強襲
路地裏を抜ければ、一気に街の喧騒に包まれる。
周囲には世話しなく歩く人々や、買い物をする女性、客の呼び込み。
花売りの少女と、全てが新鮮で初めて来る街だということを実感させるようだった。
ノアにとっての始まりの街"イニティウム"。
ここに、自分が求めている物があるかも知れないと思うと自然と胸が高鳴った。
ふと、ふわりとパンの焼ける良い香りが漂ってくる。
それと同時にノアの腹はきゅうっと切なく鳴るのだ。
「まずはご飯ですかね」
そう苦笑して、ノアは街の中を歩く。
石畳に、赤い屋根の家屋が立ち並ぶ街中を歩いていると、ふと先ほどのパンの焼ける良い香りのする店を見つけた。
喫茶店とパン屋を兼業しており、ノアは迷うこと無くその店に入る。
適当なメニューを注文して、ノアは店のテラス席に座る。
紅茶を飲みつつ、注文したランチが届くまで静かに過ごしていると、目の前にノアと同い年か年下の少年がやって来た。
「こんにちは、お姉さん」
目の前の黒髪赤眼の少年は黒いコートを身に纏い、どこか裏のありそうな不敵な笑みを見せていた。
ノアはすぐにその少年が"人間ではない"ことを察する。
「こんにちは、"リュウの民"さん」
リュウの民。それは祖は竜とされる人竜種だ。
リュウの民は全員猫の様な縦長の瞳孔の目を持ち、毛先は血の様に赤いという特徴を持つ。