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方舟物語  作者: 狛ノ上緒都
方舟物語・第九章
65/167

8

遺体には布がかけられてあったが、覗く手は痛々しいもので、焼けただれたものや血にまみれた手が覗いていた。

ノアは一つ一つの遺体に花を手向け、膝をおり頭を垂れる。


「貴方がたを守る事が出来なかった事を、どうかお許しください。

そしてどうか、安らかに」


ノアはそう呟いて頭をあげる。

死者への言葉を済ませ、戻ろうと立ち上がった瞬間。

背後で誰かの気配がした。


「ノアは殊勝だねぇ。人間なんて死んだらそれっきりなのに」


ノアが勢いよく振り返ると、そこにはグレンデルの姿があった。

死神のような黒いローブをまとった彼は赤い髪を揺らして、誰かの墓に行儀悪く腰かけている。


「お兄ちゃ……!いえ、グレンデル……!」


「あれ?昔見たいにお兄ちゃんって呼んでくれないの?にしてもすごいなぁ、アーウァリティアまでやられちゃった。あの子はもう少し使えると思っていたのに」


グレンデルはくすくすと笑って墓から飛び降りる。

ノアはどこか恨めしげに彼を睨み付けるだけだった。


「貴方は、もう昔の貴方ではないのでしょう」


「うん、名前も捨てた。全部捨てた。今のボクはただの怪物さ」


そう語るグレンデルは楽しそうだった。

ノアはマフラーに手をかけ、警戒した様子で低く呟く。


「何をしに来たんですか。

また彼らのような犠牲者を出すために、法獣をけしかけにきたんですか。

どうして……、貴方は昔は優しかった!どうして禁忌なんて犯したんですか!」



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