からマナーまで、幅広く勉学を深めるのだ。

最高峰の教育機関という名は伊達ではなく、卒業後、官僚・学者・領主等の国を背負う役割を担う様な勉学に長けた者が集う。


また、同時に、幼い頃から家庭教師を付けて貰えるような裕福な人間ならまだしも家庭教師を付けていなかった基礎がない平民が自力で学力を付けて入学するのは難しいとされている。無論、稀に私みたいに自力で学園を目指す者も居るが……。


そういう訳で、入学資格は15歳の全国民にある訳だが、実際は生徒の身分の割合的にはほとんど貴族しかいない。所詮お坊ちゃま・お嬢様学校なのである。


ゲーム内のクラリスもそうだが、平民含め高貴でない者は卒業後、ほぼ全員学者となることを目指す。政治面では未だ貴族社会が根強くあるが、学者に関しては身分性別関係なく実力主義の面を強く出している。

さらに、学者は超上流階級の貴族レベルとまではさすがにいかないものの、高給取りなのだ。もう一度言おう。高給取りなのだ。だから平民・下流貴族は大抵ここを狙う。


貧乏子爵家を今後発展させていくにはやはりお金が必要なのである。確かに不純な動機は無くはないけれど、高時給で両親や領民に恩返ししたいという気持ちも勿論ある。そこは『私』も『クラリス』も変わらないのだ。


高時給とイケメン補給のため、何としてでも学園に入学せねば。


「ジーン兄様、わたくし、頑張ります!」


「お、気合十分だな。」


頑張れよ、と爽やかな笑顔で軽く私の頭を撫でたジーンはしばらく私の勉強を見ていてくれたが、やがて使用人に呼ばれて行ってしまった。え、ちょっと待って?今私頭撫でられた?イケメンに?触れられてしまった?!恐れ多すぎる!

彼が去った後、イケメンパワーを貰った私は少し赤い顔のまま再び分厚い本と向き合った。

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