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2話 ウォルター子爵家

こうなってしまったからにはいても経ってもいられなかったのだが、崖から落ちた令嬢をすぐに外に出してくれるような甘い連中ではなかった。

確かに身体の節々は痛みを伴うけれど、動かせないというわけでもないし、逆に言うとそこ以外はなんの問題もない。箱入り娘って大変なのね……なんて呑気に思う。


しかしまぁ転生とはなんともファンタジーなことなのだろうか。確かにファンタジーな世界観は好きだが自分がファンタジーに巻き込まれるとは思ってもみなかった。

あそこで人生強制終了じゃないだけマシか。それに今世は殺伐とした世界観とは程遠い乙ゲヒロイン。恵まれすぎじゃないかしら?逆に大丈夫かな、私。


このゲームではルート分岐はあるものの『ハッピーエンド』『バッドエンド』ではない。『ホワイト』『ブラック』といった2つのエンディングがキャラ毎に用意されている。キャラの好感度パラメータの両極端がそれぞれ白と黒になっていて、選択肢によってどちらかに傾く。ホワイトは純粋にイチャラブエンド、ブラックはちょっぴりオトナな彼の一面を垣間見ることができるエンドになる。

『オトナな面』と言っても全年齢対象なのでいかがわしいことにはならないのだけれど。ちょっとアプローチが激しくなるだけだ。ほんのちょっとだけ。


攻略対象を最初に決めてからストーリーが始まるタイプのゲームなので、所謂逆ハーエンドなるものは存在しない。し、バッドエンドで誰かが死んだり殺されたりすることも無いのだ。誠にハッピーお花畑系乙ゲである。


夢思考はないから攻略はしないけど、好きなキャラが実在しているっていうその事実だけで私は幸せ。なんたって、オタクですから!

やはり何としてでも学園に入らなければならない。実際に今まで会ったことがある攻略対象も居ない訳ではないが、実在する全員を見たい。喋って動いているところを見たい。


こうしちゃいられない。学園入学までのタイムリミットまで一分一秒たりとて無駄にできない。今すぐにでも勉強を始めねば!


そうやって意気揚々と部屋のドアを開けるも、また脱走は扉の前に控えていた使用人達によって呆気なく失敗に終わった。

今日はどれだけ頑張っても外出できなさそうなので、二度寝することにした。ふて寝である。



***



次に目が覚めたというか、私のお付きのメイド、クロエに起こされたのは夕食前のことだった。どうやらご飯のために起こしたようだ。お腹がすいていたので、2人でダイニングルームへ向かう。


「すみません。遅くなりました。」


「いいのよ、クラリス。具合はどう?」


部屋に到着して初めに話しかけてきたのは母のエイダだ。とても美しく、優しく、洗練された美女。ここから生まれたのだと思うと『クラリス』がいかに恵まれているか思い知らされる。エイダはそんな美しい顔を歪めて心配そうに此方を伺った。最初に目が覚めた時にも伝えたが、再度大丈夫だということを伝えておく。


「崖から落ちるなんて、肝が冷えたぞ。でも、無事で何よりだ。」


その次に話しかけてきたのは父のアレックス。彼もなかなかの顔面偏差値だ。少し髭が生えていて、俗に言う『イケおじ』といった風貌。

アレックスとエイダは政略と同時に恋愛結婚だったそうだ。基本的に2人はラブラブなので、必然的に家族仲も良好だ。


「少しの打ち身と擦り傷で済んだなんて幸運ね。」


「ほんとね。きっと神様が助けてくれたのね。」


ほとんど同じ容姿と声で後ろのドアから入ってきたのは4つ上の双子の姉のアシュリーとケイシー。一卵性なので気が抜くとどっちがどっちか家族の私でも分からなくなりそうだ。これは余談だが彼女たちは既に婚約者がそれぞれ決まっている。


ゲームの中ではほとんど語られなかったクラリスの家族。やはりヒロインを生み出した家族は美男美女だった。


こ、これが顔面偏差値の暴力……!


無論、クラリスも美人なのだが、自分で自分を客観的に見ることはできない。中身の『私』はこのキラキラしたダイニングの中で萎縮しながら食事をとることとなった。


顔面偏差値は置いておいて、ウォルター一家での食事は楽しいものだった。貧乏子爵家なので貴族にしては質素寄りではあったものの、前世の記憶が蘇った今はそんな豪華な食事は疲れてしまうだろうし、ちょうど良かった。それに家族皆仲が良いので話も弾んだ。傍目に見ても最高の家族である。


と同時に前世の家族に思いを馳せた。しかし顔はおろか家族構成さえ思い出せず、なんとも言えない気持ちになる。私はなかなかの薄情者のようだ。

前世の記憶は自分の情報と乙ゲと死ぬ直前しかほとんどない。なんとか思い出そうとしても頭に靄がかかったようになってそれ以上は分からずじまいだった。

思い出せないものはどうしようもないので、『いつか思い出せたらいいなぁ』くらいに思っておこう。


とにかく、なるようになる、よね?きっと。

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