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遺体には布がかけられてあったが、覗く手は痛々しいもので、焼けただれたものや血にまみれた手が覗いていた。
ノアは一つ一つの遺体に花を手向け、膝をおり頭を垂れる。
「貴方がたを守る事が出来なかった事を、どうかお許しください。
そしてどうか、安らかに」
ノアはそう呟いて頭をあげる。
死者への言葉を済ませ、戻ろうと立ち上がった瞬間。
背後で誰かの気配がした。
「ノアは殊勝だねぇ。人間なんて死んだらそれっきりなのに」
ノアが勢いよく振り返ると、そこにはグレンデルの姿があった。
死神のような黒いローブをまとった彼は赤い髪を揺らして、誰かの墓に行儀悪く腰かけている。
「お兄ちゃ……!いえ、グレンデル……!」
「あれ?昔見たいにお兄ちゃんって呼んでくれないの?にしてもすごいなぁ、アーウァリティアまでやられちゃった。あの子はもう少し使えると思っていたのに」
グレンデルはくすくすと笑って墓から飛び降りる。
ノアはどこか恨めしげに彼を睨み付けるだけだった。
「貴方は、もう昔の貴方ではないのでしょう」
「うん、名前も捨てた。全部捨てた。今のボクはただの怪物さ」
そう語るグレンデルは楽しそうだった。
ノアはマフラーに手をかけ、警戒した様子で低く呟く。
「何をしに来たんですか。
また彼らのような犠牲者を出すために、法獣をけしかけにきたんですか。
どうして……、貴方は昔は優しかった!どうして禁忌なんて犯したんですか!」




