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先ほどとは打って変わって、男はどこか怯えた様子で少女を見上げる。
情けないことにかたかたと震えていた。
「すみません。少し驚かせるつもりだったのですが、やり過ぎましたね」
少女はナイフをマフラーに戻し、自身の首に巻き直す。
男に目線を合わせるようにしゃがんで、にこりと可愛らしく微笑んだ。
「あ、あ、あんた、もしかして今のは"法具"か!?」
狼狽える男の口から法具という言葉が漏れた。
──法具。
普段は衣服や身につける物の姿を取っているが、主がひとたび振るおうとすればたちまちその姿を武器へと変貌させる特殊な武器だ。
法具一つ一つに特殊な能力が備わっている強力な武器でもあるが、法具は使い手を選び、またそれを扱う者は"法具士"と呼ばれた。
「ええ、そうです。さぁ、私の法具の能力はどんなものでしょうね」
少女は脅すように男に詰め寄った。男の表情は少しずつ恐れを孕み、かたかたと震えていた。
「す、すみません!まさか法具士相手だったとは!
そんな奴に勝てる訳がねぇ、頼む!見逃してくれ!」
情けないのか潔いのか、男はその場で頭を伏せた。
こんな場を見られたくないので、少女は辺りに目を這わす。
人の気配はない。少女は安心して目の前の男に笑いかけた。
「ええ、お互い何もなかった事に致しましょう。
ただし、もうこんな事はお辞めくださいね」
少女は立ち上がってトランクを持つ。
踵を返して路地を抜けようとすると、背後から大きな声を投げ掛けられる。