死の世界
この地は、交通の要所ということもあって
色々な種族で賑わっている。
先ずは、冒険者ギルドを目指すことにしたフェン
突然エルフの女性に声をかけられるだったのだが・・・。
冒険者ギルドへ向かう途中
「ちょっとそこのキミ!そうキミ!!」
と女性に声をかけられた
顔立ちが整っていて耳が長い。エルフ族だ・・・
物珍しそうに見ていると
「冒険者っぽい格好してるけど、キミ冒険者でしょ?」
と勝手に話を進めている。
知らない土地で、変な奴に関わって
トラブルに巻き込まれるのはごめんなので
関わらないよう、「違います。」と話を切って
逃げるようにその場を立ち去った。
アテもないため広場へ向かおうとしたが
広場へ向かう区画の前で衛兵に止められた。
一瞬焦ったが、お尋ね者という訳ではなく
国外の人間は許可証がなければ
港から先の区画には入れないらしい。
大人しく冒険者ギルドの道を聞き、ギルドへと足を運んだ。
ここにいた男は、背の低いがっしりした体格で
立派な髭をたくわえている。ドワーフ族だ!
流石、王都というだけはあって
色々な種族が集まっている。
さっきの衛兵は人間だったな・・・
などと考えていると
「冒険者ギルドに登録するには試験を受けてもらう必要がある。
ただ、【魔法消失事件】で人手が足りなくてね。
現在は、レシェというエルフの女性が
案内を担当している、普段はその辺にいるんだが
試験を受ける気があるなら探してみてくれ。」
とそのドワーフは言った。
典型的なたらい回しの洗礼を受けながら、そのエルフを探す。
きっとさっきのエルフだろう・・・
背格好がわかっているので、すぐに見つけることができた。
「あっ!さっきのキミ!やっぱり冒険者だったんじゃない。」
よく覚えていたものだ。
遠目から見ても冒険者らしい人に声を掛けまくっていたのに・・・凄い記憶力である。
ギルドの登録について
さっきと全く同じ説明を聞き、試験の場所を教えてもらった。
試練場の中に入ると案内人がおり手続きを行なっているようだ。
近づいた瞬間案内人が「あっ」っと叫んだ。
その瞬間!案内人の上に水が降り注いだ。
このように試験場には、罠が張り巡らされているらしい。
また、その試験を受ける前に
この地方独特の神「アヴル」への洗礼を受け
信仰を捧げなければならないという。
神官でないかぎり教義などは特に気にしなくて良い。
他の神を信仰をしていても一向に構わない。らしい・・・
おまじないみたいなものだそうだ。
ただ、信仰の証としてお金を捧げる必要があるらしい。
いろいろ大丈夫だろうか・・・
アヴル神の洗礼は無料ということなので
洗礼を受け試練場の奥へ歩みを進める。
何度か盗賊団の仕事を手伝っていたので
モンスターと渡り合うのは初めてではない。
その場にいたモンスターも動く死体。
つまりアンデットだ、しかも殆ど知能も無く
動きの遅い初級アンデットのゾンビである。
剣に覚えがあれば、苦戦すらしないであろう。
アンデットの中には、龍の骨を地面に蒔き
魔法を掛けて生み出すもの、いくつもの死体をつなぎ合わせ
沢山の腕や、あり得ない長身をしているものもいるらしい。
一度みてみたいが、遭遇するのは御免被りたいものだ。
そんなことを考えながらゾンビの動きを封じる。
その奥の部屋には
女性をかたどっているのだろうか、両腕のない何かの像があった。
その像に触れると蒼白い火が灯った。
これが洗礼の時に言っていた守護者の像か。
困った時はこれが役に立つらしいが何のことだろうか・・・
しばらく進むとそこには蜃気楼のようなモヤがかかっていた。
その奥に見える石板が試練の目的だろう。
念のためナイフを取り出し、モヤの先を斬りつけてみたが
それらしい手応えもない。
恐る恐る足を踏み入れて見る。
気がつくとモヤの少し手前に戻されいた。
原理はわからないが、不思議な力が働いているようだ
侵入者に危害を与える類のものでなくて良かった。
ひとまずこの先へ入る方法を探さなければ・・・
この部屋からは、通路がいくつか伸びているし
奥にある石版も怪しい。
そしてここから見える通路の先には小部屋があり
いかにもと言った感じの宝箱が置いてある。
なるほど、これに罠がついていて試験をしてるんだな・・・
罠を取り除くのは苦手だが、たかだか試験である。
どうせびっくり箱か何かの類だろう。
気楽に解錠を試みる・・・・
しかし、この考えがいけなかった。
直後、爆音と共に身体に激しい熱を感じた。
余の熱さに意識が途切れ、辺りを見回すとそこは、白黒の世界。
今までのジメジメした感じや
独特の臭い、周りの音なども無くなっていた。
足元をみると白黒の世界に、自分が横たわっていた。
「えっ・・」
この状況が飲み込めず、自分の手と地面に横たわる自分を
何度も見返した。
この動作を3回ぐらい繰り返し、何があったか思い返す。
確か、先ほどまで箱を開けようとしていたはずだ。
それが突然目の前が真っ赤になって
身体中に激しい熱を感じた。
そして今に至る。
考えれば考える程、一つの答えにしか行き当たらない・・・。
――今いるのは死者の世界――
つまり先ほどの箱を開けるのに失敗し
死んでしまったらしい。
まだ状況が飲み込めず呆然としていた。
これからどうしよう・・・。
あんなに必死になってここまできたのに
こんなにあっさり死んでしまった。
犬死どころではない、自分の為に犠牲になった人達に
どう顔向けしたら良いのだろう。
大体何故、冒険者ギルドに登録する程度の試験に
致死トラップがあるんだ!とだんだん腹が立ってきた。
こんなトラップがあるなら、何だかわからない像の話よりも
注意するように、説明すべきではないのだろうか。
守護者の像・・・
あれが何か聞いていないが
今、正に困った時なのではないだろうか?
これ以上事態が悪くなる事もないだろうと考え
そのまま守護者の像へ向かった。
白黒の世界に、蒼白い火だけがくっきりと燃えている。
色のない世界に、はっきりとした色があるのは何だか変な感じだ。
灯火に触れた途端、頭の中で声がした。
「確実な復活を望むならば、魂の対価を捧げよ」
目の前に天秤が浮かび上がり
球体に周りの景色が色付きで映し出されていた。
天秤はその球体側に傾いている。
球体に手を触れると、激しい光と共に身体が浮き上がる。
目を開けると先程と変わらない景色で
目の前には守護者の像があるだけだった。
ただ一つ違うことがある。
周りの色や臭いなどの感覚があるのだ
自分の顔に手を当ててみたり、頬をつねってみたり
感覚はいつも通りである。
何だこれは・・・。
さっきの結論が間違っていなければ生き返った事になる・・・。
また夢かと思い
守護者の像に優しく話しかけて見たり
思いついた適当な言葉を呪文の様に唱えてみたり
目覚めろ!と念じてみても、なにもなかった。
本当に箱を開けようとしていたのかも怪しかったので
先程の場所まで戻ると、箱はあいていた・・・。
中身を覗くと、箱の中には
「中身はお給料代わりに頂きました。レシェ」
と書かれている。
自分は一体なんの為に、霊界を彷徨ったのだろう・・・。
そして肝心の鍵となる物は、その辺の石版がスイッチになっていて
そのまま何の苦労もせず、モヤの奥の石板から証を手に入れた。
ギルドに戻ると、評価点などはなく
ただ証を持っていくだけでギルドに登録が出来た。
もう呆れて物も言えない・・・。
手続きを済ませると、急にお腹が減ってきた。
そう言えば昼御飯も食べていない。
すでに日が暮れ始めていたが、夕飯を食べるお金もない・・・。
仕方が無い、アレをするしかないか・・・。
そろそろ夕飯時という事もあり酒場も賑わい始めていた。
入口で時間を潰し、店内が混んで来たのを見計らって
何食わぬ顔で一つ空きのある長テーブルに腰掛けた。
後ろの席から、使用済みの皿を抜き取ると
さも自分が注文していたかのように
隣の席のパンの山から一つ頂き、向かいの席から芋を頂いた。
当然知り合いでもないし、交渉したわけでもない
見てない間に分けて貰っただけだ。
だがパンと芋で口が乾く。
ちょうど反対の隣の席には、山ネズミのスープが置かれている。
こいつはいい!!
ペロリと平らげ隙を見て皿を戻そうとした瞬間
腕を掴まれた。
同じ背丈で、鼻が尖っている。
自分と同じ小人族だ。
「チョット記憶にないんだが・・・。
あんた、オレが飯をおごってやる程の仲の知り合いだったか?
にしてもなんつう早食いだよ・・・」
残念なことに、口から尻尾が出ていて
食べていないとシラを切ることが出来なかった。
・・・まぁ尻尾が出ていなくてもダメそうではあるが。
そのまま酒場から、路地へ連れ出された。
衛兵に突き出される訳にはいかない。
こうなってしまってはもう手段はひとつだ!
「さて、勝手に注文していた料理を食べていたのは認めるが
金ならないぞ?あったら自分で頼んでるからな!!
夕飯の恨みで殺してもイイが
そんなことで衛兵に追い回されるのは、自分なら御免だが
どうするね?」
と開き直った。
「オイオイなんて言い草だよ、ひでえな・・・。
だがもう二つ程選択肢があるぜ」
呆れさせて見逃してもらおうと思ったが、そうもいかないようだ。
選択肢が2つ・・・?
衛兵の突き出す他に何かあるだろうか・・・。
「一つは、衛兵に突き出して、取り調べで半日丸々潰す選択だ。
どうせお前を突き出したところで
個人の食い物盗んだぐらいじゃ、厳重注意だけで数刻で釈放だ。
これじゃお前以外誰も得をしないからな。
もう一つの選択肢を選ばせてもらうよ。
今、巷を賑わしてる【魔法消失事件】
これを一緒に解決してもらうぜ!当然拒否権はない。
盗み食いしたのはお前だからな!下らない知恵回すより
さっさと用意して一緒に国の有名人になった方が早いぜ!!」
彼の言うこの場凌ぎの下らない知恵の方が
絶対に早いと思うが、丁度目的もなかった所だ
ここは一つ話に乗るとしよう。
だが、あくまでも対等の立場でである。
「選択権もなさそうなのでその話に乗ることにするよ・・・」
わざと肩をすくませてみせる。
「対等の立場でならの話だけどな!!理由は三つある。
まず一つ!人手が足りないのを手伝ってやるんだ
これで通報しない恩はチャラにさせてもらうよ!
二つ目は、その事件を解決するまでに
ギルドで討伐の依頼を受けたら、食い逃げした代金なんて
色を付けて返せる事。
そして最後に、たかだか食い逃げの罪滅ぼしで
命がけの仕事なんてバカらしいからな・・・・。」
盗人相手にこんな話を持ち掛けるなんて
騙すつもりがあるか人手が足りない証拠である。
金はないのは知っているはずだ。人身売買目的で騙すなら
もっと実入りがよくて、もっと規模の小さい手軽な話をするだろう。
「ははは全部お見通しか。気に入った。
オレはィシウ、北の小人族だ!よろしく。」
同じ種族ではあるが住んでいるところが違うため
訛りがあって小人語の名前がよく聞き取れなかった。
そんなに長い付き合いでもないだろうし
何となくで呼んでおこう・・・。
ィシウは用事があると言って
宿で落ち合おうと言ったまま、何処かに行ってしまった。
次回事件の詳細が明らかになります。