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1話 転生先


____某地方都市、時刻は日付変更前。


「ふぅ〜間に合った」


バイト終わりに夜行バスって我ながらなかなかハードだとは思うけれど、明日のことを考えればそんなの一瞬で吹き飛ぶ。

脳内に浮かぶのは、何人かの同志たちのハンドルネームと、わかる人にはわかるリストアップ済の色とりどりの薄い本。


乗り込んだバスは、合図とともに発車する。私は座席に置いてあった貸出ブランケットをかぶり、目を瞑った。

次に目が覚めたらそこはイベント会場近くの駅。とても楽しみである。私はそのまま眠りについた。


しかし、次に実際に轟音と共に目が覚めた時、そこはイベント会場付近の駅ではなく傾いたバス車内であった。車体の軋む嫌な音と周りの乗客の悲鳴が聞こえた。


「えっ、」


嘘、という声が出る前にバスは激しく横回転しながら急速落下し、飛び散る乗客の荷物と割れた窓ガラス……そこで私は意識が途切れた。



***



「……う、」


目が覚めると、知らない天井、いや、いつもの天井。ここはどこ?じゃない、私の部屋。


「クラリス!」


すぐに視界を占領したのは、母エイダの心配そうな顔。その隣には同じ顔の父アレックス。

混乱している頭で周りを見渡す。すると鏡の中の少女……否、自分と目が合った。非常に変な感じだ。生まれてからずっと見てきたはずなのに、違和感がある。


どういうことなのだろうか。


しばらくして落ち着くと、私の中にはもう1人の「私」が居ることに気がついた。

日本、女子大生、乙女ゲームアプリ……初めて感じるのに、どこか懐かしい単語が次々と頭の中に浮かぶ。それは、紛れもなく『前世』の記憶。


私……わたし、は……



「クラリス?大丈夫かい?」


無事でよかった、と涙ぐみながらお父様が私に問いかけた所で現実に引き戻される。


「あ、はい。少し頭が痛いですが、大丈夫です。」


「でも本当に無事でよかったわ。あなた、崖から落ちたのよ!小さい崖だったけれど、打ち身以外は無傷なのが奇跡だわ!」


お母様はそう言ってハンカチで目元を抑えた。どうやら、崖から落ちてしまった様だ。崖?そう、崖……。


混乱する頭をひとまず落ち着かせようと額に手をやると、両親はまだ具合が悪いのだと判断した様で、また来る旨を伝えて部屋を退出した。

1人になった部屋で私はベッドから立ち上がり、鏡の前に立つ。目の前には黒髪青眼の少女が立っていた。右手を上げると鏡の中の子も右手を上げた。紛れもなく私自身であった。


「なんてこった……。」


先程見た夢と今の自分の現状などから考慮すると、これはいわゆる転生というやつなのだろう。とりあえず一度自分について整理しよう、そう思い立って私はメモ帳の空いたページを開き、ペンを走らせた。


今世での私の名前はクラリス・ウォルター、現在10歳。王都から少し離れた田舎の貧乏子爵家の3女である。前世の私は18歳の大学1年生で、どこにでも居る地方の喪女オタクとして生きていた。

死んだあの日はハマっていた乙女ゲームアプリの都会でのイベント前日だった。大人気だったそのゲームは沢山のグッズやコミカライズ等公式が盛んに動いており、スマホアプリではあったものの乙ゲ界隈で盛りに盛り上がっていたジャンルであった。そんな中での同人イベント参加に私は有頂天になっていたのだが、結局は参加する前に死んでしまった。

といっても私は夢女子ではない。ただ、2次元のイケメンとこういった中世欧州風な世界観が好きなのだ。よって、ハマっていたといえばハマっていたし、アプリ内のイベントやガチャ等に課金もそれなりにした気がするが、重課金勢だと胸を張って言えるようなオタクではなかった。純粋に楽しむ微課金勢だったというべきだろうか。


そして今、私はどうやらその主人公『クラリス・ウォルター』に転生したようだ。大方のストーリーとしてはド田舎の弱小貴族令のクラリス・ウォルターはとても勤勉な少女であったために15歳になった年、国の最高峰の教育機関である3年制の国立学園に入学する。そこで出会う高貴な身分のイケメン達に出逢い、恋をして、結ばれ、そして幸せに暮らしましたとさ……といった乙ゲにはよくあるテンプレシンデレラストーリーといったところ。捻りは少ない分シンプルな大筋だったが逆にそれが良いと話題になったのだ。


攻略対象は5人。

まず1人目はこの国の第2王子、エリオット・ヘスリア。乙ゲのぶっ飛んだ世界でない限り貧乏子爵家とは結ばれる以前に一生お話することもないと思われるお方。金髪翠眼の完全無欠のThe・王子である。物腰は柔らかなメインヒーローだ。

次に2人目、紺髪赤眼の兄貴肌なジーン・メイウェザー。彼はクラリスの父方の従兄弟でメイウェザー侯爵家次期当主である。従兄弟とは言ってもクラリスのウォルター貧乏子爵家とは違い、きちんとした高貴なお家なのだ。彼とは面識がある。とても優しいステキなお兄様だ。

3人目はカイル・マーヴィン。マーヴィン公爵家の次男で、銀髪紫眼。子爵家とは程遠い身分の高貴なる公爵家様だけど彼の家の領地と私の家の領地が近く、また、父が彼の父と学生時代仲がよかったのもあって彼とは幼馴染だ。ツンデレ系なのがオタク心をくすぐる。

4人目はウィリアム・モートン。女装趣味持ちモートン伯爵家5男、菫髪桃眼。 最近はオタクコンテンツでオネエ枠・女装枠がある事が多いが、彼はこの女装枠に当てはまる。が、しかし、彼が美を追求した結果女装という形に落ち着いたというだけなので、あくまで彼の趣味の一環という設定だ。

最後に5人目の、ロイ・ブラスタ。赤髪銀目のクール系の留学生として来ている隣国の第1王子。面倒事が嫌いで省エネ主義。なんだかんだでコンテンツ内で一番人気があったのは彼だ。私は箱推しだったために特に気にはしなかったが。


長くなってしまったが、この乙ゲの基本事項は以上。まぁ他にもサポートキャラやライバルキャラも居なくもないが、ここで説明するとさらに頭がごちゃつくので順を追って思い出そうと思う。幸いなことに前世の私自身の記憶は曖昧だけれどゲームに関しての記憶はハッキリと思い出せる。


問題は、これからの事ね。


でも、せっかくヒロインに生まれ変わったんだもの。やることは決まっている。


「イケメンを!!眺めたい!!!!」


自室とはいえここで大声を出すと外にいる使用人が入ってきてしまうので、実際には小声で叫んだ。

まずは勉強をしよう。学園に入らなければ話は始まらない。2次元の世界に転生だなんて、オタクの本望。大好きだったキャラ達を眺めずに一生を過ごすなんて、誰が出来ようか。こんなチャンス、二度とない。

前世に未練がないと言えば嘘になるが、前世の記憶が乙ゲについて以外曖昧な今、前世を嘆いてる暇はない。今世を存分に楽しんで、今度こそ寿命ギリギリまで生きてやるのだ。

人知れず気合を入れた私は、早速勉強をするために公立の図書館へと向かおうとして……普通に部屋の外に待機していた使用人たちにベッドへと強制連行された。

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