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OPENING.すべてのことには裏がある。

異世界転生、という言葉を御存じだろうか。


そう聞かれたとき、きっとたいていの人は「知ってるよ、最近よく見るよね」と答えるだろう。冴えない高校生がトラックやら電車にはねられたりして死んだらゴブリンやら妖精やらエルフやらがやたらといるファンタジィな世界に転生してパイオツカイデ―(まあ例外もそれなりにいるが)なヒロインとイチャコラしているうちに世界を救うあれだ。たいていの場合は前世の記憶やら出血大サービスとばかりに付与されたチートなスキルも持ってちゃったりする。「君、本当に冴えない高校生だったのかい?」「どうしてそんな都合よくそんな知識持ってるの?」「というかなんで転生先そんな未開の地なの?」という突込みは野暮なのだ。ご都合主義上等、面白ければすべてよしなのである。


とまあ、なんとも偏見に満ち溢れた言葉だと不服に思う人間もいるだろうが大目に見てほしい。一応断っておくが異世界転生を馬鹿にするわけではない。読めば読者を爽快な気分にし、夢を与える立派なジャンルなのだ。今やその人気は異世界転生小説だけを対象とした小説のコンテストが開かれるなど、衰えることを知らない。


しかし───しかしだ。すべてのことには裏があるというのが世の中の理だ。光があれば影もある。桜の木の下には死体が埋まっているかもしれないし、美しい富士山の麓はゴミだらけかもしれない。分かりにくいたとえなら申し訳ない。もっと身近なところで言えば、どんな美女にも欠点がある、というのに近いかもしれない。


そしてそんな世の中の理は、この異世界転生にも適用される。一応断っておくが、なにも物語終了後に主人公が殺される運命にあるとか、世界が滅びるとか、そういうわけではない。その点は安心してほしい。


異世界転生の裏───あるいは異世界転生の真実、とでもいおうか。それはズバリ『異世界転生は単なる物語上の話ではない』ということである。


異世界転生は実際の出来事なのだ。したがって上述した何やらパイオツカイデーなチャンネーがたくさんいるファンタジィな世界は実在するし、電車やらトラックにはねられた冴えない高校生は異世界に転生する。異世界は架空じゃないのだ。


ではどうして異世界転生が物語のジャンルの一つであり架空の出来事に過ぎないとされているのか。それを説明するにあたり、まずは異世界と人間界───いわゆる『異世界ではない世界』であり転生系主人公が前世で住んでいた「こちら側」の世界───との関係の歴史を簡単に振り返っていこうと思う。


ことの発端はとある異世界の地域からの要請だった。詳しい内容は割愛するがまあ要約すれば「過疎化 やべえ 婿 よこせ」である。聞けば異世界も少子高齢化に悩まされている地域は少なくないらしく、とりわけこの要請を出した地域は若い男性不足が深刻だった。


一方人間界、まあ「こちら側」の世界とでもいおうか、こちらはこちらで年々幸福度が著しく減少していた。とりわけ年若い男子は「こんな平凡な毎日は嫌だ」という思いを抱いている人間が多く、お偉いさんたちの悩みの種であった。


そこでお偉いさんたちは考えた。異世界と手を組めば、この問題は解決するのではないかと。古今東西、年若い少年は非日常にあこがれるものである。さっそくお偉いさんたちは異世界に掛け合った。その内容は要約するとこうである。


『いいでしょう、そちらに協力します。ただし条件があるのです。こちらの世界も年若い男子の多くが平凡な毎日を鬱屈とした気持ちで過ごしております。ですからどうか異世界の力を借りて、彼らを救ってほしいのです』


異世界側はそれを受け入れた。さっそく地域のなんか強面な悪役顔の住人に『悪いんだけど悪役やってくれない?』と頼み、街並みを「おれのかんがえた さいこうの ふぁんたじー」的な状態にした。そうして「ここで世界を救うっていう非日常を体験させて生きる希望を取り戻させよう、それでうちの地域の若い女と結婚させよう!」という作戦を考えたのである。


そう、勘の良い者たちはもう既に気づいたかもしれないが、異世界転生はいわば町おこしの企画なのである。夢が壊れたと思わないでほしい。現実はこんなもんである。


それから「こちら側」と異世界の協力体制の下、第一回異世界転生が行われた。企画は成功。この成功例を受け、数多くの異世界の地域が「こちら側」と同盟を結び、協力体制を結ぶ運びとなった。


そしてその過程で生まれた部署こそここ───外務省異世界局まちおこし推進部である。異世界の町おこしの企画を行う企画係から異世界に転生させるためにトラックやら電車で事故らせる実働部隊、果てはこの異世界転生を物語として執筆し『異世界転生』というジャンルの認知を広げる役割を担う広報係まで、とにかく異世界と関係するありとあらゆる業務の多くを担う部署である。ちなみに「異世界転生の認知っている?」とお思いの方、それは大きな間違いである。「異世界転生」というジャンルが認知されているからこそ、異世界転生ものの主人公はそれほど混乱せずに「あ、俺転生したわ」といった感じに自分の身に降りかかった出来事を受け止めることが出来るのだ。ついでに出版された小説やそのメディアミックスの売り上げはこの部署の運営費に充てられる。だからどんどん異世界転生の物語に関するコンテンツに金を落としてほしい。金は天下の回り物だ。


実は転生者は一度この部署に運ばれ、簡単な説明を受けた後、なんかチートな感じの能力を与えられたりする。ちなみにこの際の記憶は消されるが異世界の不思議な魔法を使って「どう振舞えばいいか」は無意識のうちに覚えているように設定されている。どんな魔法なのかという答えはとてつもなく長くなるのであまり深く考えず「魔法の力ってスゲー!」と思っていただけると幸いだ。




───もう一度言う。異世界転生は実際の出来事だ。ただ実際のところその目的は世界を救う救世主を求めているわけではなく、町おこし企画だったりするだけである。そして異世界転生は、外務省異世界局まちおこし推進部転生課の働きなしでは成り立たない。この部署に属する者たちのたゆまぬ努力の結果、異世界転生は成り立つのだ。表舞台に出る仕事ではないが、彼らは自分の仕事にとても誇りをもって働いている。


だから彼らは、この部署の存在を耳にした者たちに対し、きっとドスのきいた笑顔でこう言うだろう。


「未経験者大歓迎、アットホームな職場です!実力主義で若手を抜擢、やりがいのあるお仕事です!あなたも是非働きませんか?」と。






───これは異世界転生の裏側で暗躍する者たちの、笑いあり、涙あり、血反吐ありの日常のお話である。

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