1.Beginning of end (終わりの始まり)
とある一国の王城。
その中の一つの部屋――会議の間で、短めの金髪をオールバックにしている一人の初老の男が、入り口を正面に据えた席に、深々と座っている。
彼はオディト王国という最古の歴史を持つ国の現国王。今は他国から来訪する王や、国を纏める長たちがこの場に集まるのを静かに待っている。彼の瞳は閉じられており、腕を組むその姿は隙だらけなはずなのに、誰も寄せ付けない雰囲気を放っている。
同じ部屋の中には、執事服を着た既に還暦を迎えたであろう白髪の男性を筆頭に、メイド服姿の給仕係が壁際に控えていた。物音一つしないその部屋は、ある種の不気味さを感じさせる。
静謐だったその部屋は、にわかに騒がしくなった部屋の外の音が良く聞こえた。外から聞こえてくるのは、足音と話し声だ。それらは一旦部屋の前で止まると、今度は部屋の扉が開く。これからくる人物に挨拶をするために、初老の男性は碧眼を晒す。
豪華な装飾が為された重厚な扉は、両開きで二人の騎士団員によって開かれた。外から入ってきたのは、二名の王とその護衛五名。二人は部屋に入ると同時に、スッとスイッチを切り替える。この瞬間から、個人ではなく国と言う集団を考える王となった。
「お初にお目にかかります。オディト王国国王、プロディ・ティーネ・オディト様。私はパーチュム公国国王、カイタ・スレアと申します」
天然の素材を活かした服と、同じく天然の素材で編まれた羽の刺さっているカンカン帽を被った、深緑色の髪を持つ男性が、その帽子を脱いで丁寧な挨拶をした。彼の国は自然と共存することで有名なパーチュム公国の国王だ。
公国は他国と比べ少し特殊な国だが、カイタが上手く纏めている。因みに、カイタ自身は人類の中でもトップの実力者だ。流石に表立って戦うことはないが、未だその実力は衰えていない。それは、油断なく周囲を観察しているその瞳が雄弁に物語っていた。
「お久しぶりでございます、プロディ様。本日は有意義な時間にしましょう」
カイタに続き挨拶をしたのは、何度か顔を合わせたことのある隣国のメンセ連合国の代表、フット・ターナだ。少し太っており、服装や体型などの見た目から、悪役の噛ませキャラを連想させやすいが、国のことを一心に考える、母国愛の強い優しい人物だ。
「ご足労感謝する。カイタ・スレア様、フット様。好きな席に腰掛けてくれ」
そんな二人の挨拶に一言返し、この国――オディト王国の王、プロディ・ティーネ・オディトは長旅で疲れたであろう二人に、席に座ることを促す。
二人はそれを受け、プロディの左の席にフットが、その更に左にカイタが並んで座った。フットには護衛が三名、カイタには二名の護衛が、王の座る席の後ろに控えている。
給仕のメイドが、王とその護衛にお茶を出す。あるのは、お茶を出す際に出る僅かな音と、それを呑む時の音だけで、意図的なものは何一つなかった。
茶を出し終えた頃に、再び扉の方がざわつく。その後、開かれた扉から現れたのは、純白のフォーマルドレスを着た、陽光を反射するアッシュブロンドの髪を腰まで流した美麗な若い女性だった。傍には、こちらも純白の鎧を身に纏う護衛が一人付き添っていた。
「トゥラスティ神聖国、教皇クルミア・リースティアと申します。お初にお目にかかります。カイタ様、フット様、プロディ様」
見惚れるような美しさを持つ彼女が、それを昇華させるような作法で挨拶をする。護衛は教皇の言葉に合わせ、頭を下げる。それに座っている三人は、それぞれで応え、プロディが席へと促す。
クルミアは、プロディの右隣へと腰掛けた。護衛はほぼ真横の右後ろで目を瞑り待機している。出されたお茶を飲む様も、思わず見入ってしまうほどだった。
そこから十数分後。会議の間の扉が開かれた。
入ってきたのは、ラフな格好に乱雑に切られた茶髪を揺らす、とても王とは思えない姿をした男性だ。
「お初にお目にかかります。……だったか? 俺……じゃなくて、私がメリト帝国の――あーもういいや。俺が帝国の王、ソラル・システマだ。よろしく頼む」
最初こそ頑張ってはいたが、面倒くさくなったのか、途中から乱雑な物言いになる。これが彼の素だ。武力こそ絶対の帝国では、作法なんてものはあまり関係が無い。その国の王ともなれば、作法など気にする必要もないのが日常なのだ。
強者こそ絶対。弱肉強食。それらの言葉が相応しいのが彼の治める国の姿なのだ。それを他国まで持ってくるのはおかしいが、今回はことがことなので、問題にはしない。
因みに護衛はいなかった。彼自身が人類で一位二位を争う剣の使い手なので、要らないと判断したのだろう。どこまでも常識に囚われない男だった。
教皇の隣に座ると、出された茶を一煽りして飲み干す。相当喉が渇いていたのか、おかわりまで頼んでいた。そんな自由さを気にも留めず、最後の一席に座る王を待つ。
ソラルが会議の間に到着してから、一時間が経過した。長いこと待たされている王達は、少し苛立ちを覚えている者もいた。
だがそれを声に出すことはない。何故なら、最後の一席の王がここに来なければ、会議が進まず、またその任は彼にしかできないことなのだから。
それに彼がひたむきで一生懸命なのは、ここにいる誰もが知っている。彼の国の王となった者は、どこに行っても、誰と会っても、彼の治める国の建国者と比較される。今代の彼は、建国者には劣るが、その必死さと結果が出ているので、かなり高い信頼を得ている。
故に、誰も文句を言わずに待っているのだ。
そんな頃、今までで一番、扉の向こうが騒がしくなった。忙しない足音がバタバタと聞こえている。扉が開かれると、そのには息を切らし、肩で息をする青年の姿があった。
彼は人魔大戦後に、初代勇者が建国した国――トゥラスピース共和国を纏める大統領、コージ・クラウチだ。歴史は一番浅いが、初代勇者が伝えたとされる技術力を持って、僅か一代で技術大国へと進展している国だ。
彼の国の特徴である黒髪が、慌てていたからか少し乱れている。だがそんな些事を気にした様子もなく、彼は謝罪の言葉を述べる。
「おっ、遅れて申し訳ございません!」
「いや、構わないとも。コージ殿。疲れているところ悪いが、早速報告をしてくれ」
「……っはい!」
給仕係からお茶を貰い、コージは息を整えながらそれを一息で飲み干すと、まだ整っていない呼吸を無視して、一緒に持ってきた書状を広げて報告をした。
「ではっ、報告させていただきます。魔人の住まうドゥオ大陸にて、魔王が誕生しました。今回集まってもらったのは他でもない。一年以内に来るであろう魔王と、魔王率いる魔人軍の侵略にどう対抗するか、です」
“魔王”
不定期だが魔人の意思を乗っ取り、人間の住まうウーヌム大陸を我が物にしようと侵略をしてくる邪悪な存在。
その実態は全く分かっていないが、魔王が誕生すると半年以降、一年以内に魔人を引き連れて人間族と戦争を起こす。
今まで行われた魔人との戦争――人魔大戦は九回で、今回の魔王誕生で十回目となる。
今までの大戦は、全て人類側が勝利を収めてきたが、どの大戦の文書を読んでも快勝なんてものは一度もなく、全て多大な人的被害を被ってきた。
人間と魔人では、能力に圧倒的な差がある。例えば、この世界の大人の人間が平均で百メートルを十秒で走ったとしよう。人間の記録に対し、魔人は百メートルを、一番遅い大人でも八秒で走れるのだ。
他にも、人間側が垂直跳びを二メートル跳ぶとしたら、魔人は三メートルは跳ぶ。遠投を人間が五十メートル投げるなら、魔人は八十メートルは投げる――と、これほどまでに能力的に格差があった。
これだけの能力差がありながら、人間が勝ち続けてこられたのは、人間の方が数に有利があったことと、魔人が連携を取らなかったこと、そしてなにより魔王に対し、人間側には勇者と呼ばれる存在が居たことが大きかった。
勇者は最初の人魔大戦時、力なく負けそうになった人間の意思が生み出した、魔人を上回る力を持つ、一種のイレギュラー的存在。
神が人間を救うために寄越した使いだ、と言う説を提唱する人もいる。取り敢えず、何がどうなって勇者が生まれたのかは分からないが、勇者が居たお陰で大戦に勝利することが出来ていた。
この世界の勇者は、初代から一部の力を受け継ぎ二代目へ、二代目が蓄えた力の一部を三代目へ、と言った感じに、年々力を増していくのが、勇者なのだ。伝説の剣を抜けば勇者! なんてことはなく、その代の勇者に見初められた者に、勇者と言う最強の“職”は継承されていく。
ただし勇者も絶対ではないし、強いとはいえあくまで人間だ。魔人多数を相手取りながら、魔王と対峙するなんて主人公も真っ青な芸当は、流石にできない。なので人間は軍を組織し、頭を使った連携で魔人と戦う。
勇者が魔王との対決に集中できるように、力でゴリ押してくる魔人と知恵で渡り合ってきたのだ。だが――
「長からの情報によると、今回の魔王は前回の魔王より強力な個体で、それに準ずる力を持つ魔人が少なくとも四体は確認されているそうです」
「魔王に次ぐ実力を持つ魔人が四体も!? それは真かっ!?」
「はい。長はそう言っておられました」
コージの続けた発言に、フットが驚いた声を上げる。魔王と対峙できるのは勇者だけで、ただの人間では到底太刀打ちできない。一般の魔人でさえ、複数人で相手取らなければ瞬殺されてしまうのに、それを上回る魔人など、人間の手におえるものではなかった。
コージの言った“長”とは、人間の活動範囲であるウーヌム大陸の近くにあるテリブス島に住む、人間と同盟を結んでいる他種族、吸血鬼族の王のことだ。
そしてこの同盟を結んだのが、トゥラスピース共和国の初代大統領(=初代勇者)なのだ。初代大統領は、定期的に人間の血――正確には人間を送り、それと引き換えに様々な情報をリークしてもらっている。
実際のところ、摂取する血は人間のものでなくともいいらしいが、他の動物や種族よりも、人間の血の方が遥かに美味しいらしい。
吸血鬼の住む島に送る人間は二種類居り、一種類目が永久的に吸血鬼の住まう島に送られる人間。これらに抜擢されるのは、犯罪を犯し死刑になる人間が主だ。そして二種類目が、ある一定の期間だけ送られる場合だ。
二種類目に分類されるのは、軽犯罪を犯した人間や、国から選ばれた人間。吸血鬼族との交易は、基本的に一ヶ月に一回で行われ、その交易で人間の入れ替えが行われる。
因みに吸血鬼族に血を吸われたからと言って、吸われた人間が吸血鬼化する、ということはない。しようと思えば出来るらしいのだが、それをすれば人間の身体が耐えられないと、初代大統領が遺した文献にあった。
吸血鬼になったメリットととして、人間なら動けないレベルの傷の再生や、長寿であること、魔力の量が魔人より高いことなどが挙げられる。だがその反面、デメリットも大きい。それは太陽に限りなく弱いこと。
吸血鬼族は昼間でも生活するために受け継いできた“陽光軽減魔法”があるので、ある程度昼間でも活動できるが、それが無ければ一分と太陽の下に出ることは出来ない。また“陽光軽減魔法”を使っていても、あくまで軽減なので、長時間は外にいることが出来ない。
元が人間であれば、それはかなり厳しいだろう。そして吸血鬼族は、“陽光軽減魔法”の所為で、白髪や銀髪しかいない。瞳は殆どが紅眼なので、人間のように遠目から判別するのが難しい種族でもある。
そんな吸血鬼族には、始祖の吸血鬼から伝えられ続けてきた空間把握能力があり、それを行使して遠い地にいる魔王の誕生を知ることが出来るのだ。
吸血鬼族が嘘を吐くことはない。そもそも嘘を吐けば、人間が滅んでしまい、吸血鬼は美味しい血を摂取することが出来なくなってしまう。となれば、コージの言った言葉は真実ということだ。
「これらのことも踏まえた上で、この会議を進めていきたいと思います」
コージは、ようやく落ち着いた声でそう言うと周りを見渡した。すると、ソラルが手を挙げる。視線でどうぞと伝えると、彼はおもむろに口を開いた。
「今代の勇者だがよ。あれは頼れないよ思った方が良いぞ」
「……それはどういう意味か教えて頂けますか?」
ソラルの唐突な言葉に、カイタはその真意を問いただす。ソラルは面倒くさそうな表情になるが、必要なことなので説明を始めた。
「今代は、この世界を守る為に魔王を倒す、なんてことはしないってことだ。あいつは自分の為にしか、その力を使ってないからな」
「その物言いからするに、勇者に会ったことがあるのですか?」
「帝国に一度だけ来たんだが、そん時に色々話を聞かせて貰った」
勇者と言う存在は、基本的に人前には出てこない。
人前に出ればその知名度からそれだけで時間を取られ、いつ訪れるか分からない“魔王に勝つ”という勇者に課せられた使命を果たすための努力が出来なくなる可能性が高いからだ。
だから勇者は滅多に人前に出ず、出ていたとしても身分を隠している為に、出会えたことがある人は、国王でも少なかったのだ。
自然とソラルの話に集中する。
「あいつはあの時、『今魔王が攻めてきたとしても、俺はそれに参加できない。少なくとも、俺の目標が達せられるまでは』って、言ってたな。その目標とやらは教えてくれなかったが、取り敢えず勇者が参加するには目標を達成するまで待たねばならんらしい」
「その勇者の掲げた目標は、人魔大戦前までに終わりそうなものなのですか?」
「それはないだろう。あいつが先代から勇者の力を授かる前からその目標を達成しようと頑張っているらしいからな」
ソラルの言った、勇者が戦争に参加できない理由に、王達はにわかにざわついた。だが人類最大の切り札である勇者の不参加と言う、最悪の可能性で終わらせたくはないカイタが、一縷の希望を託してソラルに質問をした。
その最悪の可能性を信じたくなかったのは、他の王も同じようで、皆一様にソラルの返答を待つ。しかし帰ってきた答えは、かなり良くないものだった。
プロディは目を伏せ、フットは額に手を当て、カイタは頭を振り、クルミアは残念そうに顔を伏せ、コージは驚きで目を見開いていた。
先代勇者が今代の勇者にその力を授けたのは、十一年前だ。幼い子供を集め、適性のある者に勇者としての力の譲渡を行った。勇者が鞍替えした際には、元勇者がそれを各国に明かすようになっているから、これは確実だ。
それより前から掲げていた目標となると、かなり長い年数になる。少なく見積もって十一年もの間達成できていなかった目標を、あと半年以内に達成するなんてことは、なかなかに低い可能性だろう。
それが分かったから、王達はそれぞれよくない反応をしたのだ。このままでは、魔王に対する手札が無くなる。勇者は人類を救うからこそ勇者なのであって、それをしないのはただ力を持つだけの一般人と何ら変わらない。
こればっかりは、勇者の人選がものを言うので、王達は内心先代勇者を恨めしく思う。先代勇者が何処にいるかは分からないので、その文句は内心に留めることしかできないが。
ともあれ、会議は勇者不参加の言葉で停滞した。
魔王に対抗する戦力が無い現状、人間側に勝ち目は殆どない。強いて言えば、人類最強と名高い帝国の王と、それに匹敵するかもと言われている王国の騎士団長が力を合わせればあるいは、と言う程度だが、確実ではないので期待は出来ない。
それに今回の魔王は、前回の魔王よりも強力だと言う。そんな相手に、勇者ではない人間が対抗できるかどうかすら危うかった。前回の魔王は、勇者の代替わり直後だったこともあり、先々代勇者と相打ちとなる形で決着したが、先々代の勇者が弱かったわけではないので、魔王の実力もそれ相応のものだと推測できる。
因みに勇者が代替わりする前に死亡してしまった場合は、死亡した勇者の意思が提示した条件を満たした者に譲渡される。その場合は力の譲渡が無いので、戦力的にはかなり落ちるが、それでも人間よりは強い。
軽く絶望に晒され、発言が止まる。このままではせっかく対抗策を考えるために集まったのに、その意味が無くなってしまう。
出た案としては、ここ最近台頭してきた“漆黒の戦乙女”と呼ばれた冒険者を頼ることであったり、名を馳せている冒険者や傭兵などを呼び集めるなどだったが、これらは不可能だと判断された。
冒険者や傭兵と言うのは、自分の命を懸けて金を稼ぐ職業だ。故に、命を失う確率が高いと分かっている戦いに、自ら身を投じるほどお人好しではない。
やはり光明の見える案は出ずに、このままでは今回の戦争に負けてしまうと言い難い不安に苛まれたコージは、何でもいいから会議に戻せるような発言をしようとした。
だが、その前に教皇のクルミアが手を挙げ、注目を集めた。
その視線を受け、進行役となっていたコージが「どうぞ」と慌てた様子で発言を促す。クルミアはありがとうと妖艶な笑みと共に、感謝の言葉を述べる。
「確実ではありませんが、一つ提案がございます」
その発言に、周りの王達の目が少し輝く。コージに良いですか? と視線で確認を取ってくるクルミアに頷くことで肯定すると、クルミアは提言する。
「異世界から人を喚ぶ、と言うの如何でしょう?」
「異世界から人を……? どういうことか説明して頂けますか?」
クルミアの言った言葉の意味が分からなかったのか、フットが訊ねる。クルミアはさも当然と言わん表情で頷き、ま説明を始めた。
「まず、この話は私がある一人の“転生者”と呑んでいた際に聞いた話です」
転生者とは、前世の知識や記憶を持った状態で、改めて赤子として生まれた人間のことを指す。例えそれが、別世界の人間の記憶だったとしても、だ。
転生者は、生まれた時から膨大な知識量を有するため、少し他の人間とは異なる成長を果たす。主に、身体的な能力が高かったり、知能が高かったりなどがある。
現在、確認されている転生者は三名で、常人より能力の高い転生者が戦争に参加できないのか? と言う質問が無いのは、今いる転生者が全て、戦闘に向かない非戦闘職だからだ。
非戦闘職は、戦闘職と違い、戦闘に関する技能の発動や、魔法の使用などに制限が掛かる。その制限を無視してまで、わざわざ戦おうとはしないのが普通だ。なんせ、その制限があるだけで、非戦闘職の転生者が、一般人の戦闘職に負けるのだから。
説明の前に、そう前置きしたクルミアは、王達の表情を窺うと本題の説明に入った。
「彼は、こう言っていました。『もし人間に不利な状況になったら、俺の居た世界から人を喚べばいいんだよぉ。その手の話じゃあ、喚んだ奴らは皆強力な力を持っているらしいぜぇ』」
「その話は、信じられるのですか?」
「少なくとも一考する余地はあるかと思います。彼は異世界の出身だと言っておられたのですが、その証明として、新しい武器の作成法を提示してくれました。まだ未完成ですが、戦争に間に合えばそれだけで軍の人間の強化もできるでしょう」
クルミアの言葉に、王達の瞳に輝きが戻る。異世界から強力な人間を喚び、その新しい武器の開発に力を注げば、勇者が居なくとも勝てる可能性が出てくる。
今回の戦争にも勝てる可能性が出てきたのだから、表情が明るくなるのも納得できる。王とは言え、彼らも人間だ。それらの表情を他人へ見せる見せないは別として、何らおかしくない。
勢いが乗ってきた会議の間とその内容に、水を差す者が現れる。
「待ってください! その意見には反対です!」
クルミアの提案に反対の声を上げたのはコージだ。
勢いよく立ち上がり、机に両手をバンッと叩きつけ声を張り上げる。滅多に声を荒げないコージの珍しい姿とその雰囲気に、一瞬呑まれそうになったが、コージが何をしたのか気がつき、すみませんと謝罪する。
コージが落ち着いたのを確認して、プロディが皆の意見を代弁する形で尋ねる。
「何故反対なのか、理由を説明をして貰っても良いかな?」
「はい。まず、異世界から人を召喚すると言う話ですが、それらを実現する魔法がないことが一つ。次に、異世界から人を喚んだとして、その人にもその人なりの生活があるだろうということです。いきなり別の世界に喚ばれ、魔人を倒してくれなんて、おかしいと思ったからです。そして最後ですが、本当に喚んだ人達が強いのかどうか、分からないからです。もし人を喚んでおいて、その転生者の言う強力な力が無い人間だった場合はどうするのですか? 戦えない人間を喚んだところで戦力の増加にはなりませんし、その人を餓えさせるわけにはいきませんし、その魔法発動にもかなりの負担が術者には掛かると思います。そこまでのリスクを負って、召喚をするべきなのでしょうか?」
一方的に捲し立てたコージの言葉は、もっともな意見だった。誰もがその正論を前にして、反論が出来ない。だが一人だけ、正論ではないが間違っていない発言をした。
「確かに、コージ様の仰ることは尤もです。あくまで可能性があると言うだけで、確実なものではありませんし、人を喚ぶことに成功したからと言ってもその人が強いとも限らない」
「ならば――」
「――ですが、それをしなければ我々人間は今回の魔王の侵攻で滅ぶことになりますが、それについてはどうお考えですか?」
「それはッ……!」
反論をしたのはクルミアだった。肯定するような発言から一転し、コージに現実を叩きつける。その反論に答えることが出来ず、コージは押し黙る。
だが、ただ黙って言い包められるわけにはいかない。それをしてしまえば、トゥラスピース共和国の大統領に伝えられてきたことに背くことになるからだ。
「では、勇者様の目標の手助けを行い、人魔大戦までにそれを達成させると言うのは――」
「――その考えは、恐らく叶わないでしょう。まず第一に、勇者様を探すことが困難です。一つ一つの街を探し歩くのは、時間的に余裕がないでしょう。次に勇者様ですら時間のかかっている目標を、我々が手伝うことが、そもそも出来るのでしょうか?」
またしてもクルミアに反抗され、何も言えなくなる。勇者を探すのは時間的に難しく、例え見つけられてもその目標が達成できるかどうかは別問題なのだ。
頼れるかどうかが不明な勇者と、強力な力を持っている可能性のある人間の二択となれば、可能性が低くとも、少なからず希望が残っている異世界召喚に賭けたくなるのはおかしくないだろう。
コージは期待薄な瞳を周囲の王達へ向ける。そこにはコージの予想通り、異世界召喚に賛同しようとしている者が多数だった。少なくとも、コージが見たその瞳は、それを肯定するものだった。
もうこの結論は覆らない。それを悟ったからこそ、コージは口を開く。
「……分かりました。では最低限守って頂きたい条件があります」
コージの渋々と言った様子で出した言葉に、他の王達が耳を傾ける。視線が集まるが、それを気にせず頭の中で条件をリストアップしていく。
「まず、喚んだ人には必ず最高の待遇を行うこと。その為に、オディト王国での召喚を行ってください。次に、喚んだ人の要望には必ず応えること。その人が戦争に参加したくないと言ったのならば、戦争には参加させないでください」
「それでは喚んだ意味が無くなってしまうのではないか?」
「それでもです。喚んだのは異世界の人間であっても、一人の人間だ。同じ人間として扱うべきです」
確固とした意識の込められた発言に、王達は何も言えなくなる。ただの一言、「続けてくれ」としか言えなかった。
「それと、必ず元の世界に還す方法を見つけてから、その魔法を発動させてください。喚んで戦争に参加させて、はい終わり、では先ほど言った同じ人間として扱うことが出来ていないと思います。なので、最低限、これは守ってください。でなければ、私達トゥラスピース共和国は、今回の戦争にこれ以降関与しないつもりでいますので」
「それは、人間を裏切るということか!?」
「裏切るのではありません。見限るのです。この程度の約束も守れないようでは、大戦以降の時を共に生きていくことなんて出来ません」
コージの発言に、突っかかったフットを一蹴する。これは守らせるための虚言などではなく、コージが心から思う本心だ。その瞳に、迷いがないのは、その場にいた誰もが理解しただろう。
「分かった。私の責任で、それらを守らせると約束しよう」
「よろしくお願いします。プロディ・ティーネ・オディト様」
その後、色々なことを決めた。まず召喚するための魔方陣の作成から、召喚の提案をした転生者の招集に何人召喚するのか。そして魔法発動に必要になるであろう魔道士の招集などが決められた。
それが決まった直後に、王達はその情報をそれぞれの国に伝えるために会議の間を去っていった。プロディも大臣にそのことを話し、各国の魔道士の受け入れ態勢やら、喚んだ者達の世話をする者などの選別などの指示を出す。
そして給仕の者達にも、その選別の手伝いなどを指示した。お蔭で、会議の間に一人残される形となった。
だが都合が良いとばかりに、プロディは考える。それは、明らかに魔王誕生の周期が早まっていることだ。
文献に残っている歴史では、最初は魔王が再誕するまでに、四百年ほどの時を有していたのだ。それが今では六十八年しか経っていないのだ。このことに、他の王達が敢えて触れなかったその意図は分からない。
ただ出来るならば、この周期の早まりが気の所為であってくれるよう、神にそっと祈るのだった。
終盤までタイトル詐欺になるんで、タイトル変更を予定しています。
まだ目途も立っていませんが。




