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──悪こそ斬れど正きは斬れぬ。
我が力の一端を注いだその刃で、ニアクを討つのだ。
アオンは首を縦には触れずにいた。
ぐっと歯を食い縛り、一人の女の命か、敬愛する親兄弟達。
秤にのせるには、あまりにも不平等だった。
アオンはマフラーを手に取り、ニアクを殺すことを覚悟する。
ナイフはマフラーとしてニアクの目を欺き、そして──。
アオンは、ニアクを殺した。
周囲の人間は魔女狩りの巫子だと、英雄だと彼を持て囃したが、彼のしたことは所詮人殺しで、アオンは冷たくなったニアクの身体を抱いて泣き続けた。
破壊出来なかったグレンデルだけが、嘲笑うように紅く輝いていた。
──ああ神よ、どうしてこのような酷い仕打ちを強いるのです。
彼女はただ幸せを願っただけではありませんか。
アオンの前に神が舞い降りる。
──人間は皆幸せを望む。
幸せを望むからといって誰かを傷つける事が許されようものか。
押し潰されそうな低い声にアオンはぐっと黙るしかなかった。
──アオンよ、お前はその刃、ハコブネに宿りし力を使えなかった。
お前はただの人殺しとなるしかなかったのだ。
アオンは冷たくなったニアクを抱いたまま、つうっと涙を溢す。アオンには、その言葉が理解できなかった。
──お前にひとつ使命を与えよう。
ハコブネを用い、グレンデルを永劫封じ続けよ。
ハコブネの巫子として、グレンデルを護れ。
──我はお前の力として、グレンデルを共に守りし武具、法具を創ろう。
もうお前が孤独に戦わぬ日が来ぬように、二度とニアクの様な人間が現れぬ事を願って──。
神はそう言い残すと天へと還られた。
それから神は天に還ってもなお法具を創り続けハコブネのその力はニアクの想い、グレンデルの守護の力として存在し続け、永劫に、グレンデルは封印され続けるのであった。
第七章「古の物語」終了




