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同じ大学のサークル仲間と飲み食いしているときに、一人が言った。
「今から例の心霊スポットに行こうぜ」
二年ほど前に殺人事件があった。
父親が仕事で不在のときに、家にいた母親と四歳の娘が殺されたのだ。
犯人は未だに見つからず、半ば迷宮入りとなっている事件だ。
そのあと父親は家を出てしまい、その後管理する人も現れずに、家はそのままとなっていた。
そう言ったいわくがあるところなので、嘘か誠かは不明だが「血まみれの母親の霊が出てくる」「夜になると首のない女の子が歩いている」などと言ったよくある噂が飛び交っていた。
この居酒屋から歩いてもそう遠くない街中に、そんな家があるのだ。
みなで、いいね、いいね、と言っていたら、峰元がそれをさえぎった。
「そんなところなんて、行かないほうがいいよ」
峰元はサークルにはあまり顔を出していなかったし、俺にとってはなんとなく近寄りがたい雰囲気があったのであまり話しをしたことがなかったのだが、なんでも強い霊感を持っていると評判の男だった。
「なに言ってんだよ、お前。のり悪いなあ」
「おもしろそうじゃないか。行こうぜ行こうぜ」
酒の力もあってか、みなそんな話は聞く耳を持っていなかった。
それでも峰元は何度も止めるように言っていたのだが、誰もしたがう者はいなかった。
「どうなっても知らないからね」
と言う言葉の後、峰元は何も言わなくなった。
峰元が口を閉ざすと、全員峰元との会話はなかったかのように、元気に件の家へと向かった。




